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団塊の世代の物語(9)

Japan In-depth / 2024年10月15日 23時0分

人は生きている以上、その一瞬々々を愉しむのでなければ、人生が存在しなくなってしまう。」





三津野はベッドから立ち上がってバスタオルを身にまとうと、





「これ、コーヒーを淹れる装置みたいだね。飲む?」





「飲む。淹れて。でもバスタオルは外して。ここからあなたを見ていたいから」





「いや、熱いお湯がでてくるから、そいつはご勘弁ください。」





コーヒーのタブレットを挿入しながら、三津野は話を続けた。





「その間、1985年のプラザ合意、1986年の半導体協定の後、日本でなにが起きたか?





円高不況対策としての金利の引き下げだ。そして、当然のように株と不動産のバブルが大発生した。





えらそうにそんなこと言っているけど、後になってから振り返って言うことだからね。誰もが善かれと思ってしたことであっても、とんでもないことになることがある。





バブルは崩壊した。株が1990年と不動産が1991年ころかな。あなたが良く知っている世界のことだよね。





なんともう32年前のことになる。」





デミタスのカップを二つ、両手にひとつづつ抱えて持ちながらベッドに戻った。





「デミタス用のコーヒ―豆を使用いたしました。」





「ありがとう。」





英子は毛布で胸を隠しながらベッドの上で起き上がった。三津野は自分のカップを支えながらその横に潜り込む。左のお尻が英子の右の腰に触れた。その感触を三津野は愉しみながら、自分の小さな白いカップに唇をつけた。





「戦後の日本型資本主義は敗北した。勝者は、前回と同じ、もちろんアメリカだ。





バブル崩壊は戦後の日本の安定した社会構造の崩壊でもあった。





でも、バブル崩壊の後、人々はミニバブルとかうそぶいていて、また良い時代が戻ってくると夢見ていた。おめでたい話だ。





でも、それも今から振り返って言えることだ。」





「そう。峰夫がそう繰り返していた。だから私は言ってやったの。『違う。今回は違う、っていうのはいい加減にしないと大やけどをすることになる。





底値でいいから、売れるものはなにもかも売り払ってしまいなさい』って、そう峰夫に言ってやった。





峰夫はばかじゃないから、そうしたわ。





それで助かった。買い手がミニバブルなんてたわごとを言っている間に私たちは逃げたの。」





私たち、という言葉を英子が使ったのが気になった。だが、気取られないように、





「すごいね。英子さん、あなたは凄腕だ。





そんなこと、ほとんど誰もできなかった。





あの時は政府からして、物事を正面から視ることはしなかった。不良資産20兆とか30兆とか言って誤魔化している間に、実は100兆だって、外資系の金融機関に言われてしまった。





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