米商務省、IPEFクリーン経済・公正な経済協定などの協定文案を公開（米国、タイ、日本、インド、ニュージーランド、韓国、シンガポール、ベトナム、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、オーストラリア、フィジー）

米国商務省は3月14日、同日に開催されたインド太平洋経済枠組み（IPEF）オンライン閣僚会合を終えて、クリーン経済および公正な経済、閣僚理事会の創設など運用体制に関する3つの協定文案を公開した。

IPEFは、インド太平洋地域における経済協力関係の深化を図る枠組みで、米国や日本を含む14カ国（注1）が参加している。2022年5月に米国ジョー・バイデン大統領の来日に合わせて立ち上げが発表され（2022年5月24日記事参照）、同時に、（1）貿易、（2）サプライチェーン、（3）クリーン経済、（4）公正な経済の4本柱で具体的な協議を行うとの共同声明が発表された（2022年5月24日記事参照）。2023年11月に米国サンフランシスコで開催された閣僚会合では、4本柱のうち、（2）サプライチェーンの柱で協定署名に至ったほか、（3）クリーン経済および（4）公正な経済の柱で実質妥結に至っていた（2023年11月17日記事参照）。今回、閣僚会合が開催され、実質妥結していた協定文案の具体的な内容が示された。今後、参加国は協定の署名に向けたそれぞれの国内手続きを進め、協定の受諾・承認・批准を行う。

クリーン経済の柱の協定文案では、同協定をIPEF参加国の持続可能な成長に向けた脱炭素化に関する協力体制の基礎を確立するものと位置付ける。また、同協定の下で（1）炭素市場、（2）クリーン電力、（3）クリーンエネルギーに関する労働力開発、（4）持続可能な航空燃料（SAF）に関して新たに4分野の協力プログラム（CWP）を立ち上げるとした（注2）。さらに、2024年6月5～6日にシンガポールにおいて、各国の政府関係者、投資家、スタートアップなどを集めて投資促進を図る「第1回IPEFクリーン経済投資フォーラム」を開催することも明らかにした。

公正な経済の柱の協定文案では、同協定を参加国の労働者と企業にとってより公平な競争環境を整え、地域全体でより透明で予測可能な貿易・投資環境を整える基礎を確立するものと位置付ける。具体的には、移民労働者に適切な保護を提供すること、結社の自由と団体交渉権の行使に対する雇用者の干渉を禁止する適切な措置を講じることなど、「労働における基本的原則および権利に関するILO宣言」に示される労働者の権利が尊重されることを確かにする内容となっている。

IPEF運用体制に関する協定文案では、4本柱の枠を超えて継続的に参加国間で経済協力関係を深化させ、枠組み自体の耐久性を確保するため、（1）新たな協定の交渉や新規参加国の提案を含め、協定や枠組み全体の運営に影響を与える事項を検討する閣僚理事会、（2）サプライチェーン協定、クリーン経済協定、公正な経済協定の下での作業を監視し、分野横断的な相乗効果を特定し、作業の重複を避けることを目的とする閣僚合同委員会を創設し、毎年会合を行うことなどを示した。

このほか、商務省は、2月24日に発効したIPEFサプライチェーン協定について、参加国が創設に合意した3つの機関（サプライチェーン協議会、危機対応ネットワーク、労働権諮問委員会）への代表者の指名、議長の選出、それぞれの職務権限の制定、重要分野と主要品目の初期リストの作成など、同協定の運用に向けて取り組んでいるとして、進展を強調した（2024年3月12日記事参照）。

次回閣僚会合は第1回IPEFクリーン経済投資フォーラムと同じく、6月6日にシンガポールで開催される。なお、（1）貿易の柱は現在も交渉中で、交渉の具体的スケジュールは明らかにされていない（注3）。

（注1）日本、米国、インド、ニュージーランド、韓国、シンガポール、タイ、ベトナム、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、オーストラリア、フィジーの14カ国。インドのみ貿易の柱に参加していない。

（注2）このほか、2023年5月の閣僚会合では、水素に関する協力プログラムの設立が発表されている（2023年5月29日記事参照）。

（注3）米国では、通商代表部（USTR）が（1）貿易の柱、商務省がそれ以外の3本の柱の交渉を主導する。

（葛西泰介）

（米国、タイ、日本、インド、ニュージーランド、韓国、シンガポール、ベトナム、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、オーストラリア、フィジー）