放置すれば死も...日本でなぜか「梅毒パンデミック」発生の謎
TABLO / 2014年7月11日 14時5分
梅毒が日本全国でアウトブレイク...その実態に迫る!
日本国内で梅毒の感染者が急増しているという、何とも気がかりな調査結果が報告された。先頃、国立感染症研究所感染症疫学センターから公表された「増加しつつある梅毒 感染症発生動向調査からみた梅毒の動向」(IASR Vol. 35 p. 79-80: 2014年3月号)によれば、2001年から2013年までの感染症発生動向調査年報と人口動態統計をもとに最近の梅毒感染の状況を調査したところ、2012年以降に感染者が顕著に増加傾向にあり、梅毒が再び増加傾向にあると警告している。
これとは別に、5月10日の『読売新聞』でも、宮城県の調査結果が報告されている。同県疾病・感染症対策室によれば、2013年は梅毒の感染者は44人で前年の21に比べて倍以上に増えているという。2011年まではほぼ横ばいであった梅毒感染が、2012年から急増する傾向であるとしている。これは前述の国立感染症研究所感染症をみれば、宮城県だけが特殊というわけではなさそうである。
国内のいくつかの調査結果を見ると、1980年代後半までは増加または横ばいであった国内での梅毒感染はその後に減少傾向となったが、ここ数年は再び増加の兆しがあると指摘されるようになっていた。筆者も知り合いの風俗店関係者から「最近、梅毒が増えている」という話を聞くことが多くなっていた。また、数年前から一部の保健衛生機関でも同様の指摘がなされ、報道もされていた。そして、今回のこの感染者増加の報告である。あるメディアは「東京都で梅毒がアウトブレイク(集団発生)した」という表現でこの報告について報じた。
さて、かつては死病と恐れられた梅毒だが、現在では抗生物質による治療法が確立しており、医師の診察を受ければ内服薬だけで完治が可能となっている。ただし、正しい診察と治療が不可欠である。かつて梅毒の治療を受けた人によれば、「完全に治療するには、決められた時刻にキチンと薬を飲まなくてはならないんです。飲み忘れたりいい加減に飲んでいたりすると、それだけ完治が遅れます」(40代男性)とのことだ。
また、場合によっては完治しても梅毒の血液反応が陽性のままであるケースがあることは古くから知られている。この場合では感染の危険はなく、いわば無害の「傷あと」のようなものだそうだ。にもかかわらず、それによって偏見の要因になったりすることもあるらしい。
最も注意しなければならないのは、感染したのに放置してしまうことである。梅毒は初期症状が軽微であることが多く、また潜伏期間も長いために見逃される危険性がある。そして、自然治癒の可能性はない。そのため、病原体であるトレポネーマ・パリドゥムは全身のいたるところを侵していく。医学記事などでは死に至るほどの症状まで進むことは見かけなくなったという指摘が多いが、血管の組織の一部が冒されて動脈瘤となり、それが破裂して死亡するようなケースもあるというから恐ろしい。また、脊髄を侵されると、その苦痛は壮絶なものだという。ある医学関係者は「いろいろな病人を見てきたが、あれだけは絶対にかかりたくない」と強調した。
さらに、国立感染症研究所の報告を見ると、感染者は男性が多く、とくに男性同士でセックスする人が多く感染していることが記されている。しかし、だからといって今回の感染者増加を特殊なものと考えるのは危険であろう。たとえば、80年代から90年代にかけてエイズ感染が知られるようになった際も、「同性愛者の病気だ。関係ない」という偏見が少なからずみられた。しかしその後、エイズ感染に男女の差はないことが確認された。
今回の梅毒感染の増加も、偏見や間違った見方をしてしまったら、とんでもないことになりかねない危険性を有しているかもしれないのではなかろうか。
Written by 橋本玉泉
Photo by Evan Schoffstall
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