160兆円市場の試算も...小泉純一郎「脱原発」発言に隠された巨大利権の思惑
TABLO / 2013年10月27日 12時0分
小泉純一郎の「脱原発」発言が波紋を呼んでいる。しかし、いったいなぜこの時期にいきなりの脱原発発言を行ったのだろうか。
かつて田中真紀子氏から「変人」と称された、元首相の思いつきの発言なのだろうか。結論から言おう。実は、この発言の裏には次世代エネルギー覇権を握る為の「トヨタvs日産」と引いては「中部財界VS関西財界」の対立が見てとれるのだ。
小泉純一郎氏の所属団体を見ると、今の「背景」が分かる。現在、彼は国際公共政策研究センターの顧問を務めている。理事長は政治評論家の田中直毅氏、会長が元トヨタ会長・元経団連会長の奥田碩氏という陣容だ。この研究センターは会長の奥田氏が音頭を取っていると言われ、小泉氏の活動拠点にもなっている。
奥田碩氏とは言わずと知れたトヨタ元会長であり、豊田家の大番頭だ。そのトヨタが現在血眼になって開発を進めているのが水素電池で走る自動車、水素自動車である。そして国内のライバル日産が推し進めているのが電気自動車だ。このどちらかが次世代モータリゼーションの主導権を握るのか、水面下では熾烈な争いが繰り広げられている。
そんなタイミングでの小泉氏の「脱原発」発言がどんな意味を持つのか。
商用化にはいち早くこぎつけたものの、日産の電気自動車「リーフ」には数多くの疑問が残っている。リチウム電池の充電量は多くないため、充電場所の数を多く設置しなければならないなど設備点での問題。また、結局は電力に頼らなければならないため、低コストな原子力発電に頼らざるを得ない。
しかし、トヨタの水素自動車は水素+酸素で走るので、自動車が排出するのは水(水蒸気)なので、大義名分として「CO2問題も解決」できるのが大きい。燃料は水素なので日産のように充電施設を作るなど多大なインフラ改善も必要としない。もし、これが実現すれば次世代のモータリゼーション、自動車市場はトヨタの独壇場になるという向きもある。
2015年から一般販売が開始されるトヨタの次世代自動車には経済界も期待しているようで、小泉氏が8月に廃炉技術などを視察するためにフィンランドに行った際は、原発関連企業の日立、東芝、三菱重工の幹部も同行していた。2050年には水素市場160兆円に達するといった試算もあり、経済界が「水素バブル」の恩恵を受けようと必死なのだ。
自民党が推し進めた原子力政策だったが、原発輸出という甘言をそのままに受け継いだ民主党は電力業界に丸めこまれ、3.11で崩壊した。電力業界の勢力争い(という言い方も福島の被災者を考えると嫌な表現だが)も東京電力から関西電力へ移ると思われた。そして大飯原発を稼働させた関西電力よりも原発の割合が比較的低いのが、トヨタのおひざ元にある中部電力だ。政権交代で与党に復帰した自民党は関西電力に対しては距離を置いた態度を取っていると言われている。それに代わる存在として、中部電力の立場はより強くなっている。
日本の次世代エネルギーはアメリカなどで採取されるシェールガスとロシアの天然ガスとも言われ、その中心に大穴の中部電力が位置する可能性も囁かれている。これは引いては「関西財界vs中部財界」という図式につながってくるのだ。
安倍政権は、実は原発方針に関しては明確な答えを出していない。正確には経済界に対してはその姿勢を伝えてはいない。
リニアモーターカーが開通し、東京~名古屋間が約40分間の距離になると、東京・名古屋経済圏が確立されるのはほぼ確実だ。関東甲信越のようなイメージの経済圏が近い将来誕生するのではないか。小泉氏の「脱原発」発言は、名古屋を中心とした中部地域の経済の勢いを色濃く映したものだといえるだろう。
Written by 南田洋二
Photo by 小泉純一郎―血脈の王朝/文藝春秋
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