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夢のトランスミッションとまでいわれた「DCT」はなぜ普及しない? ATが主流の理由とは

くるまのニュース / 2021年3月22日 19時10分

AT限定免許を持っている人が運転できるのはオートマ車と呼ばれる2ペダル車だ。2ペダル車のなかにも、トルコンATやCVT、AMTなどがあるが、そのなかのデュアルクラッチ式トランスミッション(DCT)は、伝達効率や素早い変速レスポンスで、登場当初は「夢のトランスミッション」ともてはやされた。いま、現状はどうなのだろうか。

■DCTにはメリットがあるがデメリットもある

 クルマのトランスミッションには、さまざまな種類がある。

 そんななかで、もっとも古くからあるのが「MT(マニュアル・トランスミッション)」だ。これはアクセル/ブレーキの他に、変速のためのクラッチと、ペダルが3つある。

 そのクラッチペダルを廃して変速を簡便にしたのが、自動変速の代表格となる「AT(オートマチック・トランスミッション)」だ。これは遊星ギヤを使ったトランスミッションで、別に「ステップAT」とも呼ばれる。

 さらに1980年代以降、日本の小排気量車に採用が広まったのが「CVT(Continuously variable transmission)」だ。これはベルトをかけたふたつのプーリーの直径を変化させることで無段階変速を実現するため「ベルト式無段階変速機」とも呼ばれる。

 そして2000年代に入って登場した新顔が「DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)」だ。

 これはその名のとおり、ふたつのクラッチを内蔵するトランスミッションで、優れた伝達効率と素早いシフトチェンジを実現した。

 ATにおけるトルクコンバーターやCVTが、構造上避けて通れない「内部伝達でのロス」とは無縁で、かつMTでの「クラッチやシフトの操作」という面倒をなくしたトランスミッションのため、登場当時は「夢のトランスミッション」と高い評価を得ている。

 ところが登場から20年近い時間が経っても、その普及はVW「ゴルフ」や「ポロ」など、アウディ「A3」や「Q2」など、メルセデス・ベンツの「Aクラス」など、欧州車の一部のモデルに留まっている。意外や、採用が広がらなかったのだ。またホンダ「フィット」も先代モデルは7速DCTを採用していたが、現行型ではCVTに戻っている。

いまから18年前の2003年に登場したVW「ゴルフIV・R32」が、量産車初のDSG(DCT)搭載モデルだったいまから18年前の2003年に登場したVW「ゴルフIV・R32」が、量産車初のDSG(DCT)搭載モデルだった

 高い評価を得ながらも、このように採用が広がらなかったのは、どういった理由があったのだろうか。

 まず、いえるのはDCTにも弱点があるということだ。

 それはステップATとの違いの部分に起因するものが大きい。ステップATにあってDCTにないものは、トルクコンバーターだ。トルクコンバーターは、変速を滑らかにし、エンジン・トルクを増大させる機能を持つ。そのため、とくに発進時や低速走行での走りが滑らかになる。

 一方、それを備えないDCTは、低速でのストップ&ゴーの動きがギクシャクしがちだ。しかも低速域でのストップ&ゴーはクラッチの負担が大きく、耐久性も不利になる。

 さらにギア比が固定なので、無段階変速のCVTと比べると、エンジンの美味しい部分を使いにくい。エンジン負荷に対してもっとも効率のよいエンジン回転数の分布を、いわゆる“燃費の目玉”と呼ぶ。小排気量エンジンほど、その燃費の目玉が小さいため、燃費をよくするためには、緻密な変速制御が必要となる。

 CVTは、そうした制御がもっとも得意とするところ。つまり、小排気量エンジンなのに好燃費を求められるという条件があるため、日本ではCVTが広く採用されているのだ。

■EVシフトのなかトランスミッションは生き残れる?

 一方、ミドルサイズ以上のクルマに関していえば、そのほとんどがステップATを採用する。

 これは、それらのカテゴリーでは、DCTの持つダイレクト感よりもトルクコンバーターの生み出す滑らかな変速が求められたのが大きな理由だろう。それに、最近ではステップATの進化も著しく、ロックアップ率を高めることでDCTと遜色ない伝達効率の良さを実現している。

レクサスLC500にはアイシンAW製の10速ATが搭載されるレクサスLC500にはアイシンAW製の10速ATが搭載される

 また、近年の燃費規制の厳しさもDCTには逆風となる。

 燃費を稼ぐためにトランスミッションに求められるのは、多段化でありレシオ・カバレッジ(変速比幅)の拡大だ。そのため、縦置きのステップATでは9速や10速といった多段化が進んでいる。横置きATでも8速や9速も登場している。一方、DCTは内部に段数に応じたギアを持っているために多段化がしにくい。とくに、FFコンパクトカーではスペース的につらくなるのだ。

 では、DCTは将来的に見込みがないかといえば、それは、また別の話だ。ポルシェ「911カレラ」やフェラーリの各モデル、日産「GT-R」のようなスポーツカーには、DCTのダイレクト感が求められる。将来的に高性能スポーツカーの多くはDCTを採用し続けることだろう。

 また、モーターを組み合わせたハイブリッド・トランスミッション化することで、苦手なストップ&ゴーをモーターに任せるという技もある。

 トラブルが多発したけれど、ホンダの先代フィットのハイブリッド用DCTは、そうしたアイデアであった。近く日本にも上陸する新型ゴルフ8のトランスミッションも、48Vというマイルドハイブリッドと組み合わせたDCTだ。電動化時代到来でDCTが再び脚光を浴びる可能性もある。

* * *

 この先、省燃費を求める圧力はさらに高まることが予想される。

 そうとなれば、トランスミッションの進化もまだまだ終わらない。さらに電動化が進み、EV時代が到来しても、高効率を求めるためには変速機構が必要になるはずだ。現に、大手サプライヤーが開発を進めている電動車の注目技術「eアクセル」には、ギアを内蔵したプロトタイプが登場している。つまり今後トランスミッションが生き残っていく可能性は十分にあるのだ。

 そして、数あるトランスミッションのどれがベストになるのかは、その進化次第。トランスミッションの勢力争いは、永遠に終わることはないのではないだろう。

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