社説:AIの著作権侵害 解消できぬ無断利用の不安
京都新聞 / 2024年3月5日 16時0分
積み残された課題に対し、より踏み込んだ議論が必要だ。
人工知能(AI)による著作権侵害について、文化庁の文化審議会小委員会が「考え方」案をとりまとめた。
AIによる著作物の無断学習に「歯止め」をかける一方、著作権法改正による規制強化には踏み込まなかった。著作権者の不安は拭いきれない。
権利保護とAIの技術開発促進を、どう両立させていくかが問われよう。
急速な生成AIの普及で、著作権が侵害されるケースが深刻化している。
新聞が報道するニュースがAIに無断学習され、独自に取材したかのような記事が氾濫し、海外では偽のニュースサイトも生まれている。
クリエーターがインターネット上に公開したオリジナル画像が、第三者によって生成AIを使い改変されることも多発しており、仕事や尊厳を奪われかねない事態だ。
案では、開発や利用段階で権利侵害になり得る具体例として、報道機関や学術論文の出版社などがデータベースとして有償提供する情報を、無償で使う場合を挙げた。
イラストなどの作風が似ている程度なら権利侵害には当たらない。だが、特定のクリエーターと「創作表現が共通」と認められる場合は、侵害にあたる可能性もあるとした。
ただ対応の基本的な枠組みは、技術開発に支障がでないよう、著作権法の解釈論の範囲内にとどめたという。
「考え方」案に対し、意見公募では「権利保護を図るには限界がある」(日本新聞協会)との批判の一方、「極めて有益だ」(新経済連盟)の声もあり、生煮え感は拭えない。
問題の背景には、2018年の著作権法改正で、権利者の許諾なしに著作物をAIの学習に利用できるとした規定がある。
著作権の利益を不当に害する場合は例外としており、その事例を今回初めて示したものの、無断利用の抑制につながるかは心もとない。
同様の問題は、海外でも議論を呼んでいる。
欧米ではAI開発企業らに著作権侵害を訴える訴訟が相次ぐ。特に米国には一定の要件を満たせば、著作物を利用できる「フェアユース」の原則があるが、何が該当するのかあいまいなケースがあるためだ。
規制の強化に前向きな欧州連合(EU)は、学術研究目的を除き、権利者がAIの学習利用を拒否できる制度の創設を加盟国に義務付けた。先進事例として日本も参考にしたい。
侵害に対する具体的な判例が少なく、法改正には慎重な意見もあるが、著作権者の保護は国際潮流でもある。AI技術に対応する実効的な制度や環境整備は急務といえよう。
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