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「最高かよ!」NHK BSで『カメラを止めるな!』放映 制作費300万円が31億円に化けたゾンビ映画

マグミクス / 2024年3月11日 17時10分

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■無名キャストらの情熱が生んだ奇跡のヒット作

「最高かよ~!」

 2018年に都内2館での上映から始まり、最終的には全国353館で公開され、興収31億円の大ヒット作となったミラクルムービーといえば、ホラーコメディ映画『カメラを止めるな!』(2017年)です。

 制作費は300万円、キャストはワークショップ(体験型セミナー)に参加した無名の俳優たちがほとんどでしたが、SNSなどで面白さが口コミ的に広まり、上映館は連日の大盛況となりました。略称「カメ止め」は2018年の流行語大賞にノミネートされるなど、社会現象にもなっています。

 NHK BSでは2024年3月11日(月)の23時30分から、ノーカットで『カメラを止めるな!』が放映される予定です。「最高かよ~!」「アツアツ」「よろしくでーす」「ポンッ」など、キラーワードが飛び交う『カメラを止めるな!』の魅力を振り返ります。

■ワンカットで撮影したゆる~いゾンビ映画のはずが……

 タンクトップ姿の若い女性(秋山ゆずき)がゾンビに襲われるシーンから、映画は始まります。いきなりステーキならぬ、いきなりゾンビです。実はこの場面、低予算のゾンビ映画の撮影現場であることがすぐに分かります。ところが、撮影クルーが本当にゾンビ化してしまい、現場は大パニックに陥ります。

 この冒頭シーンは、37分間にわたってワンカットで撮られています。さらに映画中盤で、このシーンはゾンビ専門チャンネルの開局記念番組『ワンカット・オブ・ザ・デッド』だったことが明かされます。劇中劇映画の舞台裏を追った、三重構造のドラマとして物語は進行します。物語後半を見ることで、雇われ監督の日暮(濱津隆之)をはじめとするスタッフの涙ぐましい努力とキャストのアドリブによって、B級映画の現場が成り立っていたことを知り、笑いと感動がぐいぐいと込み上げてきます。

 ワンカットで撮影されたゾンビ映画パートは、茨城県水戸市の浄水場跡地でロケ撮影され、合計6テイクを撮っています。途中、カメラのレンズに血のりがかかる瞬間がありますが、これは演出ではなく、本当のアクシデントだったそうです。

 いくつものトラブルを乗り越え、最初はバラバラだったキャストとスタッフが一丸となり、低予算映画を完成させるドキュメンタリーさながらの様子に、胸が「アツアツ」になってしまいます。

 まさに監督の日暮が口にする「最高かよ~!」という言葉どおりの、インディーズ映画の大傑作に仕上がっています。無名キャストやスタッフの奮闘ぶりに、映画の神さまが微笑んだ作品だと言えるでしょう。

■無名俳優から、売れっ子になったキャストたち

『カメラを止めるな!』で主演をつとめた濱津隆之さんは、ドラマ『絶メシロード』で主演をつとめた。『絶メシロード 出張編』 (C)「絶メシロード 出張編」製作委員会

 無名キャストしか登場しない『カメラを止めるな!』ですが、映画の公開後は状況が大きく変わりました。

「早い、安い、質はそこそこ」を売りにしていた監督の日暮を大熱演した濱津隆之さんは、2020年に始まった深夜ドラマ『絶メシロード』(テレビ東京系)に主演。長野五輪の内情を描いた実録映画『ヒノマルソウル 舞台裏の英雄たち』(2021年)では、スキージャンパー原田雅彦役を演じるなど、売れっ子俳優となっています。

 日暮に無茶ぶりするプロデューサー役の竹原芳子さん(旧名・どんぐり)も、TVドラマ『ルパンの娘』(フジテレビ系)にレギュラー出演するなど、個性的なルックスを生かして活躍中です。証券会社や裁判所の臨時事務官を勤めた半生を振り返った『還暦のシンデレラ』(サンマーク)も出版しています。

 護身術の「ポンッ」で人気を博したしゅはまはるみさんは、映画界のシビアな内情を描いた『愛のこむらがえり』(2023年)など、多くの映画やTVドラマに出演する名バイプレイヤーに。血まみれのヒロインを最後まで演じ切った秋山ゆずきさんも、Netflixドラマ『今際の国のアリス』シーズン2に出演するなど、さまざまな作品に参加しています。

■公開時に心配されたキャストへのギャラ問題

 本作で劇場映画デビューを果たした上田慎一郎監督も、名前を知られるようになりました。制作費5000万円の映画『スペシャルアクターズ』(2019年)は、『カメ止め』が大ヒットした直後だけに脚本執筆時に気絶しそうなほどのプレッシャーを感じたそうですが、無名俳優たちの演技への情熱を感じさせる秀作に仕上げています。『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)でブレイクした井桁弘恵さん、R15映画『うみべの女の子』(2021年)が話題となった石川瑠華さんらが主演した『イソップの思うツボ』(2019年)は、『カメ止め』のスタッフとの共同監督作です。

 公開時に心配されたキャストやスタッフへのギャラですが、『カメ止め』が予想外の大ヒットになったことで、特別報酬が後日支払われています。バックステージものではありますが、ゾンビ映画やホラーコメディというジャンルが日本で市民権を得ることになったのも、『カメ止め』の大きな功績でしょう。海外にも『カメ止め』の面白さは伝播し、フランス版リメイク作『キャメラを止めるな!』(2022年)が公開されています。

 人気俳優や有名原作に頼らずとも、面白い脚本とスタッフ&キャストの情熱があれば、ヒット作をつくることは可能だと、『カメ止め』は証明してみせました。優れた企画や才能に対し、製作サイドが積極的に出資することで、今後も『カメ止め』のような傑作が生まれてくるに違いありません。

 ただし、『カメ止め』の成功例は一歩間違えると、映画の世界に夢を抱く若いキャストやスタッフたちの「やりがい搾取」にもなりかねません。映画の制作現場が、よりよい方向に向かうことを願うばかりです。プロデューサーのみなさん、よろしくでーす。

(長野辰次)

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