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日本最大の刑務所で見た受刑者に「やさしい」取組とは?最高齢は94歳...進む塀の中の「高齢化」と「処遇改善」

MBSニュース / 2024年3月2日 14時6分

京王線府中駅からバスに乗って10分ほど、府中刑務所と書かれたレンガ造りの門が見えてくる。晴見町の停留所で降り、案内に従い敷地内へと入る。刑務官ら職員が暮らす官舎を左手に見ながら歩くと右手に高さ5.5メートルの塀が現れる。刑務所の周囲1.8キロを囲っているという。バス通りに面した門から300メートルほど歩くと府中刑務所の正面入り口に到着した。

2月22日、日本記者クラブが主催する府中刑務所視察に参加した。これまで刑事施設に行ったのは大阪拘置所での林真須美死刑囚への面会取材や和歌山の女子刑務所にごく短時間行った経験はあるが、刑務所そのものを3時間あまり、広範囲に視察するのは初めてだ。名古屋刑務所での受刑者暴行事件などがあった中で、担当者から直接いまの刑務所の現状や課題を聞く貴重な機会となった。

日本最大規模の府中刑務所...『居室の扉や窓などを破壊』『トイレの汚物ぶちまける』受刑者も

府中刑務所は古くは1790年(寛政2年)に設置された石川島人足寄場をルーツに持ち、1924年(大正13年)、前年に起きた関東大震災の影響で府中に移転、建設された。東京ドーム5~6個分の敷地に収容定員2668人を誇る日本最大規模の刑務所である。取材時の受刑者は1594人でこのうち外国人が346人を占める。というのも府中刑務所は主に刑期10年未満の犯罪傾向が進んだ日本人受刑者と外国人受刑者を収容している。外国人はほぼ初めての入所だが、日本人はいわゆる累犯で平均の入所回数は5回、最多は25回の者もいるという。窃盗や覚醒剤などの薬物による罪での入所が7割を占め、約4割が暴力団関係者である。後述するが府中刑務所を含めいま刑務所には高齢化と矯正を含めた処遇の課題が重くのしかかっている。

所内を見学する前に、施設の概要のレクチャーを受けた。その中には対応が特に困難で緊急対応をとったという事例の動画もあった。居室の扉や窓などを椅子で破壊する者、トイレに溜めた汚物をぶちまける者、仲の良い受刑者と離されたことに怒り、作業所で高所に登って威嚇する者。テレビ番組などで見慣れた「規律の保たれた刑務所」とはまた違う一面を見せられ受刑者対応の難しさと同時に刑務官の仕事の厳しさに触れた。

食事にベジタリアン・豚肉抜きメニュー...外国語新聞も 進む外国人対応の居室や食事

そして、白川秀史刑務所長、細川隆夫法務省矯正局総務課長らの案内のもと刑務所内へ。静脈認証でロックが解除された扉の向こうに受刑者らが暮らすエリアが広がる。刑務所内は受刑者が寝食を行う居室棟と、工場など作業棟に大別される。受刑者の居室は単独で使用するいわゆる独居房と集団で生活する部屋がある。いずれもトイレ、洗面スペースがあり、布団など寝具と小さな本棚、テレビが備え付けられている。本棚には趣味の雑誌や、小説などそれぞれの嗜好で本が並んでいた。

コロナ禍は感染者、濃厚接触者などのエリア分けが大変だったというが、他の刑務所と少し違うのは外国人に対応していることだ。日本人よりも体格が大きいこともあり、やや広い居室があり、畳張りではなく床はタイルでベッドも用意されている。高齢受刑者も起き上がりなどが困難な場合はベッドを選ぶケースがあるという。将来的にはフローリングに張り替えていくことも計画している。

画一的な対応でないのは食事も。作業の種類によって米などの主食の量を変えているという。体力を使う作業の受刑者には多め、部屋で軽い作業をする者などには少な目といった具合だ。また、府中刑務所では所内でパンを焼いていて主食が米でない外国人受刑者に提供されている。日本人もパンを好む者も多く週に4回はパン食なのだという。ほかにもベジタリアンや豚肉を抜いたメニューの対応も行っているという。ちょうど見学した翌日の23日は天皇誕生日だったが歌舞伎揚げが一つ追加されるとメニュー表に書かれていた。新聞も受刑者の言語により日本の新聞はもとよりJapannews、人民日報から選択できる。

作業場も見学した。作業は懲役受刑者の義務なのだが、勤労意欲を高め職業能力を身につける目的もある。トートバッグなどの革製品の加工や洋裁、印刷など作業場を見て回った。時折、刑務官の号令の声が響くほかは静かで、いずれの受刑者も黙々と作業に取り組んでいる。みな作業着姿で帽子をかぶり、マスクをしているが白髪や手のしわからも年老いた人が多い印象を受けた。

1500人中、約2割が「高齢受刑者」最高齢は94歳 刑務所で進む「高齢化」

さきに、いま府中刑務所に限らず刑務所が抱える課題として「高齢化」と「処遇改善」の問題があると指摘した。実に府中刑務所でも約2割、300人が高齢の受刑者で、日本人受刑者の最高は94歳だ。受刑者約1500人のうち約7割が精神疾患または身体疾患により医療上の配慮を要するという。

 認知症や記憶障害で意思疎通が取りづらくなった人や体力的に作業ができなくなる人もいる。病棟とされる場所では刑務官とともに廊下を歩行器を使って歩いたり、タブレットを使って脳トレのプログラムに取り組む高齢の受刑者の姿を見た。また「機能向上作業」というものもある。第10工場訓練場という場所では3年前から認知機能や身体機能の維持向上をはかるという「作業」に取り組んでいる。作業療法士の方が付き添う様子はさながら介護施設のリハビリのようだ。

 去年11月、政府は、刑罰の懲役と禁錮を一本化して「拘禁刑」を創設する改正刑法を来年6月1日に施行することを決めた。法改正により、これまで懲役刑に処された者に科されていた木工や洋裁といった刑務作業が義務でなくなる。その分、立ち直りに向けた指導や教育に時間を割き、高齢者の場合はリハビリにかける時間も増やすことが可能だ。新たな刑罰は刑務所の「高齢化」問題を視野に入れている。

受刑者を「〇〇さん」と呼ぶなど処遇改善

そして、もう一つの課題が「処遇の改善」である。去年、名古屋刑務所で複数の刑務官が受刑者へ苛烈な暴行を加えていたことが明るみとなった。法務省は去年4月、22人の刑務官が2021年11月から2022年9月の間に40~60代の男性受刑者3人に計419件の不適切な処遇をしたと認定。このうち事件化が相当だと判断した106件に関わったとして13人を書類送検した。(のちに不起訴処分(起訴猶予))

法務省は名古屋で起きたことをベースとしながら、全国の刑務所のあり方についての検討を進めてきた。2月22日、小泉法務大臣は閣議後会見でその一端を明らかにした。

まず、受刑者に対して「さん付け」にすること、また刑務官に対し先生というような呼び方をやめること。また刑事施設内において使用されてきた俗語隠語、一般社会では、使用されない言葉を廃止、あるいは別の言葉に置き換えること。テレビ・ラジオの情報に接する機会を全国の刑務所で一律に基準を設けていくこと。

これらは去年8月から名古屋刑務所で先行的に実施され、今年4月1日から全刑務所で実施するよう通知を出している。受刑者の「さん付け」では刑務官が注意指示をしないといけない場面でやや戸惑いはあるというが、府中刑務所でもできるところから実践しているのだという。今後は各刑務所がより受刑者の特質に合わせた形にカテゴリー分けされていく施策も進められているという。高齢者や薬物・アルコールの依存症など分類ごとに特化して受け入れる刑務所にしていく方向にあるそうだ。

ある種、「受刑者にやさしい」刑務所へ向けた動きだが、府中刑務所の白川所長は「きめ細かな処遇とともに、しっかりとした規律と秩序を守りたい」と話した。社会の縮図ともいえる刑務所、時代が変容していくその波に合わせるように変わりつつある。

MBS東京報道部記者兼解説委員 大八木友之

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