20代のクルマ好きがアルピーヌA110に試乗してみた〈伝説の復活が示したジドウシャの未来とは? 〉
MotorFan / 2019年5月1日 8時0分
クルマを手放す、もしくは最初から所有しない人が増えている昨今。若者ほどその傾向が強い。だからこそ、あえて所有する歓びのあるクルマを探していきたい。さて「アルピーヌA110」は? TEXT●今 総一郎(KON Soichiro)
個人的に「断捨離」がブームとなっている。「iPad」と「Apple pencil」でのペーパーレス化をきっかけに、ミニマリストほどストイックではないけれども、身の回りのものを整理した。その過程で分かったのだが、今の暮らしでどうしても必要なのは「スマホ」くらいということだ。連絡ツールとしてだけでなく、ショッピングやゲーム、音楽に映画と、様々なサービスが「スマホ」を起点としている。
もちろん、クルマも例外ではない。アプリを介してカーシェアを利用できる。なので、ディーラーから届いた車検のご案内とやらを見て、ふと思った。
「さて、クルマをどうしたものか……」
諸々の税金や保険などの維持費を律儀に払い続けるよりも、その分を旅行やグルメ、スマホゲームのガチャにでも回した方が暮らしが充実するのではなかろうか? 少し前までクルマを愛する一人の戦士として「クルマ離れ」を相手に、弾が尽きて剣が折れるまで徹底抗戦を誓っていたにも関わらず……なんてことだ。
しかし、もし維持費を払ってでも欲しいと思えるクルマに出会えたなら話は変わる。例えば「アルピーヌA110」だ。
「アルピーヌA110」はボクの中で特別な存在だ。製造は1963年〜77年とボクが生まれるよりも遥か前だが、「新世紀エヴァンゲリオン」で葛城ミサトが颯爽と駆っていたブルーの「アルピーヌA310」をきっかけに、その前身となる「A110」の艶かしさと品格が漂う独特なスタイルには憧れを抱いていた。思い返すと「いつかこんなクルマに乗ってみたい」と思った最初のクルマだった。とはいえ、中古でも高価で手が出せる代物ではなく、想いを伝えきれなかった初恋のように頭の片隅へと消えていった。
しかし、2016年にコンセプトモデルが公開されたことで「A110」の復活が明らかになった。2017年には市販バージョンが公開され、2018年に国内での販売がスタート。そして今、ボクの目の前には純白の「A110」が。
4つのライトとボンネットを縦に貫くラインが特徴的なフロントマスクや、全長:4205mm×全幅:1800mm×全高:1250mmと小ぶりながらボリュームを感じさせるプロポーションには、たしかに先代の面影が感じられる。一方で、インパネ上のモニターや液晶メーターなどインテリアは現代風に仕立てられていて、センターコンソール上に整然と並べられたギヤやパーキングブレーキのスイッチは人差し指だけで操作できて扱いやすい。
走りは、先代と同じく「軽さ」が武器だ。800kgほどだった先代と比べて、新型は試乗車の「ピュア」で1110kg。数値は結構増えているけれども、ボディの96%はアルミ製とスポーツカーらしく軽量化に抜かりはない。シートの後方に搭載するエンジンは1798ccの直4ターボで最高出力は252ps、最大トルクは32.6kgm、0-100km/hはわずか4.5秒だという。
しかし、期待と同じくらい不安があった。というのも、軽量がウリのスポーツカーはストイックになりがちだからだ。例えば、「ロータス・エリーゼ」はエンジンを搭載したアイアン・メイデンのようだったし、「アルファロメオ4C」は小洒落たバーに見せかけたギロチンだった。アシストのない重ステを握りしめ、少しのミスがアクシデントを招くスリルに満ちていた。それらも決して嫌いではないが、普段使いするにはあ・ま・り・に・もハードルが高かった。
アルピーヌA110もそれに近いに匂いを発散している。Sabelt製モノコックバケットシートに身体を固定されたが最後、気力と体力をとことん痛めつけられることを覚悟させられるのだ。
ただ、実際には「アルピーヌA110」は違った。スポーツカーらしい我慢がなく、気構えることなく乗れる。ステアリングにはパワーアシストが付き、トランスミッションは7速DCT。後方視界こそ悪いが、乗り降りで苦労することもなければ、シートは体圧を均一に分散してコツコツと細かな振動さえ伝えない。むしろスポーツカーの中でも快適性は高く、このゆるふわ感に心底ホッとした。
気分が盛り上がってきたら、「SPORT」モードをON!! アクセルの反応が一段と増し、加速のレスポンスはもちろん、エンジンブレーキの効きも高まる。弾けるアフターファイアをBGMに、フィギュアスケーターのように激しくも優雅に駆け抜けていく……。
カッチリとした一体感と同時に、足回りのしなやかな動きも感じられる。路面のうねりや凹凸を受けた動きの変化とドライバーの感覚にズレがない。確認すると、重心は運転席と助手席のヒップポイントのちょうど中間にあるという。軽量なボディをはじめ、あらゆるメカニズムが、この『体幹の良さ』の伏線だったのか。
車両本体価格は最低でも790万円〜と決して安くないのだが、自動ブレーキなどの最新安全装備は一切なく、ハイブリッドや電気が台頭している中で「A110」のパワートレーンはガソリンエンジンのみ。荷室は狭くて薄い。しかし、必要な時に必要なクルマを借りれる時代だからこそ、「A110」のようなエンジニアの人間味に溢れた芸術こそ所有したくなる。
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