【南シナ海】スカボロー礁での中国の出方が焦点――加茂具樹・慶應義塾大学教授に聞く
ニューズウィーク日本版 / 2016年8月22日 11時34分
慶應義塾大学の加茂具樹教授は時事通信社のインタビューに応じ、国際仲裁裁判所による南シナ海の領有権問題に関する判決などについて、見解を示した。内容は次の通り。(インタビューは7月27日、聞き手=時事通信社解説委員 市川文隆、写真はニュース映像センター写真部 河野綾香)
――中国は判決を「紙くず」と表現するなど強い態度に出ました。
加茂具樹・慶大教授 中国の対外行動は、国内に向けたものと国際社会に向けたものとの二つに分けて考えた方が良いと思います。中国政府は、南シナ海にある島々とこの海域における主権と管轄権は長い歴史的な過程で確立してきたと、国内に向けて説明してきたのですから、当然、今回の判決は受け入れられないと言うでしょう。背後に日本や米国が居て、問題を起こしているという説明も予想通りでしょう。「紙くず」という表現は国内向けです。対外的には、中国は安全保障上の問題として南シナ海におけるプレゼンスの維持と拡大を目指すとともに、協議を通じて地域の問題として解決を模索してゆくのでしょう。
――中国は国際法・規範を守らないという意思表示をしているのでしょうか。
加茂氏 そうではないと思います。一方で、中国は自らを遅れてきた大国であり、既存の国際秩序の中にあって、中国が活動できる空間は依然として狭いと考えています。そのため、強い自己主張をしながら既存の秩序の問題点を指摘し、それを改善していこうという試みを続けています。中国は自らの行動を、既存の国際秩序に挑戦するのではなく問題点を改善する、と説明しています。
具体的には、東シナ海における中国の行動がそうです。中国は1992年制定の領海および接続水域法で尖閣諸島を自分の領土だと定めました。その後、中国は国力を増してゆくにつれて主権を主張し始め、また日米同盟の強度を観察するため、そして東シナ海の既存の秩序の問題点を指摘する行動をとってきました。相手の出方を見ながら、隙があれば自分たちの主張を強め、そして自らの望む形に状況を改善していくやり方でしょう。
【参考記事】仲裁裁判がまく南シナ海の火種
――かつての国際協調的な中国が、特に習近平政権になってからはそれを否定する方向にかじを切ってきた印象があります。
加茂氏 中国の「国家の平和と繁栄を実現する」という目標は変わっていません。目標は変わらなくとも、目標を実現するための手段が変わったと言えるかもしれません。中国の方針は「自分たちは弱い。まずは経済発展を追求して国力を高め、覇権国である米国と関係を構築しながら、目標を実現する」というものでした。中国は、冷戦崩壊後静かに状況を見ながら、既存の国際的な経済秩序への参入に努め、また安全保障の秩序を警戒しながらも明示的に対抗することなく、国力発展の道を歩むという方針を選択してきました。中国は、リーマン・ショック後の辺りから、国際社会に力の分布の変化の可能性を見いだし、そこにチャンスがあると考え、自己主張をし始めたのでしょう。
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