「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」姉妹で乳がん罹患「女性として見た目が変わることが恐怖だった」【乳がん体験談】(前編)
OTONA SALONE / 2024年11月28日 19時30分
人毛100%使用の医療用ウィッグを開発した株式会社SUMIKILの野中美紀さん。実はご自身も医療用ウィッグを使用している、がんサバイバーです。
お姉さんの乳がんが契機となり、ご自身が「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」であるとわかりました。その後、乳がんが見つかり、左胸の全摘出、乳房再建手術を受けました。 新卒からキャリアを積んできた野中さん。医療用ウィッグ開発に至るまでの半生を語っていただきました。
働く女性・働くママとしてキャリアアップ
松山大学卒業後、新卒で愛媛県から上京し、卓球メーカーに就職。国内営業チームを経て、研究開発チームのアパレル担当になり、約13年勤務。そのあいだに結婚、出産。
「26歳で結婚し、翌年娘を出産しました。開発チームにいたときなので仕事はハードでしたね。保育園時代は朝送りはだんなさんが担当。私は9時~18時で働き、19時半に娘のお迎えに行って21時に寝かしつけ。だんなさんが帰ってきたら23時にまた出社して、会社で4時~8時に寝るといった生活をしていました。 そして2000年、国内のAIGグループ会社に女性管理職としてスカウトされました。女性リーダーは私だけ。男性が9割の会社でしたが自由な働き方の社風のため、子育てをしながらも無理なく働き続けることができました」
4歳上の姉が35歳で乳がんに
2006年、愛媛に住む4歳年上のお姉さんに乳がんが見つかりました。しっかりもので強かったお姉さんの弱っていく姿に、離れて暮らしていた野中さんはなにもできない無力さを感じたそうです。
「姉からは電話で報告されました。“乳がんになっちゃって……”と低いトーンで。話をしていくうちに泣き出していました。親の次に、妹の私に報告したようです。当時、姉は仕事を辞めて専業主婦。がんは進行していて、当時のステージⅡA、しこりの大きさは約3センチ。リンパ節転移なし。がん細胞の”顔つき”が悪く、進行性が高いタイプと判断されました。トリプルネガティブ乳がんでした。
トリプルネガティブとは、乳がんの分類(サブタイプ)のひとつで、ホルモン受容体であるエストロゲン受容体とプロゲステロン受容体、そしてHER2のタンパク質の過剰発現や増幅も認められない乳がんです」
「姉が乳がんに気付いたのは、当時2歳半だった姪が、姉の胸に頭突きをして痛くて触っていたら胸のしこりを発見。乳頭から分泌液もあったそうです。
いつも元気で強かった姉の心が不安定になっていく様子に、何もできない無力さを感じました。でも治療方針が決まってからは前向きでしたね。姉は胸を全摘出、乳房再建なし、抗がん剤治療を8クールしました。当時は吐き気など抗がん剤の副作用に対する補助的な治療がまだ整っていなくて、治療はつらかったようです」
>>遺伝性乳がん卵巣がん症候群ってなに?
姉が「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」、自身も遺伝学的検査を受ける
野中さん自身はお姉さんが乳がんに罹患したのをきっかけに、がん研有明病院で1年に1回乳がん検診を受けていました。乳房の石灰化を指摘されて1年後に精密検査を受ける予定だったところ、お姉さんが乳がん再発しました。
「乳がん検診で見つかる石灰化は、乳腺の中にカルシウムが沈着した状態。良性でも悪性・乳がんでもみられることがあります。悪性の疑いがある場合や良性・悪性の判断がつかない場合に要精密検査になるそうです。
姉には、セカンドオピニオンとしてがん研有明病院の受診をすすめました。がんの異常な進行スピードとレアなタイプが重なり遺伝学的検査を受けることに。遺伝性のがん(遺伝性腫瘍)のひとつ、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」と判明。そして私も遺伝学的検査を受けた結果、同じ「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」だとわかりました。
「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」とは、遺伝子変異により、特定のがん細胞を阻害する免疫細胞が体内で作られない体質のことです。病気ではないが、毎日何万も作られるがん細胞を破壊する免疫細胞が作られないため、乳がん・卵巣がん・前立腺がん・すい臓がん・腹膜がんなどの発症率が高いそう。しかも進行も早いという特性を生まれつき持っている※のだそうです」 ※参照:明石定子. 日本医事新報. 2016; 4817: 3.
>>半年後、乳がん判明。娘と母、姉には言わず
2015年自身にも乳がん判明、娘と母、姉にも言わず…
野中さん自身も遺伝性乳がん卵巣がん症候群だとわかり、1年後の予定だった乳がん検診を半年前倒しに。 そして2015年3月乳がんが判明しました。遺伝性乳がん卵巣がん症候群とわかってから約半年後のことです。
「乳がんとわかるまで半年あったので、そのあいだにとにかく必死に情報収集していました。だから素直な感想は”来たか”でした。怖い、残念より”やっぱり”という気持ちでした。青天のへきれきではなく、少し覚悟がありました。」
野中さんには娘さんがいます。入院のあいだ娘さんの面倒を見てもらうため、お母さんに愛媛から上京してもらっていたそう。
「娘は当時中2でしたが、がんということは言っていません。手術が決まったときも言えませんでした。私自身、体調も元気だし、しこりもないし、娘にがんと気付かれることもありませんでした。娘が10歳のとき離婚していたので2人暮らしでしたが、”2週間入院するからよろしく”という感じ。
離婚していなければ娘には伝えたかもしれません。13歳の多感な時期ですし、1人しかいない親ががんになったという事実は重すぎると思いました。
私もがん患者の家族側の立場を経験して、そのつらさを知っていたため、なおさら不安にさせたくないと思いました」
入院中、母に来てもらいましたが、実は母にもがんと言っていません。違う病名を言って、手術入院のときは上京してもらいました。姉妹で遺伝性乳がん卵巣がん症候群で、母方か父方、どちらの遺伝かわからなかったので。伝えることで自分を責めてしまうかもしれないと思って伝えませんでした。姉にも当時は言わず、手術から2年後に伝えました」
▶▶続きのお話▶▶「がん患者の家族」という立場を経験していたからこそ、自身ががんであることを家族に伝えなかった野中さんが、乳がんのことを伝えた相手とは? がん治療によって髪が抜け、ウィッグを使用。人毛100%ウィッグ開発にいたるまでのお話はこちら
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