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【乳がん体験談】「髪を失うことへの恐怖を取り除いて、がん治療にのぞんでほしい」乳房と卵巣、子宮を摘出、乳房再建(後編)

OTONA SALONE / 2024年11月28日 19時32分

前編「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」姉妹で乳がん罹患「女性として見た目が変わることが恐怖だった」に続く後編です。

 

お姉さんの乳がんが契機となり、2014年「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」であることがわかった野中美紀さん。その後、乳がんが見つかり、42歳のときに左乳房の全摘出。翌年、乳房再建手術を受けたあと、その翌年に予防的措置として健康な右の乳房と卵巣・子宮をすべて摘出しました。

 

「がん患者の家族」という立場を経験していたからこそ、自身ががんであることを家族に伝えなかった野中さんが、乳がんのことを伝えた相手とは?

がんを伝えたのはパートナーと職場

「がん患者の家族」という立場を経験していたからこそ、がんであることを家族に伝えなかった野中さん。だれにも乳がんのことを伝えなかったのでしょうか。

 

「パートナーにだけはがんのことを伝えましたね。パートナーとは付き合って1年半くらいでした。がんの知識もないので、伝えたときはちんぷんかんぷんの様子。変な恐怖心もなかったのが、後になってよかったですね。

 

あと、職場ですね。入院しなければいけなかったので。メンバーには入院前の飲み会でがんになったことを報告しました。こんな場で⁉とみんな驚いていましたけど」

 

 

>>がん治療でつらかったことは意外な…

女性として「見た目の変化」に恐怖を抱く

入院中。ドレーンを付けて

 

がん治療でつらかったことはなんだったのでしょうか。

 

「治療自体がつらいというのはありませんでした。今思えば、現実に向き合っていなかったのかもしれません。シングルマザーだったので、やることはたくさん。考えないように、惰性で過ごしていました。

 

手術するまで、手術台にあがるまでの方がメンタル的にきつかったですね。 入籍はしていないけど、恋愛中。命よりも “女としての自分”を失うのではないかという不安が先でしたね。

 

乳房を残す方法、傷を残さない方法を調べまくりました。そして、乳頭や乳輪を残すときのリスクも知って。 胸を失うなんてパートナーにどう思われるだろうと不安で、パートナーに相談しました。そしたら、もちろんきれいな方がいいけど、生きることを優先して。生存率の高い方を選んでと。生きることからぶれない判断をしてほしいと言われました」

 

 

パートナーの言葉に背中を押され、野中さんは左胸の全摘出手術を決めました。家族にがんを伝えず、周りに相談しづらかったといいます。

 

「がんがわかってから、毎日、不安に押しつぶされそうでした。ここで初めて乳がんになった姉の気持ちが理解できた気がします。

 

でも会社では管理職として、娘の前では母親として切り替えないといけない。 帰り道に1駅前で降りて1時間歩いて帰っていました。30分泣いて、残りの30分で母親の顔に戻って。入院するまでの1カ月半続けていましたね。ストレス発散にもなっていました。そのあいだはSNSはシャットダウンしていました。感情移入しちゃうから。仕事をしていたことも救われましたね」

 

 

乳がんがわかってから、管理職というキャリアや働き方に変化はあったのでしょうか。

 

「手術入院の前日まで普通に働いていました。2週間ほど入院して土曜日に退院。月曜には出社していました。有給を使って2週間休んだ程度です」

 

2015年、42歳のときに左乳房の全摘出、翌年、乳房再建手術を受けた後、その翌年の8月に予防的措置として健康な右の乳房と卵巣・子宮をすべて摘出した野中さん。

パートナーとの関係に変化はあったのでしょうか。

 

予後のリスクを考えて、乳頭・乳輪を残さない選択をしました。そのため、傷は乳房のど真ん中に15センチほど残りました。乳頭・乳輪の再建は、その見た目から決めました。乳頭は軟骨で、乳輪はアートメイクで再建しています。もちろん傷もありますが、仕上がりには満足です。

 

パートナーとは、絆が深まった気がします。好き嫌いではない。人生のパートナー。この先、10年後を考えるようになりました。ドクターの説明も受けてくれましたが、途中で寝ていました(笑)。女性のことは理解できないし、君に任せると。そんな感じが心地よかったです。 術後の見た目に関しては、けろっとしていますね。再建した胸も固いね、冷たいね、垂れないねと」

 

 

>>病気が遺伝しているかもしれない娘のために、同じように悩んでいる仲間のために、ウィッグ開発

がん治療で脱毛してウィッグ使用。みずからウィッグ開発へ

乳房の全摘出手術のあと、⻑期間のホルモン治療もあって髪の毛が抜けてしまったといいます。

 

「髪の毛は5割くらい抜けましたね。ドクターにはほかの人より早く抜けたと言われました。とくにトップの分けめが薄くなり、円形脱毛症にもなりました。さまざまな医療用ウィッグを試しましたが、パッと見でもカツラとわかる見た目で、途方に暮れていました。


悩んだ末、⻑くお世話になっていた美容師に相談したところ、ネットで買った自分に合わないウィッグをなじませてくれたり、髪型の相談に乗ってくれて。大丈夫、かわいくできるよと言ってもらえたことで救われました」

 

高額な人毛ウィッグがもっと身近になるように、ウィッグでも髪型を楽しめるように、自分にできることはないのだろうか。この経験から、人毛100%の医療用ウィッグを開発・展開するように。

 

病気が遺伝しているかもしれない娘のために、同じように悩んでいる仲間のために、利用者のことを第一に考えた医療用ウィッグを作りたいと思うようになりました。 ウィッグへの抵抗がない環境になってほしい。髪が抜けることへの恐怖や不安を取り除いて、安心して治療にのぞんでほしい

 

ちょうど2020年コロナ禍で職場は待機状態になり、これはチャンスだと考えて 。自分が理想とするウィッグ作りを検討しました。前職で知っていた中国の工場に直談判し、日本に流通している人毛ウィッグのサンプルを取り寄せました。

 

日本市場3000憶円と言われるウィッグの生産はほぼ中国。ウィッグにも種類があって、人毛100%のウィッグはナチュラルな見た目で、カラーやパーマもできて1〜2年使用できます。でも、流通している人毛ウィッグは10万円〜30万円と高額なんです。

 


安価なのは化繊100%の人工毛ウィッグ。ただ、人工毛ウィッグはあきらかにウィッグだとわかったり、静電気に弱くて毛先からチリチリになり、数ヶ月で消耗してしまうなどデメリットがあります。人毛と人工毛のミックスもありますが、こちらも高いんです」

 

 

>>人毛100%使用の医療用ウィッグを開発。ウィッグを快適に使えるサービスも提供

髪を失う恐怖をなるべく少なくしたい…そのために感動体験を届ける

ユーザーのことを第一に考え、コストを最低限に抑えた人毛100%の医療用ウィッグを開発。2022年に株式会社を設立し、オンライン販売をスタートしました。

 

「人毛100%のウィッグは今までもありましたが、なるべく安く、そして人毛ウィッグに美容師さんの手を加え、一つひとつカットした状態で届けるサービスを3万円台から提供しています。ネットで買って、届いたらすぐに身に着けられる。

人毛100%ウィッグはヘアアイロンの使用も可能

 

人毛ウィッグなら髪型やカラーを変えることも、アレンジもできます。また提携美容室では、実際にウィッグを被った状態でカットすることも可能です。普段通りの美容室体験を、ウィッグでもサービスとして提供しています。

右:SUMIKILの部分ウィッグ装着前、左・部分ウィッグ装着後

 

 やっぱり、髪のことを一番に相談したいのは国家資格を持っている身近な美容師さんですよね。ウィッグというものを販売するだけでなく、培ってきた技術と知識を提供してほしい。そんな私の想いに賛同してくれる店舗は、現在全国に23店舗。今後、全国に提携美容室を増やしたいと思っています。 最低でも各県に1店舗。万が一病気になっても、近くに提携美容室があれば心強いはず」

>>遺伝性乳がん卵巣がん症候群は遺伝の確率は50%。娘は…

病気を正しく知ることで、正しく治療できる

今年、人材紹介コンサルに転職。起業だけでなく、兼業でキャリアを積んでいます。また、遺伝性乳がん卵巣がん当事者会にも参加。

 

がんサバイバーとして、社会復帰して起業したロールモデルになれたらと思います。女性として、同じ体験をした女性が前向きになっていけるような発信をしていきたいですね

 

2015年遺伝性乳がん卵巣がん症候群当事者会の特定非営利活動法人に姉と参加しました。

 

現在は姉が副理事を務めています。私の娘は現在23歳、姉の娘は20歳。現在はふたりとも母親が乳がんであること、遺伝性乳がん卵巣がん症候群であることを知っています。娘には高校入学後に伝えました。まだ遺伝学的検査は受けてはいません。遺伝の確率は50パーセントと言われています。

 

遺伝性乳がん卵巣がん症候群の場合、進行も早いため亡くなる方も多い。でも、 遺伝学的検査は簡単にはできないんです。家族歴でリスクが高い人から優先して、病院側が検査できるかどうかを決めていると聞きます。娘には、近いうちに検査を受けた方がいいこと、知ることが大切なこと、遺伝カウンセリングをすすめています。

 

私たちにできることは、がん治療への恐怖や、未来への不安をなくすこと。髪が抜けるのが嫌で抗がん剤を拒否したり、全摘出を拒否して命を落としてほしくない。年齢が若いほど、将来のことを考えて判断を誤ってしまうケースもあると思います。正しく知れば、正しく治療できます。そのために、当事者としての情報を発信することで、治療までのタイムロス、悩む時間をなくしたいと思っています」

 

 

 

野中さんはがん患者の家族の立場も、がん当事者も経験しています。パートナーや家族に求めることはどんなことでしょうか。

 

「一緒に泣かれるとつらいですね。目先のことではなく、がん当事者の目線を上げるコミュニケーションをしてもらえたらと思います。正直、気持ちは本人しかわからないこと。いっしょに落ち込むのではなく、2年後旅行しようよなど先のことを話してほしい。望むことも正直に言ってもらったほうが楽だと思います」。

 

 

 

 

人毛100%の部分ウィッグは、更年期の薄毛や白髪に悩む女性にも人気だという。注文後、美容師が自毛になじみやすくカットし、指定のカラーリングがされた状態で届く。ナチュラルにボリュームアップすることができ、さまざまなアレンジが楽しめます。ホルモン療法をしている方や更年期障害で薄毛や脱毛に悩む方に、人毛ウィッグは手軽で自然なものであるということが広まっていくことを願っています。

 

 

写真提供:

 

 

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≪オトナサローネ編集部 木村美穂さんの他の記事をチェック!≫

 

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