いまこそ"消費減税"を訴える野党が必要だ
プレジデントオンライン / 2018年6月21日 9時15分
■スピード重視か合意の丁寧さかの判断は難しい
【塩田潮】旧民進党と希望の党の多数派が合流して、国民民主党が結党されました。
【馬淵澄夫・元民進党選挙対策委員長】それは評価しています。結党前、立憲民主党、希望の党、民進党の三つのグループがあったが、核となる競争力、資産、財産は何かというと、立憲民主党は政党支持率、民進党は地方組織と地方議員で、ある意味、金もある。希望の党は逆境にもかかわらず勝ち上がってきた民進党の議員が財産です。三つが一つになれば一番いいのですが、簡単にはいかない。だったら、互いに補完し合うという意味で、衆議院中心の旧希望の党と、参議院中心の旧民進党の合流は評価できる。
ただ、約4割の現職議員がこぼれたのは残念です。手続き的に丁寧さに欠けた部分はあったかもしれないけれど、スピード感も重要です。スピード重視か合意の丁寧さ重視かは難しいが、両方を併存させなければなりません。
【塩田】来年の4月に統一地方選挙があり、夏に参院選が控えています。
【馬淵】残り1年を切りました。連合(日本労働組合総連合会)の要望、要求も強まっていくでしょう。各産業別組合が参議院の候補者をどんどん決めていく。政党の公認・推薦に対して、連合が推薦するわけだから、政党が決めないと駄目で、連合側には、のんびりされたら困るという事情があるでしょう。
【塩田】一方、総選挙後の立憲民主党の動き、対応は。
【馬淵】苦労されているのだと思います。政党支持率は野党トップで12~14%くらいありますが、新人議員も多く、野党第一党としての責任を果たしていくことは大変だと思います。
立憲民主党のもう一つの課題は、共産党との関係でしょうね。前回の総選挙では、立憲民主党の候補者がいる選挙区では共産党の候補者を降ろしてもらうという選挙協力がなされました。共産党はそれで票と議席を減らしてしまった。次は、そう簡単にはいかなくなるでしょう。共産党として、次に求めてくるのは「相互推薦」です。立憲民主党の候補がいないところでは、共産党を応援しろということですね。つまり「共産党との一体化」を意味することになる。だから、枝野代表も共産党との距離感については熟慮されていると思います。
立憲民主党の比例復活者の惜敗率を見れば分かりますが、国民民主党と合流するとたちまち次期選挙が厳しくなる可能性が高い。だから、国民民主党と安易には一緒になれない状況なのだと思います。
【塩田】枝野代表のリーダーシップをどう見ていますか。
【馬淵】新党を立党し、リーダーシップを発揮されました。ただ、ここからがしんどいでしょうね。野党合流は比例復活の立憲民主党議員の再選を危うい状況に追い込んでしまうかもしれない。それを覚悟して、大同団結に踏み切ると、小池百合子さんから排除されて追い出された人たちを救ったというヒーロー像、枝野さん自身の存在意義が問われてしまいかねないので、これはできない。再度、共産党と組んだら共産党と一体化が避けられなくなる可能性がある。難しいジレンマに陥っているように見えます。
枝野さんとは、彼が幹事長のとき、私は選対委員長でした。もう一度、政権交代を実現するためには野党をどうまとめていかなければいけないかが、よく分かっている人です。共産党との関係も含めて丁寧にやっていた。小沢一郎さん(元民主党代表)とも、組まなければ、全部をまとめていかなければ、とよく理解して進めていった人です。枝野さんとの間では、しっかりとした信頼関係を構築して仕事に当たることができたと思っています。
■森友・加計問題を覆い隠すために解散・総選挙に打って出た
【塩田】現在の安倍晋三首相の政治をどう見ていますか。
【馬淵】財務省の決裁文書の改ざん、佐川宣寿前理財局長、柳瀬唯夫元首相秘書官の国会答弁も含め、昨年1年間の国会は何だったのかという話ですね。虚偽答弁で、かつ虚偽の決裁文書を含む虚偽の証拠に基づいた議論を重ねてきたわけでしょ。揚げ句の果てに、森友・加計問題を覆い隠すために「国難」と言って衆議院の解散を打った。フェイク国会のフェイク選挙ですね。即、総辞職と思います。おごり高ぶっている姿が見えますね。有権者はみんな批判していますよ。自民党支持者だって、安倍首相はもうダメだ、と。
麻生太郎財務相は行政のトップとして当然、責任を取らなければいけない。行政のコンプライアンス(法規遵守問題)がこれほど政府のマネジメントを揺るがせた政権はかつてなかったのでは。かつて私は民主党政権で国交相のとき、尖閣問題でのビデオ流出の事案で責任を問われた。末端の職員の機密情報漏洩でしたが、それでも問責決議を受けて、「国会で決まった以上、責任はある」と言って、一言も文句を言わずに次の内閣改造で大臣を降りた。それと比べたら、麻生財務相の責任はとてつもなく大きい。
【塩田】もし馬淵さんが国会にいて野党側の責任者だったら、ここでどう動きますか。
【馬淵】審議拒否ではなく、野党6党の選挙に向けた共同戦線を構築する。緩やかな連携でいい。共産党も巻き込めばいい。連合はハレーションを起こすかもしれないけど、政権を取るという一点で説得するしかない。
【塩田】わずか半年前に終わったばかりですが、解散・総選挙になると思いますか。
【馬淵】今はもうないですね。来年10月に消費税増税が予定されていますから、ぎりぎりのタイミングは今国会の会期末の6月20日前後か、7~8月だったけど、やらなくていいと思ったら、安倍さんはもうやらない。今夏の可能性はゼロではないとは見ていますが、多分、ないという感じです。もう一つは、来年夏の参院選との衆参ダブル選挙ですが、それもなければ、次の総選挙は東京オリンピックの後ですね。
【塩田】参議院は今、与党が過半数を29議席、上回っています。次期参院選の与党の改選議席は77ですから、与党の当選者を30減の47以下に押さえ込めば、「衆参ねじれ」が起こります。来年7月の参院選への野党の取り組みは。
【馬淵】立憲民主党は定数2以上の選挙区に全部、候補を立てると言っている。このまま行けば、野党同士でつぶし合いになる可能性も否定できない。一方、自民党は参議院で厳しい状況とみれば、安倍さんは衆参ダブル選挙を打ってくるかもしれない。いずれにせよ、参院選までは神経戦が続きます。
【塩田】次期参院選が衆参ダブルではないとき、馬淵さんの参院選出馬は。
【馬淵】ないです。衆議院以外は考えていませんから。
【塩田】一丸の会のみなさんが今後、国民民主党に集団入党する可能性は。
【馬淵】ないです。参加者の個人の判断に任せているので。あくまでも、目的は、野党を大きな塊にすることです。
【塩田】立憲民主党との関係は。
【馬淵】すぐにでも来てほしいと言われましたが、まずは野党を一つにまとめるのが私たちの役割だと思っています。それを引き続き求める。でも、残念ですが、結局、次の総選挙は二つ割れたままでやらざるを得ないかもしれない。その場合も最低限、連立政権構想くらいは組み上げていくことになるでしょう。枝野さんは今、否定していますが、最後の最後、選挙が近づけば、起こり得ると思っています。
■国会から離れることも政治家として大きな転機になる
【塩田】来年の参院選が近づいたとき、定数1の選挙区の1人区対策は。
【馬淵】1人区は全国32。候補一本化の話はしなければなりません。
【塩田】その場合、政策・理念の一致という問題はどうなりますか。
【馬淵】細かな政策を言い出したら、キリがない。われわれは与党の中央集権志向に対抗して地域活性化を中心とする野党として打ち出す。そこで一つになれるのではと思います。
一丸の会では、政策や路線を言うと、政党っぽくなるので、なるべく言わないようにしていますが、国民の信を問うには、最終的には政権戦略の中心となる政策を打ち出すことが重要です。立憲民主党も国民民主党も、消費税については財政権全化路線が中心をなす形になっているかもしれませんが、そうではない方向を打ち出していく。自民党の中でもプライマリーバランス(基礎的財政収支)の目標を撤回せよという声が出始めた。当然ですよ。国際公約でも何でもない。消費税増税は凍結です。私は減税まで唱えていますから。
【塩田】一丸の会で、その方向を打ち出すことができますか。
【馬淵】それは難しい。政策で集まれ、と言っていませんから。
【塩田】原発政策とエネルギー問題は。
【馬淵】原発ゼロを目指す。それを、われわれは民主党時代に決めた。それがすべてです。そのためにあらゆる政策資源を投入する。これは変わっていません。この点は電力総連(全国電力関連産業労働組合総連合)、原子力村の人たちも含め、もう仕方ないなというところで折り合いはついています。廃炉の時期が到来すれば、どんどん廃炉にしていく。原子力に依存しないエネルギー社会は構築可能ですから。
【塩田】落選後、議員バッジを失ったことのハンデもあると思いますが、バッジを外してフリーハンドとなったことによるメリットもあるのでは。
【馬淵】ある意味、この状況で、国会から離れることも政治家として大きな転機になると思っています。今は客観的に物事を見ることができます。自分が見失いかけていたことがいくつもありました。それを再び取り戻す時間です。
【塩田】落選で心境に変化がありましたか。あるいは人生観が少し変わったとか。
【馬淵】第218世東大寺別当の森本公誠長老から、聖武天皇の詔の中にある「責めはわれ一人にあり」という言葉をいただいた。為政者はすべての責任を背負うものだ、と。行政の失敗のみならず、天変地異、風水害も含め、すべての責任は自分にあると言って、聖武天皇は大震災の直後、734年に大赦を発布された。為政者はこの言葉を胸に持ちなさいと言われた。だから、落選したとき、私はすべての責任は自分にあると言い続けた。
もう一つは、京都・大原の三千院門跡門主の堀澤祖門導師から、「再誕」という言葉をいただいた。再び誕生。再生でなく、再誕です。人は自ら生まれ出ることはできないが、生まれ出た後、自らを生み直す作業が必要で、それを再誕という。自らに向き合う。自分はどういう使命を持っているのか、徹底して自分に向き合うことによって、初めて人は自らを生み直すことができる。
この二つの言葉が胸に重く響いて、今、まさに自分に向き合うというときです。本当の自分の使命は何か。ばらばらの野党をまとめ上げるのが私の使命、そこに政治家として生きる大義がある、と。野党結集の先頭に立つというのが今の思いです。
【塩田】政治以外の時間ができたと思いますが、どんなことを。
【馬淵】ビジネスをやっています。金集めをしなければいけないので。幸いなことに、かつての経営者仲間からいろいろ頼まれる。M&Aが多く、M&Aのコーディネーターとか、TOB(株式公開買い付け)を含めた海外からの投資案件に対して、日本の企業のオーナーから求められたり、あるいはIPO(新規上場株式・新規公開株)も。逆にIPOを目指していたけど、もうやめようかなという人たちの相談にも乗っています。私には自分のM&Aチームがあります。私が政治家になったので、チームのみんなはそれぞれやっていました。今は大きな案件がきたら、彼らを集めて、分担して仕事を回しています。
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前衆議院議員・一丸の会代表
1960(昭和35)年8月、奈良市生まれ(57歳)。東京都立上野高校、横浜国立大学工学部土木工学科を卒業。三井建設に入社した後、2部上場のコンピューター関連企業ゼネラル株式会社で取締役、北米法人最高経営責任者などを務める。2000年の総選挙に民主党公認で奈良1区から出馬したが、落選する。03年の総選挙で再挑戦し、43歳で初当選(以後、小選挙区で5期連続当選)。民主党政権時代、鳩山由紀夫、菅直人の両内閣で国土交通副大臣、菅内閣で国交相兼内閣府特命担当相、首相補佐官を歴任した。11年と12年の民主党代表選に出馬したが、いずれも敗退した。民主党の幹事長代理の後、野党転落後に選挙対策委員長となり、15年12月から民進党筆頭特命副幹事長の座にあった。17年10月の総選挙で落選。
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(作家・評論家 塩田 潮)
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