「人工知能ネーティブ」世代の強さとは

プレジデントオンライン / 2018年9月22日 11時15分

2018年2月、朝日杯で羽生善治氏と藤井聡太氏が公式戦初対局。藤井氏が勝利。(AFLO=写真)

将棋の藤井聡太七段は、相変わらず強い。

ついこの間プロ入りして、四段でデビューしたかと思ったら、あっという間に昇段を続け、今や七段。

藤井七段のような超新星を生み出す時代背景に注目する必要がある。天才は、遺伝だけでは説明できない。個人の資質が時代状況と出合って、「ネットワーク」のハブとして輝くからこそ、飛躍が生じる。特別な個性が時代の普遍へと通じる。

藤井七段の強さは、人工知能(AI)が台頭してきた転換期だからこそ、とりわけ顕著なものになったと考えられる。「デジタルネーティブ」を超えて、いわば「人工知能ネーティブ」とでも呼ぶべき世代が活躍し始めているのだ。

人工知能については、警戒する声も強く、また、デジタルな技術に対してアナログこそが大切だと主張する人も多い。しかし、そのような態度に拘泥していると、時代のチャンスを掴み損なってしまう。

かつて、将棋の棋士たちは、将棋ソフトを使うことに慎重だった。

数年前、羽生善治永世七冠とお話ししたときに、羽生さんは「将棋ソフトと指すのはあまり好きではない」とおっしゃっていた。

「将棋ソフトは、指し手に癖があって、人間と指すのとは違う」というのが羽生さんのその時点での評価だった。

ところが、それから2年くらい経ってから羽生さんにお目にかかったときには、おっしゃることが違っていた。

将棋が、「ビッグデータ」に接して、お互いの指し手や戦法を研究し、切磋琢磨する「スポーツ」に急速に変化しているということが、羽生さんの言葉から伝わってきたのである。

今や、最新の棋譜をインターネットで検索し、将棋ソフトでさまざまな新手を研究することができる。そんな中で、将棋ソフトの人工知能が出す「評価値」が、強さの基準と見なされるようになってきた。

将棋ソフトは、人間の常識や経験に束縛されない。ありえないように思えたり、筋が悪いように印象づけられる手も、将棋ソフトはしなやかに「発見」してしまう。

結果として、将棋ソフトが将棋のイノベーションを推進し、指し手を進化させるエンジンとなってきた。将棋ソフトの人工知能の積極的活用で、棋士の脳もまた進化している。

人工知能がコーチとなりトレーナーとなっているからこそ、藤井七段も、あそこまで強くなっているのだ。

まさに、人工知能ネーティブの流儀がそこにある。

これからの時代、人工知能は、人間の学習を高速化し、深化させるための「脳ジム」の役割を果たすと予想される。従来では考えられないくらいの大量のデータを用いて、厳しい負荷をかけ、その中での学習を楽しむことで、驚異的な学びを実現する人が台頭してくるだろう。

そんな中で、人工知能を活かせる人と活かせない人の間で、圧倒的な実力差が生まれることが予想される。人工知能で鍛えられた人の中から、新しい時代のスターが生まれてくるだろう。

人工知能ネーティブたちは、ひょっとしたら、今までの常識を突き破るような活躍を見せるかもしれない。人工知能の前に、人間がシンギュラリティを迎えるかもしれない。

人工知能を自分の脳の進化にどう活かせるか、誰もが考え、生活の中で応用してみるべき時代が来ているのだ。

(脳科学者 茂木 健一郎 写真=AFLO)

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