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孫正義に"検討中です"と言ってはいけない

プレジデントオンライン / 2019年7月28日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kupicoo)

雑談こそその人の教養が問われる、とはよくいわれることだが、いかにも話しかけづらい人が相手だと、ハードルはさらに上がっていくようだ。

■「第二東京タワーを建てたい」孫社長のムチャぶり

もし、あなたが偶然、会社のエレベーターで社長と2人きりになったら? あなたの人間的な幅が突如として試される、勝負どころである。

無口な社長との間の沈黙に耐えられず、無理に話しかける声のトーンはつい高くなる。それを聞いているのかいないのか、予想だにしない話題を振られて立ち往生……想像するだけで、変な汗をかいてしまう。

では、その社長が豪腕のワンマン社長、ソフトバンクグループ創業者・孫正義氏だったら?

「孫社長の前で『検討中です』は禁句でした」――社長室長として、孫社長直々の指名で多くのプロジェクトにかかわった三木雄信氏にとって、“ムチャぶり”は日常だった。

「孫社長は、次々と新しいアイデアを思いついちゃうんです。『第二東京タワーを建てたいんだよ。どう思う?』などと、私からしたら突拍子もないことを投げかけてくる。『証券市場をつくりたくて』と言われたときは、さすがに気が遠くなりました(笑)」(三木氏、以下同)

「10秒以上考えるな」が孫氏の口癖だったという。

「第一のポイントは、偉い人や卓越した人の話はまず素直に聞いて、『できるかも』『やってみよう』という前向きな姿勢で『こうなんじゃないですか?』といった具合に反応することです。多くの人は『自分にはできない』『自分はかかわりたくない』と否定的な立場に身を置きたがります。その結果、反発したり聞き流したりする。それはNGです」

そこからは、どのように会話を展開していけばよいのか。

「あなたの答えに対し、『そうなんだよ』とか、『そうじゃないんだよ』といった形で反応してくるはず。そこで何度か会話をやり取りします。私の役目は、孫社長の“壁打ちの壁”に徹することでした。とはいえ、その場で、自分1人で答え続けるのはすぐに限界がきます。一方的に問いかけられるままだと、やがて黙り込んで、『やはりできない』と思ってつぶれてしまうでしょう。そこで第二のポイントとなるのが、自分は“ハブ”になって他の人も引き込みながらうまく回していくことです。たとえば『その件は○○さんが詳しいので、今すぐ電話で呼びますね』などと対応すればいいわけです」

うまくやり取りできれば、「こいつはちゃんと受け止めてくれる」という信頼が生まれてくるだろう。

■「孫社長はムチャぶりした内容は決して忘れていない」

しかし、油断はできない。「孫社長はムチャぶりした内容は決して忘れていない」(三木氏)。「あの件はどうなった?」という突然の問いかけに、常々備えておく必要がある。

「私は必ず東京・八重洲の八重洲ブックセンターに足を運びます。本の分類が体に染みついていて、どこにどんな本がありそうか見当がつくので、効率がいい。孫社長が投資に興味を持っていた時期に『新しいキャッシュフローの予想に確率分布の概念を加えた企業評価理論を確立しろ』と言われたときも、真っ先にそうしましたね。私は投資理論の専門家ではありませんし、孫社長の考えは新しすぎてまったくわかりませんでした。いろんな本で勉強して『こんな感じでしょうか?』と孫社長に提示すると、『違う』と言われる。でも、そんなやり取りを続けるうちに、孫社長のやりたい形がなんとなく見えてくるわけです」

そこで三木氏が頼ったのは、やはり“他の人”だった。

「もちろん社内の人間はフル活用しました。それに加えて、いくつかの本の著者で、その分野では最高レベルの大学教授や、外資系投資銀行の第一線で活躍しているストラテジストなどに会いに行きましてね。幸いにも『孫社長の命を受けまして』と言うと、社の内外を問わず多くの人が協力してくれました」

この理論については、孫氏のコンセプトとして成立する形にはできたと思っている、と三木氏は言う。

■「伝説の鯉漁師」に交渉のコツを学ぶ

孫社長が“これこそ交渉のコツ”と引き合いに出す「鯉取りまあしゃん」の挿話がある。福岡県・筑後川に実在した伝説の漁師のことだ。

「鯉取りまあしゃん」こと上村政雄氏(1913~99年)。福岡県久留米市の素潜り漁の達人。火野葦平の小説『百年の鯉』のモデルとされている。

「その漁師さんは冬、裸の体に油を塗り、火で温めておいてから寒い川の中に潜るんです。川底に寝ていると、温かい体に鯉が向こうから寄ってくる。それを両脇と口で計3匹つかまえて、川から上がるそうです」

狙った相手を追いかけずに引き寄せる「まあしゃん」のように、人を自然と引き寄せる技はあるのか。

「経営者も含めて卓越した人、目上の人というのは、聞かれれば意外と答えてくれるものです。むしろ聞かれるのを待っていると考えたほうがいいでしょう。『こんなことを聞いたら失礼じゃないか』というのは、いかにも考えすぎ。機会を逃さず、恐れずに聞くことが大事です。そしてもし、『こんなふうにしてみたら』とアドバイスされたら、やはりここでも素直に『わかりました』と答えて、すぐに実行することです。それが必ず次につながりますから」

引き寄せたい相手について、三木氏は事前準備を周到に行う。

■何か話せるような接点を見つけておく

「まず相手の著書を読むとか、経歴や趣味嗜好、関心事を調べ、相手の仕事の成果に結びつく情報や話題といった“お土産”を考えます。自分の仕事や交友範囲で、何か話せるような接点を見つけておくわけです。興味のある話題であれば、無口な人でも饒舌になりますし、不愛想な人だって身を乗り出してくれます」

相手に対する思いを「お土産」という形で見せることが、相手の心を開くわけだ。いずれにせよ、優れたコミュニケーションに膨大なインプットは必須。「“何となくの雑談”って、ないんですよ」と三木氏が示唆するところは小さくない。

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三木雄信(みき・たけのぶ)
トライオン社長
1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱地所を経て98年ソフトバンク入社。2000年社長室長。06年ジャパン・フラッグシップ・プロジェクトおよびトライオンを設立し現職。著書に『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきた すごい時間術』ほか多数。

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(小澤 啓司 撮影=石橋素幸 写真提供=上村政秀 写真=iStock.com)

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