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人生の幸福度は「いいね!」の数で決まる

プレジデントオンライン / 2019年7月24日 15時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/aurielaki)

■自由に選択できる時代の歪み

あらゆる統計を見ても、グローバルなレベルでは人々の所得や生活環境は大きく改善しており、先進国でも(そのペースは落ちたとはいえ)経済成長がつづいている。それにもかかわらず幸福度が上がっていない矛盾(パラドクス)のひとつの理由は、「人生を自由に選択できる」世界に私たちが慣れていないからだろう。

わずか200年ほど前までは身分制社会で、どの家に生まれたかで職業が決まり、結婚相手、も親が選んでいた。そんな社会を大きく変えたのが産業革命による驚異的な経済成長と、それを背景とした近代の誕生だ。

第2次世界大戦が終わると大国同士は戦争することができなくなり、「ゆたかで平和な」後期近代が始まった。1960年代には若者たちを中心に価値観が大きく変わりはじめ、自分の人生を「自由に選択する」ことを当然と考えるようになった。こうしてヒッピー・ムーブメント(アメリカ)やパリ・コミューン(フランス)、学生運動(日本)などが先進国で同時多発的に起こったのだが、これは偶然ではない。「後期近代化(自由主義化)」は現在まで一貫してつづいていて、もっとも「リベラル」なオランダでは売春もドラッグも安楽死も個人の自由だ。

「自分の人生を自由に選択できる」というのは数百万年の人類史上初めての経験で、人間はそのような「異常な」環境に適合するように生得的にはつくられていない。当然、さまざまな場所で歪みが生じる。そのひとつが、「自由な社会でも選択できないもの」が残ることだ。

「選択できないもの」の筆頭が人間関係で、夫婦であれば離婚で解消できるが、子どもは親を、親は子どもを選べない。その結果、悲しい出来事が起こるのは昨今のニュースが示すとおりで、まさに「家族という病」だ。

■嫌いな人は“さよなら”すればいい

学校や職場の人間関係も「選ぶ」のが難しいことでは同じだ。クラスの友だちや職場の上司が固定されてしまい、いったんこじれると逃れることができない。それがうつ病や自殺の原因になっている。

「過労死」や「ひきこもり」はこれまで、まじめで責任感が強く、組織に過度に依存する日本人に特有の問題だと思われていた。しかしいまやアメリカでも職場に適応できずうつ病になる人が増え、ヨーロッパではひきこもりが社会問題になっている。「karoshi」「hikikomori」が英語になったように、いまや世界共通の現象なのだ。

「人間関係が希薄になった」と嘆く人がいるが、現実はまったく逆だ。昔の人間関係は家族と数人の知人程度だったが、いまは日常的に多くの人と複雑な人間関係を築かなければならず、疲れ果ててしまう。だからプライベートな時間くらいは「一人になりたい」と思い、世界中で「ソロ化」が進んでいるのだ。

しかし、考えてみれば家族と学校・職場は同じではない。いやな友だちから自由に抜けることができればいじめは起きないだろうし、上司を簡単に選択できればパワハラやセクハラに悩むこともない。こうして「後期近代化」の先頭を行く欧米先進国を中心に、「(家族以外の)すべての人間関係を自由に選択する」新しいムーヴメントが始まった。

■人生の「コスパ」で働き方を選ぶ

どんな職場にもおかしな人は一定数いるものだ。ベストセラーになった『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)は「勇気」を獲得することで困難な人間関係を乗り越えようと説くが、人間関係から自由に離脱できれば「嫌われる」ことに耐える必要はなくなるのだから、こちらの方が「幸福の戦略」としてはずっとシンプルだろう。

誰とどんな仕事をするかを自由に選択できる働き方が「フリーエージェント」で、その魅力にいち早く気づいたアメリカではフリーエージェント化が急速に進んでいて、いずれ労働人口の半数を超えると予想されている(その背景には日本でいう「非正規化」の影響も大きい)。

「アメリカだからできる話だ」と思うかもしれないが、日本でも以前からフリーエージェント化している業界がある。たとえば映画製作の現場だ。

映画をつくるときの一般的なプロセスでは、まずプロデューサーが企画を立てて出資者を募り、次に脚本家と相談しながら作品の骨格を決めて監督と俳優にオファーを出す。監督は助監督や撮影、音声などのスタッフを集めてクランクインし、作品ができあがれば製作チームは解散する。スタッフのなかに会社員(サラリーマン)はほとんどいない。

■プロジェクト化した仕事が増えていく

俳優の多くは芸能事務所に所属しているが、会社員ではなくマネジメントを代行してもらっているだけだ。人気俳優は青天井で莫大な利益を稼ぐが、売れないと収入もなくなる。アーティスト(作家、マンガ家、歌手など)やスポーツ選手も同じだが、(収入がベキ分布する)一攫千金型のクリエーターに会社員の働き方はまったく合わないのだ。

これからフリーエージェントが増えていくと、さまざまな仕事が映画製作の現場のようになっていくだろう。これが「プロジェクト化」で、シリコンバレーのIT企業などでは、終身雇用で社員を「雇う」のではなく、プロジェクト単位で世界中から最適な人材を高給で集め、プロジェクトが終われば解散する仕事の進め方が一般的になってきている。

最近、「ギグエコノミー」という言葉をよく聞く。「ギグ(gig)」とは、ジャズ・ミュージシャンなどがライブハウスでセッションを組んでその場限り(単発)の演奏をすることだ。それが転じて「即興的な仕事を楽しむ」働き方をいうようになった。

ところが「ギグエコノミー」がウーバードライバーなど低所得の仕事にも拡張されたことで、この言葉はいまではネガティブな意味で使われるようになってしまった。エンジニア(プログラマー)やコンサルタント、法律家・会計士などのスペシャリストが専門性を活かして「ギグ」することと、アプリを使ってアルバイト仕事を単発で入れていくことはまったくちがう。

「フリーエージェント化(ギグエコノミー)」が発展すると会社はなくなる」というのも誤解だ。プロジェクト化が進んだ映画産業でも、できあがった作品は映画会社によって上映・配信される。出版社や音楽会社でも同じだが、(すくなくとも現在のところは)コンテンツを流通させるためのプラットフォームは会社(グローバル企業)が担った方が効率がいいのだ。

■幸福な人生をつくる「3つの資本」

「人間関係を自由に選択したい」というのは「後期近代化」の必然なので、日本でもこれから、組織に所属して働くのではなくフリーエージェントを選ぶ人たちが増えていくだろう。そんな世の中で生き延びるにはどうすればいいのか。ここで重要になるのが「評判」だ。

「評判とは何か」を説明する前に、人生を左右する「幸福の資本」について述べておこう。

幸福の定義はさまざまだろうが、その土台は「金融資本(お金)」「人的資本(仕事)」「社会資本(愛情・友情)」からできている。お金がなく、仕事もなく、家族や友だちもいなければ幸福な人生はつくれない。この状態が「貧困=不幸」だ。

満足感や充実度のレベルは別にして、3つのうちどれか1つでもあれば、「貧困=不幸」にはならない。

たとえば、貯蓄はなく仕事はアルバイトで収入は少なくても、恋人や友人に恵まれているというタイプ。「社会資本」のみに支えられているのは「ジモティ」や「マイルドヤンキー」と呼ばれる地方在住の若者たちで、貧乏だからといって不幸(貧困)ではない。財布の中身はさびしくても週末ごとに学校時代の友だちと集まって充実した時間を過ごす彼ら/彼女たちは、「プア」(貧乏)でも「充実」している「プア充」だ。

貯金もないし恋人や友だちもいないがIT企業などで働いていて高い給料をもらっているのは「人的資本」のみ持っているタイプ。彼らは「1人」でも仕事が「充実」している「ソロ充」だ。

■「評判」があればお金はついてくる

このように「幸福の資本」が1つでもあれば(そこそこ)幸せにはなれる。では、2つ持っている場合はどうか。一流企業で働いていて、恋人や友だちともわいわい楽しんでいるタイプはリアル(現実)も充実していることから「リア充」と呼ばれる。一方でバリバリ働いてお金は貯まったものの、恋人もいないし友だちも少ないのは「ソロリッチ」だ。

もっとも充実しているのは、「金融資本(お金)」「人的資本(仕事)」「社会資本(愛情・友情)」の3つがそろった人生だろう。だとしたら、すべてを手にするにはどうすればいいのか。

貯金がないとしたら、働いて少しずつ貯めていくしかない。つまり、金融資本は人的資本からしか生まれない。一方で社会資本は、人的資本とは関係ないように見える。給料が高い方が女の子にモテそうだが、仕事が忙しくてデートの約束を断ってばかりだと振られてしまう。

しかし最近になって、社会資本は恋人や友だちなどのベタな人間関係から「評判」に移りつつある。インターネットやSNSで良い評判も悪い評判もすぐに拡散・共有され、「いいね!」やフォロワー数で見える化されるようになったからだ。

社会資本を数値化したものが「評判資本」だ。愛情や友情はプライスレスだが、評判にはプライスをつけられる。よい評判をたくさん持っているレストランには客が集まり、利益も増える。評判をマネタイズするのが「評判経済」だ。

■与える人になれ!

人的資本から金融資本がつくられるのと同様に、大きな社会資本からたくさんのよい評判を獲得すれば、それが仕事=人的資本につながっていく。

「どの会社に所属しているか」で個人を評価してきたのは、一人ひとりの評判を正確に知る方法がなかったからだ。誰が信用できるかわからなければ、「なにかあったら一流企業が保証する」方が有利になるのは当然だ。

ところがいまは、インターネットで検索するだけで個人ごとにどんな仕事が得意で、どんな評判を持っているのかがすぐにわかってしまう。逆にいえば、これからの時代は一人ひとりが自分の評判を持っていないと誰からも声をかけてもらえない。

評判を獲得するにはネットワークを広げていかなくてはならない。そのために大事なのは「テイカー」(Taker)ではなく「ギバー」(Giver)になること。テイカーは「受け取る人」で、ギバーは「与える人」だ。

■会社の看板に頼る人はもう通用しない

とはいえ、1万円しか持っていないときに、それを誰かにギブしてしまえば一文無しになってしまう。お金にしても食べ物にしても、有限なモノを誰かにギブすれば自分の分は減る。

それに対して、どれだけギブしても減らないものがある。それは「面白い情報を教えること」と「面白い知り合いを紹介すること」だ。

橘玲『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』(PHP研究所)

ネットワーク社会のギバーとは、この2つをせっせとやっている人のことだ。情報も人脈もどんなにギブしても減らないだけでなく、逆にどんどんネットワークが大きくなってよい評判が増えていく。

いま会社に所属している人にとって、もっとも避けなくてはならないのは、会社の看板が外れたとたんに「人的資本」だけでなく、すべての評判がリセットされて「社会資本」まで失ってしまうことだ。これに「金融資本」までなくなれば貧困が待っている。

「人生100年時代」には、定年後は誰もが「フリーエージェント」になる。そう考えれば、大事なのは知識や人脈を会社外の人たちとも共有し、自分自身のよい評判を増やしていくことだ。大きな社会資本(評判)をもっていれば、会社の後ろ盾がなくてもゆたかで幸福な人生を送ることができるはずだ。

(作家 橘 玲 構成=向山 勇 写真=iStock.com)

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