保身を図る文在寅に失望する韓国企業の「決断」

プレジデントオンライン / 2019年10月1日 15時15分

サムスン電子が家電見本市「IFA」で報道陣向けに公開した折り畳み式スマートフォン「ギャラクシー・フォールド」=2019年9月5日、ドイツ・ベルリン - 写真=時事通信フォト

■韓国の先行きが非常に心配だ

左派政治家である文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、わが国との関係をこれまでで最悪といわれるまでに冷え込ませてしまった。文氏は、自らに批判の矛先が向かわないよう対日強硬姿勢を強めているように見える。実際に同氏がわが国を強く批判すると、大統領支持率は上向く傾向があるようだ。

ただ冷静に考えると、日韓関係の悪化は韓国経済にとって大きなマイナスというべきだろう。

日韓経済の歴史を振り返ると、サムスン電子をはじめとする韓国の大手企業は、わが国の技術や人材などを活用し競争力を高めてきたともいえるからだ。そのことに自覚的だからか、韓国の有力企業は、わが国企業との関係強化に動き、海外進出を推進することも増えている。文大統領が対日強硬姿勢をとり、自らの立場を守ろうとすればするほど、企業経営者は文政権への懸念を強め、海外に活路を見いだそうとする姿勢を強めるだろう。この状況が続くと、韓国の産業基盤は弱体化し、国全体の活力が落ち込んでしまう。他国のことながら、韓国の先行きが非常に心配だ。

■対日依存度の高い韓国企業

韓国経済にとって、マクロとミクロの両面で、わが国との関係はとても大切だ。日韓関係の安定なくして、韓国経済の安定は難しいといっても過言ではない。

マクロ経済面では、1997年のアジア通貨危機、および、2008年のリーマンショックの際、わが国は韓国に資金支援を実施した。日韓関係は韓国の信用力、さらには経済の実力を支える基礎だとする市場参加者や経済の専門家は多い。北朝鮮への対応を考えても、日韓連携は欠かせない。

韓国の企業経営にとっても、わが国との関係は重要だ。

過去、韓国の保守派政権は、サムスン電子をはじめとする大手財閥企業の経営を守ってきた。政府の庇護の下、財閥企業は迅速かつ大規模に設備投資を進めてきた。それが、自動車、液晶テレビ、スマートフォン、半導体などの分野における韓国企業の生産能力の増強と世界市場でのシェア獲得を支えた。

韓国の企業は保守派政権の支援を得つつ、わが国の経営資源(ヒト・モノ・カネ)にアクセスすることで成長を実現した。韓国半導体業界の状況を考えると、まさに、韓国はわが国の経営資源に依存してきたことがわかるだろう。

■北朝鮮というカントリーリスクもある

まず、ヒト(人材)に関して、サムスン電子などは日米半導体摩擦の熾烈(しれつ)化を受けて活躍の場を外部に求めたわが国のエンジニアなどを雇い、技術力を吸収した。次に、モノに関しても、韓国はわが国に依存している。韓国の半導体産業は、レジスト、フッ化水素、フッ化ポリイミドのかなりの部分をわが国から調達している。韓国で必要とされるレジストとフッ化ポリイミドの90%程度がわが国で作られている。そのほか、半導体製造装置などの分野でも、韓国はわが国のモノを必要としている。

さらに、わが国の銀行や政府系金融機関は、韓国企業への融資や債務の保証を提供してきた。それが、北朝鮮というカントリーリスクを抱える韓国の企業および経済全体の資金繰りの安定に役立ってきた。

しかし、左派政治家である文大統領は、対日強硬姿勢を貫いている。わが国が韓国と、冷静に、長期の視点で関係の維持と強化を目指すことは難しくなってしまった。

とくに、7月、安全保障面の不安からわが国が韓国向けの輸出管理制度を見直し、厳格化したことは、韓国企業にとって死活問題と映っただろう。WTOルールでは、安全保障上の不安がある場合、例外的に対象国への輸出管理を見直すことが認められている。軍事転用が可能な資材の輸出にあたっては、各国が国際社会への責任を果たすために、自国の判断で適切に管理しなければならない。

■サムスン李会長が来日した理由

韓国大手企業のトップは、わが国の輸出管理見直しに危機感を強め、迅速に対応したようだ。サムスン電子のトップ、李在鎔(イ・ジェヨン)氏は、政府との対策協議を欠席し、来日した。目的は当面の事業継続に必要な半導体材料などの確保と、わが国金融機関からの信用供与の取り付けだったとの見方が多い。また、ロッテグループ会長の辛東彬(シン・ドンビン、日本名:重光昭夫)氏も、わが国の主要金融機関との会合を優先したと報じられている。迅速にわが国との関係を維持・強化しようとする企業トップの姿勢からは、対日関係は経営安定に欠かせないという本音が感じられる。

一方、文大統領は、半導体材料などの国産化を進めると主張している。ただ、大手企業トップ自ら日本企業などとの関係維持・強化に動いたことを見ると、文氏の主張が経済界全体からの支持や信頼を得られていると考えるのは難しい。刻々と、文政権と経済界の距離感が広がってしまっているように感じられる。

実務面からも、韓国の実力には疑問符がつく。半導体の専門家によると、フッ化水素などの純度がごくわずかに違うだけで、半導体の性能は大きく左右されてしまうそうだ。また、半導体製造ラインに投入される材料の切り替えには、半年から1年程度の時間がかかる。

日韓の関係が冷え込めば冷え込むほど、韓国企業が国内に拠点を置きつつ成長を目指すことは難しくなるだろう。これは、韓国の産業基盤の毀損(きそん)に直結する問題だ。

■“ゾンビ企業”が増えていく懸念

理論上、経済の持続的な成長のためには、官主導で構造改革を進め、環境の変化に合わせて制度などを刷新する必要がある。そのためには、政治の安定が必要だ。国家のトップが長期の視点で多様な利害を調整し、国をまとめることが欠かせない。その環境が整えば、企業は、新しい取り組みを進めやすくなる。政治の安定は、経済の持続的な成長を支える基盤だ。

今の韓国にはそれがない。労組や市民団体の支持を取りつけたい文氏が、経済界の要請に応じることは難しい。加えて、左派政権下の韓国では労働争議が激しさを増している。企業業績が悪化しているにもかかわらず、労組は賃上げを求めている。通常では考えられない事態が韓国経済をむしばんでいる。

その上、韓国の企業は米中の貿易摩擦による世界的なサプライチェーンの寸断に対応しなければならない。また、韓国にとって最大の輸出先である中国経済は成長の限界を迎えている。この変化に対応しようと、コストの削減とより自由度の高い経営環境の実現を目指し、海外進出を積極化する韓国企業が増えているようだ。韓国撤退を模索する海外企業もある。大手企業を中心に海外進出が進む一方、韓国国内では効率性が低下し、収益を生み出すことの難しい“ゾンビ企業”が増えることが懸念される。

■韓国企業トップの心は、文在寅から離れてきている

文政権がこの展開を食い止めることはかなり難しいだろう。すでに、韓国の検察は、数々の不正疑惑にまみれる曺国(チョ・グク)法相宅への家宅捜索に踏み切った。これは、文大統領にとって大きな痛手だ。文氏の従来の言動を踏まえると、同氏は自らへの批判や世論の目線をかわそうと、さらに対日批判を強める可能性もある。

そうやって文氏が自らの立場を守ろうとすればするほど、企業経営者の心は文氏から離れてしまうように見える。すでに、世界経済を支えてきた米国経済においても設備投資が伸び悩み、景気後退懸念が高まっている。外需を取り込んで成長してきた韓国を取り巻く環境は厳しさを増すだろう。企業が海外に逃げ出せば、韓国の設備投資は減少し、雇用機会も失われてしまう。徐々に韓国経済の長期停滞懸念は高まっていると考えられる。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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