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男子高校生が「N国党」を圧倒的に支持するワケ

プレジデントオンライン / 2019年12月12日 9時15分

「NHKから国民を守る党」を支持する若者が増えている。今年8月のネットアンケートでは、N国党が男子高校生の支持率が自民党に次いで高い政党となった。マーケティングアナリストの原田曜平さんは「若者が支持政党を選ぶ基準について、ほかの政党は学ぶべきだろう」と分析する――。
座談会の参加メンバー
A 関東の私立高校1年生男子
B 関東の県立高校1年生男子
C 関東の私立高校1年生女子
D 関東の私立高校1年生女子
E 都内の私立大学1年生女子
F 都内の私立大学3年生男子

■「面白いから」支持をする

【原田】今年8月、高校生、大学生、若手社会人の政党支持率をアンケート調査したところ、とても興味深い結果が出ました。ほかの世代に比べて若年男性の「NHKから国民を守る党」の支持率が高く、特に男子高校生の支持率は24.9%と自民党の26.1%に次いで高い数字でした。なお、最も多かったのは「特になし」で28.7%です。なぜ男子高校生はN国党を支持しているのか。今の高校生や大学生たちは、政治に対してどんな意識を持っているのか。2016年から選挙権年齢は18歳に引き下げられました。今日集まってくれた高校生はまだ18歳未満だけど、数年後には有権者になるわけです。その世代の政治への考えをじっくり聞いてみたいと思います。

【A(高1男子)】僕もN国党党首の立花(孝志)さんのYouTubeチャンネルは結構観ています。N国党の支持率が高いのはたぶんエンタメの要素が大きくて、「面白いから」という理由で支持してる人が、高校生の男子には多いんじゃないかと思います。YouTubeチャンネルのコメント欄を見ていると、そういう空気を感じます。

■「政治家」と「インフルエンサー」に違いはない

【原田】立花さんの動画は何がきっかけで見始めたの?

【A(高1男子)】YouTubeのオススメに上がってくるんです。それで観てみたら、政見放送で「不倫路上カーセックス」を連呼していたり、「NHKをぶっ壊す!」というメッセージがわかりやすかったり。そういう過激な発言をしないと人の目を引くのは難しいというか、インフルエンサーになるためには有効なんだと思います。

撮影=プレジデントオンライン編集部
立花党首のYouTube動画をよく見るという男子高校生2人(左)

【B(高1男子)】僕は「支持政党はどこですか?」と聞かれたら、「N国党です」と答えると思います。僕も立花さんのYouTubeはよく観ていて、今Aくんが言ったようにインフルエンサーになるためには手段を選ばない姿勢も納得できるし、政策もわかりやすい。逆に自民党とかが掲げてる公約は、今の男子高校生にはわかりづらいんじゃないかなって。

【原田】ネタとして面白がっているだけじゃなくて、政策もわかりやすいと。じゃあBくんは「NHKをぶっ壊す!」という公約にも賛成ということ?

【B(高1男子)】おおむね賛成です。

【原田】2人は「インフルエンサーになるためにはああいう活動が有効」と言っていたけれど、政治家はインフルエンサーになるべきだと思う?

【B(高1男子)】ほぼ立花さんの受け売りなんですけど、NHKってすごく大きな組織で、それに対抗するためには自分も有名になってN国党を大きくしていく必要がある。より多くの支持を集めるためにはインフルエンサーになるべきだと思います。

■「政党」と聞いて真っ先に思い浮かべるのが「N国党」

【原田】一方、女子高校生のN国党の支持率は4.9%と、男子と比べてかなり低いです。男子と違って、動画の内容や発言に引いちゃってるのかな。ただ、そもそも女子高校生は支持する政党が「特にない」が54.3%と全世代で最も高いから、そもそも政治に関心がない人の割合が高いという見方もできますね。

【C(高1女子)】N国党の立花さんの過激な発言は、男子ウケはするかもしれないけど、やっぱり言葉遣いがよくないのはちょっと……。

【D(高1女子)】一歩引いちゃうよね。ただ、私は「支持政党はどこですか?」と聞かれたらたぶん「ないです」と答えるけど、「知っている政党は?」と聞かれたら「N国党かな」になっちゃうかも。それぐらいインパクトが強くて、「ほかにどういう政党があるんだっけ?」って思っちゃいます。

■女子大学生のN国党の支持率は全世代で最も低い

【原田】「政党」と聞いて真っ先に浮かぶのがN国党になっちゃうんだ。でも、例えばテレビをつけたら自民党の安倍晋三首相が一番たくさん映ってるじゃない。それでもあまり情報が入ってきている気はしない?

撮影=プレジデントオンライン編集部
「過激な物言いには引いてしまう」という女子高生2人 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

【D(高1女子)】もちろん安倍さんは知ってるんですけど、ずっと自民党政権が続いているのもあって、別になんとも思わないです。

【原田】自民党政権が当たり前の状況に見えているわけだね。一方、女子大学生のN国党の支持率は2.7%と全世代で最も低い。でも「特にない」が42.3%と、女子高校生に次いで高いから、やはり政治そのものに興味がないのかな?

【E(大1女子)】私は、山本太郎さんの政策に共感できる部分が多いので、支持政党は一応れいわ新選組になります。N国党については、立花さんを初めてメディアで見たときに「過激だな……」と思ったし、政策の主題にすべき問題はNHKよりもほかにあると思っていたので、あまり興味を持ちませんでした。

【原田】ちなみに女子大学生のれいわ新選組の支持率は1.7%で、全政党の中で最低だから、Eさんは少数派かもしれないね。

■男子大学生「支持政党は特にない」が全世代最低

【原田】そして男子大学生は、「支持政党は特にない」が全世代(中学生〜50代)で最も低い23.9%。「若者の政治離れ」と言われるけれど、この数字を見ると政党への関心は高い、ということだよね。つまり、若者の投票率は低いのに、支持政党はあるという不思議な状態になっている。内訳を見ていくと、自民党が36.8%で最も高く、次いでN国党の16.1%という結果になっています。

【F(大3男子)】僕は明確な支持政党はないんですが、少なくとも自民党の一強体制は好ましくないと思っているので、先の参院選でもいわゆる戦略的投票というか、自民を大勝させないための投票行動をしました。

撮影=プレジデントオンライン編集部
「先の参院選では戦略的投票をした」と語る男子大学生Fさん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

【原田】じゃあFくんも大学生の中では少数派なのかもしれないね。

【F(大3男子)】大学生の自民党支持率が高い理由としてよく「現状に対して不満を持っていないから」と言われるし、僕自身、周りの友人たちを見ていてもそれは感じます。今回のアンケート結果を見るに、それは高校生にも共通していると思うんです。ただ、さっき男子高校生の二人の口から「エンタメ」とか「インフルエンサー」という言葉が出てきたように、もはや社会問題の解決を政治に求めていないんじゃないか。その意味では民主主義の退廃じゃないかと、軽く絶望しています。もちろん、アンケートだから遊び半分でN国党にマルをつけた人も相当数いるとは思いますけど、その何割かは実際の選挙でもN国党に投票するでしょうし。

■NHKの解体は最優先で取り組むべき問題か

【原田】大学生からそう言われちゃってるけど、高校生はどう思う?

撮影=プレジデントオンライン編集部
座談会の様子 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

【A(高1男子)】たしかにN国党にはネタとして面白いところもあるんですけど、それはあくまで政治の土俵に上がるための策略で、政策自体もちゃんと理論武装されていると思ってます。受信料の問題とか、言っている通りだと思うし。

【F(大3男子)】素朴な疑問なんですけど、Aくんは高校生だから自分で受信料を払っているわけではないですよね。それでいてNHKから不当にお金を取られているという不満がある?

【A(高1男子)】自分自身は不満はないけど、不満を抱いている人が一定数いるという話はわかります。

【F(大3男子)】政治が解決しなきゃいけない問題って、例えば格差の解消や、ほかにもたくさんあると思うんです。それらを差し置いて、最優先でNHKを壊さなきゃいけない?

【A(高1男子)】それはたぶん、ちょっと過激なことを言っている人を支持してる自分に酔ってるところもあるのかも……。

■党名を見ただけで何をする政党かわかる

【原田】今Fくんが「政治が解決しなきゃいけない問題」と言ったけど、NHKの解体もその中に含めるとして、高校生が気になっている社会問題って何かな?

【C(高1女子)】まずNHKに関しては、私も高校生だから受信料を自分で払っていないので、その問題自体を身近に感じていません。それよりも、例えば高校の無償化だったり電車の停車駅がどう変わるかとかのほうが、自分にとっては身近な問題です。

【D(高1女子)】NHKを壊して私たちに何かプラスの影響があるのかなって考えたときに、あんまり思い浮かばないですね。それよりは、自分の未来のことを考えても、待機児童の問題とかのほうが重要だと思います。

【原田】Dさんはさっき「N国党以外に印象に残る政党がほとんどない」と言っていたけれど、高校の無償化なり待機児童の問題なりを議論している政党もあると思います。そういう情報は入ってこない?

【D(高1女子)】そうですね。「自分から情報を取りにいっていないだけ」と言われればそれまでですけど。

【C(高1女子)】そういう意味では、N国党は「NHKから国民を守る党」という党名を見ただけで何をする政党なのかわかるのが大きいかも。「自民党」とか「立憲民主党」とかいわれても、どういう政党なのかわからないので。

【原田】じゃあ、例えば「待機児童をなくす党」とか、ワンイシュー政党がほかにも出てくれば若者は政治に関心を持ちやすくなる?

【C(高1女子)】伝わりやすさは結構変わると思います。

【原田】一方、女子大学生のEさんはれいわ新選組を支持していると。それは政策を見て判断しているんだよね?

撮影=プレジデントオンライン編集部
「れいわ新選組に好印象」と語る女子大学生Eさん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

【E(大1女子)】そこまで詳しく調べたわけじゃないですけど、山本さんは生活保護とかセーフティーネットについても言及していて、なんとなく弱者に優しいイメージがあるので。私は高校時代に授業でホームレスの問題に触れたことがあって、ホームレスの人たちは「努力が足らなかったからそうなったんだ」と言われがちだけれど、努力だけじゃどうしようもないこともあると思っています。れいわはそういう意見をすくい上げてくれているのが好印象です。

■18歳に選挙権はまだ早い?

【原田】今回プレジデントオンラインに「男子高校生のN国党支持率が高い」という記事が出たら、おそらく「やっぱり18歳に選挙権なんて与えるべきじゃなかった」みたいなことを言うおじさんが少なからず出てくると思うんだよね。

【D(高1女子)】中学3年生ぐらいから学校の先生が選挙について話をしてくれるようになりましたけど、どういう政党があってどういう政策をしているかにはあんまり触れてくれないんです。だからいまいちよくわからない。これも「自分で調べなさい」と言われればそれまでなんですけど……。

【C(高1女子)】私は、実際に投票できる年齢になったら公約は調べると思います。そのうえで票を入れないと無責任なので。でも、今の段階では意欲的に調べようという気にはならないです。

【D(高1女子)】そういうふうに「政治ついて知らなきゃいけない……でもよくわかんないな」となったときに、「NHKをぶっ壊す!」というのは言っていることはわかるので「これでいいや」ってなっちゃうところはあるかも。

【原田】興味がないのに世の中から「政治に詳しくなれ」という圧力がかかるから、わかりやすい公約に飛びついてしまう……という側面もあるかもしれないと。大学1年生のEさんはすでに選挙権を持っている?

【E(大1女子)】はい。投票にも行きました。私の場合は、自分でも多少は調べたんですけど、両親からよく政治についての話も聞いているので、その影響はあると思います。

■N国党の動きは若者向け発信のヒントになる

【F(大3男子)】高校生の皆さんの話を聞く限り、政治について興味もないし情報収集の仕方もわからない中で、主にYouTubeでN国党が発信したメッセージが刺さった結果、アンケートでの支持率が高かったということですよね。それは言い換えれば、皆さんに最初に届いた政治的なイシューが、NHKの体質の問題だったということ?

【B(高1男子)】僕の場合はその通りですね。

【原田】じゃあ、別にNHKじゃなくてもよかった可能性もあるのかな。例えば立花さんが猛烈に喫煙に反対してても刺さったかもしれない。NHKを解体することの是非は置いておいて、今回のアンケート結果を好意的に解釈するなら、N国党は若い人に政治的関心を抱かせるためのヒントを与えてくれたと言えるかもしれません。それは既存の政党が若者向けにメッセージを発信することをサボっていた、あるいは発信していたけどうまくいっていなかったことの裏返しでもあるよね。

【F(大3男子)】人口構造を考えたら、選挙を見据えるうえで若者が軽視されるのは仕方がない部分もありますけどね。

【原田】うん。だから僕は、少しでも若い人の票を増やすためにも18歳で選挙権を与えることには賛成なんです。ただ、N国党に感化された男子高校生がN国党しか知らないまま大人になってしまうリスクもある。一方で今のところは、自民党も立憲民主党をはじめとする野党も、YouTubeを使って立花さん以上に男子高校生を取り込める気がしない。メディア環境が変わっていく中で、必ずしもキャッチーではない、でも社会にとって必要な政策を訴えるにはどうすればいいか。正直、今の僕にはいい案が浮かばないんだけど、N国党のような極端なPRが刺さりやすい状況は、ひょっとしたら今後もしばらく続くかもしれないね。

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原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」、日本テレビ「バンキシャ」等に出演中。

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(マーケティングアナリスト 原田 曜平 構成=須藤 輝)

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