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ガストより安い「いきなり!ステーキ」が高すぎると避けられるワケ

プレジデントオンライン / 2020年1月31日 11時15分

いきなり!ステーキ=2020年1月7日 - 写真=アフロ

ステーキチェーン「いきなり!ステーキ」の失速が止まらない。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏は「販売不振の理由のひとつは、価格の高さだ。度重なる値上げで、強みだった駅前立地での優位性を失った。品質も値段に見合わない。再起を図るには2つの側面から価格を見直す必要がある」と分析する――。

■張り紙で肉の硬さを謝罪

ここ数カ月、ステーキチェーン「いきなり!ステーキ」の話題が絶えない。既存店売上高が2019年11月まで20カ月連続で前年割れとなり、販売不振が続いている。特に10月は大型台風の影響もあり、前年同月比で41.4%減の大幅マイナスだ。

こうした状況を受け、運営会社のペッパーフードサービスは昨年11月、全店の1割にあたる44店の閉鎖を発表。昨年12月には客に来店を呼びかける張り紙を店頭に掲出し、話題を集めたことは、以前の記事で触れた〈12月19日財務状況がいきなり悪化「いきステ」の大ピンチ〉。

さらに今年1月には、「一瀬(社長)より皆様へ」として、「ワイルドステーキですが、時々硬いとお叱りを受けておりました。(中略)誠に申し訳無く思います」と、ステーキが硬いことを謝罪する張り紙を店頭に掲出している。

■「相場」「品質」2つの観点から「高すぎる」

販売不振の理由は複数ある。自社の店舗同士で顧客の奪い合いが起きていることや、郊外ロードサイドで家族連れを取り込めていないこと、急拡大の中で従業員教育が追いつかずサービスの質が低下していることなどが挙げられるが、筆者が最も深刻だと考えるのは、「価格が高い」という点だ。

今年1月、いきなりステーキ店頭に掲示された張り紙(写真提供=著者)

いきステの主力商品である「リブロースステーキ(300グラム)」は2070円(税抜き、以下同)。これが「相場」と「品質」という2つの意味合いから、高すぎるのだ。

1000円のラーメンを売るラーメン店を例にして説明したい。1000円のラーメンは相場を考えると高い。この場合の「相場」は、ラーメンとしての相場と食事としての相場の2つがあるが、ラーメンは大半が1000円未満のため、前者でいえば1000円のラーメンは価格が高い。また、1回の食事に1000円を支払える人はそう多くはないので、食事の相場を考えても1000円のラーメンは価格が高い。

つまり、1000円のラーメンは「相場に対して価格が高い」といえる。一方で、この1000円のラーメンがフカヒレやアワビのような高級食材をふんだんに使ったものであれば、「品質を考えると価格は安い」といえる。

■郊外ロードサイドの相場で考えれば安い

このように「相場」と「品質」によって適正価格は異なる。そのため、それぞれ別に考える必要があるだろう。この2つの側面からいきステの価格を見るとどうなるか。

「相場に対しての価格」を郊外ロードサイド立地と駅前立地で分けて考えてみよう。

郊外ロードサイド立地の場合、「リブロースステーキ(300グラム)」の2070円(税抜き、以下同)という価格は、相場に対してそれほど高いとはいえない。郊外ロードサイドで競合するステーキチェーン「ステーキガスト」の「特選リブロースステーキ(250グラム)」は1899円、ブロンコビリーの「炭焼き極選リブロースステーキ(300グラム)」は3480円と高価格だ。また、郊外ロードサイドには焼肉店など価格が高い業態店が少なくない。これらと比べると、いきステは相場に対して価格が高いとはいえないだろう。

いきステが郊外ロードサイドで苦戦している理由は、価格が高いことよりも家族連れを取り込めていないことのほうが大きい。子ども向けメニューが充実していなかったりテーブルが小さくて家族でゆったり過ごしづらかったりと、メニューや店舗の構造が家族連れに適していないためだ。

■値上げを重ねて駅前での強みを失った

一方、いきステは駅前立地ではこれまで強みを発揮してきた。駅前の好立地を中心に、立ち食い形式によって低コスト・低価格を実現し、それを武器に店舗網を拡大してきた。

だが、度重なる値上げで、売りだった「割安感」は薄れてしまった。2013年の創業当時、リブロースステーキは当初1グラムあたり5円だったが、段階的な価格改定を経て今は6.9円となっている。300グラムで計算すると、1500円から2070円に値上がりしているのだ。

いきステは、今でこそ定量で200グラムからでも注文でき1000円台のステーキもあるが、少し前までは300グラム以上とされ、メニューの大半が2000円以上だった。平均客単価も2000円台と推測できる。この価格帯では、他の外食チェーンのステーキと比べて割高感がある。例えば、ファミリーレストラン「サイゼリヤ」の「リブステーキ」が909円、「ガスト」の「牛リブロースステーキ」は1499円だ。駅前という立地に絞ると、今度はいきステの価格の高さが際立つ。

■品質よりも絶対的な価格が重要な顧客層

もちろん味や量が異なるため、いきステが全面的に割高というわけではない。「品質を考えた場合の価格」いわゆる「コスパ」は悪くないケースもあるだろう。だが、ここで重要なのは「品質を考えた場合の価格」ではなく「相場に対しての価格」だ。

もうひとつの「食事としての相場」を考えてみよう。駅前立地のいきステがメインターゲットとするのは、男性のサラリーマンや学生だ。これらの層で一度の食事に2000円以上を簡単に出す人はかなり限られる。つまり、食事としての相場に対しても高いのだ。

この場合に重要なのは、味や量の多さからくる満腹感だ。なぜなら、食費に制限のあるサラリーマンや学生は、支出できるかどうかという絶対的な価格で考えやすいからだ。こうした層は、いくらおいしくても予算を超えた食事には見向きもしない。それゆえに、値上がりしたいきステは選択肢から除外されるようになったと考えられる。

■ハレの日需要を取り込んだライバルチェーン

一方で、郊外ロードサイドで2000円以上のステーキが売れるのは、メインターゲットとなる家族連れの「たまには家族で豪勢にステーキを食べたい」という需要があるからだ。

いきステの登場前、ほとんどのステーキチェーンが駅前ではなく郊外ロードサイドを主戦場としていたのはそこを狙ってのことだ。ステーキは高級料理ゆえに、価格がどうしても高くなってしまう。そのため、駅前では十分な需要を取り込めない。そこで郊外ロードサイドで家族連れをターゲットにしてハレの日需要を取り込むことでなんとか成長できたのだ。

そうしたなか、いきステは旧来の常識を覆し、立ち食い形式を取り入れることで低価格を実現して、駅前でもステーキチェーンが成り立つことを証明してみせた。この功績は大きい。

しかし、値上げや300グラム以上とした価格設定があだとなり、「いきステは高い」というイメージが広がり、客離れが起きてしまった。

■「硬い」と叱られる200グラム1130円のステーキ

そして、いきステは「品質を考えた場合の価格」において問題を抱えている。一部の商品のコスパが悪いのだ。例えば、主力商品の「ワイルドステーキ」がそうだろう。

ワイルドステーキの価格は200グラムで1130円だ。これは「相場に対しての価格」は安い。だが、「品質を考えた場合の価格」は安いとはいえない。筆者はワイルドステーキを実際に何度か食べてみて「品質に改善の余地がある」「コスパが悪い」と思った。同様のことを指摘する口コミは少なくない。

肉の硬さを謝罪する張り紙(写真提供=著者)

ワイルドステーキの品質に改善の余地があるのは、冒頭で触れた1月の張り紙からもわかる。張り紙では、一番人気のワイルドステーキが「時々硬いとお叱りを受け」ていたことを謝罪している。

「硬い」と叱られる200グラム1130円のステーキは、「品質を考えると価格は高い」と言っていいのではないか。いきステが再起を図るならば、「品質を考えた場合の価格」と「相場に対しての価格」、そのいずれの点も解決する必要があるだろう。

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佐藤 昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。

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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)

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