「コロナ困窮の留学生を大使館が支援」そんな美談に群がるマスコミの罪

プレジデントオンライン / 2020年6月15日 9時15分

新型コロナウイルスに関する情報について、平易に書かれた資料を使って留学生に説明するインドネシア人スタッフ(左)=2020年5月9日、東京・銀座 - 写真=時事通信フォト

新型コロナウイルスの影響で困窮する外国人留学生の様子を、マスメディアが相次いで取り上げている。その多くは「美談」として報じられているが、ジャーナリストの出井康博氏は「新聞やテレビには、アジア新興国の留学生に触れたくない『不都合な事情』が存在する」という――。

■「困窮留学生」がよく取り上げられているが…

新型コロナの影響で苦しむ「困窮留学生」を取り上げる大手メディアが増えている。NHKや朝日新聞は、留学生に対して広がる支援を美談として報じた。

・新型コロナで帰国できず 困窮する外国人留学生に支援広がる|NHKニュース
・失ったバイト、途絶えた仕送り 困窮留学生に広がる支援|朝日新聞デジタル

新型コロナウイルスの感染拡大は、在留外国人の中でとりわけ留学生に影響が及んだ。上記の報道にもあるように、アルバイトを失った留学生も少なくない。そんな彼らを支援する方々には頭が下げる。

ただし、留学生の受け入れ現場を長く取材している筆者には、大手メディアの姿勢には強い違和感を覚える。「美談」を伝えるのは構わないが、「困窮留学生」を生んだ根本的な要因には全く触れていないからだ。

■知られたくない「不都合な事情」がある

法務省によれば、留学生の数は2019年6月末時点で33万6847人に達し、安倍晋三政権が誕生した12年末から16万人近く増えている。同政権が「留学生30万人計画」を「成長戦略」に掲げ、留学生の受け入れを増やしてきた結果である。

こうした留学生の急増は、アジア新興国出身者の流入によって巻き起こった。ベトナム人留学生は12年末と比べて9倍以上の8万2266人、ネパール人留学生は約6倍の2万8268人にも膨らんでいる。

一方、NHKが取り上げたコロンビア出身の留学生は、わずか140人しかいない。「困窮留学生」は、ベトナムなどアジア新興国出身者にも大勢いる。にもかかわらず、なぜ「コロンビア人留学生」だったのか。その背景には、アジア新興国出身の留学生に関し、大手メディアが触れたくない「不都合な事情」が存在する。

■ビザ対象外なのになぜ彼らは来日できるのか

アジア新興国の出身者には、勉強よりも出稼ぎが目的の留学生が数多く含まれる。留学生となれば、「週28時間以内」のアルバイトが認められる。そこに目をつけ、「留学」を出稼ぎに利用するのだ。

ただし、留学には費用がかかる。留学先となる日本語学校や斡旋業者への手数料などで、軽く100万円以上が必要だ。新興国の庶民には、到底負担できる金額ではない。そもそも出稼ぎ目的の外国人は、母国においても仕事にあぶれた貧しい人たちが多い。そのため留学希望者は費用を借金に頼る。日本で働けば、簡単に返済できると考えてのことである。

こうした経済力のない外国人は本来、留学ビザの発給対象にはならない。留学ビザはアルバイトなしで留学生活を送れる外国人に限って発給されるのが原則なのだ。しかし、このルールを守っていれば留学生は増えず、「30万人計画」も達成できなかった。そこで政府は原則を無視して、留学ビザを発給し続けてきた。

■現地の斡旋業者が留学書類を捏造している

そのカラクリはこうだ。新興国出身者は留学ビザ申請時、親の年収や預金残高の証明書の提出が求められる。審査する側の入管当局は、ビザ発給の基準となる金額を明かしていないが、年収と預金がそれぞれ日本円で最低でも200万円以上は必要だ。新興国の庶民にはクリアできるハードルではない。

そこで斡旋業者経由で現地の行政機関や銀行の担当者に賄賂を払い、書類を捏造する。数字はでっち上げでも、正式に発行された「本物」だ。新興国では、賄賂さえ払えばたいていの書類は手に入る。そんなカラクリを日本側も分かって留学ビザを発給する。留学生を増やし、さらには彼らを低賃金・重労働に利用するためである。

書類を捏造して留学ビザを取得し、出稼ぎ目的で、多額の借金を背負い来日する外国人を、筆者は“偽装留学生”と呼んでいる。その割合を特定することは難しいが、決して「一部」の留学生ではない。2012年以降に急増したアジア新興国出身の留学生は、多くが“偽装”とみて間違いない。

書類の捏造というインチキを犯している点において、彼らは「加害者」だ。しかし、より大きな視点で見れば、制度が生んだ「被害者」に他ならない。日本側によって都合よく利用されるからである。

■コンビニで働く外国人は一部のエリート留学生

偽装留学生たちは、日本語学校に在籍しながらアルバイトに励む。留学生のアルバイトといえば、コンビニや飲食チェーンなどの店頭で働く外国人をイメージしがちだ。しかし、店頭に立てる留学生は、ある程度の日本語能力を身につけたエリートである。さらに多くの留学生が、私たちが普通に暮らしていれば目につかない場所で働いている。コンビニやスーパーで売られる格安弁当の製造工場や宅配便の仕分け、ホテルの掃除など、いずれも日本人の人手不足が深刻な仕事ばかりだ。そんな現場で留学生たちは夜勤に就くケースが多い。

しかも偽装留学生は、2つ以上のアルバイトを掛け持ちする。「週28時間以内」の法定上限を守ってアルバイトをしていれば、借金を返済し、翌年分の学費を貯めることなどできないからだ。

この違法就労の問題が、日本人の目に触れにくい偽装留学生たちを、さらに「不可視な存在」としている。違法就労への後ろめたさから、日本語学校やアルバイト先で人権侵害を受けても、耐えざるを得ない状況に追い込まれるのだ。

■NHKがあえて「コロンビア留学生」を選んだ理由

こうした複雑な事情があるため、大手メディアは偽装留学生の問題を深掘りしようとしない。NHKのニュースでも、「30万人計画」の実態には一切触れてはいない。取材対象が「コロンビア人留学生」だったのは、単なる「偶然」だとは筆者には思えない。NHKは「美談」として報じるため、ベトナムなど新興国出身者を避け、“偽装”の可能性が低いとみなすコロンビア人を選んだのではないか。

朝日の記事にしろ、取り上げているのはタイやアフガニスタン出身の“少数派”の留学生たちだ。また、彼らが通う「立命館アジア太平洋大学」は、偽装留学生には高嶺の花のエリート校である。これでは本当の「困窮留学生」の姿は伝わらない。

朝日は4月末にも「困窮留学生」問題を報じている。(「ポテチも買えない…」コロナ禍、外国人留学生の困窮|朝日新聞デジタル)コロナ禍でコンビニのアルバイトを失い、困っているバングラデシュ人留学生の話である。母国で「養殖業」を営む母親からの仕送りが途絶え、所持金が7000円しかなくなったため、好きな「ポテチ」もがまんしているのだという。

読者は留学生に対し、憐憫(れんびん)の情を募らせたに違いない。記事の目的もそこにあったのだろう。しかし、筆者が長年取材してきた新興国の留学生たちには、母国から仕送りのある者などごく少数しかいない。そもそも、記者が上から目線で憐れんでみたところで、「30万人計画」の構造的な欠陥まで指摘しなければ、問題の本質は見えてはこない。

■新聞配達を留学生に頼る朝日は深入りできない

実は、朝日には留学生問題に深入りできない理由がある。自らの配達現場で、留学生の違法就労が常態化しているのだ。(睡眠3時間で週休1日“朝日奨学生”の過酷|PRESIDENT Online)違法就労に加え、残業代の未払いまで強いられる留学生は、「困窮留学生」にも増して憐れむべき存在である。しかし朝日が配達現場の留学生について報じたことは一度もない。そして違法就労などの問題も現在まで改善されてはいない。

経済的に困窮する学生に対し、政府が支給を決めた「学生支援緊急給付金」について取り上げた毎日新聞の記事(「勤労学生への差別、切り捨て」給付金支給で留学生だけに求められる成績条件の冷淡|毎日新聞)も同様だ。給付金の支給対象には留学生も含まれるが、その要件に日本人学生には課されない「成績」が加わった。その点に関し、「差別」だと批判しているのである。

確かに、留学生だけに「成績」を要件とするのはおかしい。とはいえ、毎日が文部科学省を批判するのであれば、「差別」のみならず、「留学生30万人計画」の旗振り役を担ってきた同省の政策の是非を問うべきだ。しかし記事は、同計画を「優秀な留学生を多数呼び込む戦略」と評価している。

■人権派メディアは「弱者の味方」と呼べるのか

毎日によれば、留学生は「勤労学生」なのだという。この表現に筆者は唖然とした。日本への「留学」のため多額の借金を背負い、来日後は借金返済と学費の支払いを強いられ、日本人の嫌がる底辺労働という「勤労」に明け暮れる現状を、容認しているに等しいからだ。毎日は朝日と並ぶ“人権派”メディアとして知られるが、これで「弱者の味方」と呼べるのか。

毎日が留学生のことを助けたいなら、「留学ビザの発給基準を緩和せよ」と主張すべきである。経済力のない外国人にも無条件で留学ビザが発給されることになれば、留学希望者が斡旋業者に対し、書類の捏造のため多額の手数料を支払う必要もなくなる。

ただし、これほど留学ビザを大盤振る舞いしている国は、先進諸国で日本以外にはない。欧米に留学できる新興国出身者は、「富裕層」もしくは「奨学金を得られる成績優秀者」に限られる。だから「優秀な」留学生を呼び込むこともできる。

■彼らは報じられない場所で苦しんでいる

翻って日本はどうか。「留学生」だと称してビザを発給し、日本語学校など教育機関の学費稼ぎのみならず、底辺労働にも都合よく利用してきた。毎日が「優秀な留学生を多数呼び込む政策」と呼ぶ「30万人計画」の裏テーマは、底辺労働者の確保策なのである。その揚げ句、コロナ禍で多くの「困窮留学生」が生まれている。

偽装留学生たちは留学先の日本語学校、また夜勤の肉体労働に就くアルバイト先でも、ほとんど日本人と接する機会がない。もちろん、日本人に尋ねられたところで、自らが“偽装”であることも、また「週28時間以内」を超えて違法就労していることも認めるはずもない。

そんな彼らの存在に目を背け、制度の欺瞞も放置しておきながら、コロナ禍が起きた途端、「困窮」だと報じる大手メディアの姿勢とはいったい何なのか。そもそも本当に「困窮」している留学生は、メディアが報じない場所で苦しんでいる。

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出井 康博(いでい・やすひろ)
ジャーナリスト
1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『The Nikkei Weekly』の記者を経て独立。著書に、『松下政経塾とは何か』『長寿大国の虚構―外国人介護士の現場を追う―』(共に新潮社)『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)近著に『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)がある。

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(ジャーナリスト 出井 康博)

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