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あなたvsクールビズ「仕事能率と電力消費量から職場は26度がベスト」

プレジデントオンライン / 2020年7月4日 11時15分

PIXTA=写真

■「感覚頼り」は危険、室温を数値で確認

あなたの職場の室温は何度だろうか。

省エネの観点から夏のオフィスの冷房設定温度について議論になったのは記憶に新しいが、かつて推奨されたオフィスの28度設定には根拠がない。それどころか仕事の能率が極端に落ちることがわかっている。

東京大学名誉教授でIBEC(建築環境・省エネルギー機構)理事長の村上周三氏、慶應義塾大学理工学部の伊香賀俊治教授らの研究によると、オフィスで28度設定は26度と比べて、社員1人あたりの光熱費が一日あたり15円節約になるものの、人件費が1人あたり1500円/日、無駄になるという。

「経済価値でいうと2桁違います。経営者は26度から28度に上げると社員に我慢の省エネを強いるうえに、100倍損するということです。作業効率と電力消費量のちょうどいいバランスが25.7度(図1)。ですからオフィスの冷房は26度に設定するといいでしょう」(伊香賀教授)

「室温」と「衣服」の合わせ技で猛暑を乗り切る

■職場での足元を冷やさないように心がけよう

しかしここで注意しなければならないことがある。冷気は足元にたまりやすいため、足首の皮膚温が低下しやすく、人によっては集中力などを乱して仕事の能率を落とすことが同研究でわかっている。足し算や引き算などの単純作業では男女ともに能率が落ち、知的な作業では基礎代謝の低い人や女性が低下しやすかった。寒さ対策というと冬を思い浮かべるが、夏も靴下を履くなどして、職場での足元を冷やさないように心がけよう。

職場に限らず自宅でも、人が健康的に快適に暮らせる夏の温度は「25~27度、湿度50%前後」というのが多くの専門家の一致した意見。快適とは自律神経が汗を出させて皮膚表面温度を下げる必要のない温度をいう。

「しかし、年とともにのどが渇いていたり、暑さを感じるなどの生理調節のセンサーや、それを緩和するための発汗反応などの調節機能が鈍くなります。若者がいる部屋と比べて、高齢者がいる部屋の温度は真夏の日中に平均2度高いという報告もある。感覚に頼ると対処を間違えるので、数値を見ましょう」(同)

そして日中のエアコン設定温度は、実は服装によっても変わる。職場でYシャツ、ネクタイ、靴、靴下、長ズボンなら、やはり26度。しかし、自宅で靴下やスリッパなしで薄着なら27~28度でもいいかもしれない。

シャツの下に着る肌着についても、適正温度があることをご存じだろうか。体と衣服の空間を“衣服気候”といい、ここが人の皮膚温である33.6度よりもやや低い「32度前後、湿度50%」だと、衣服を着用して快適といわれる。快適から遠ざかるにつれて不快感が広がり、衣服気候が34度、湿度が80%以上になると発汗が起こる。快適と感じる範囲は意外に狭いのだ(図2)。

衣服気候を快適に保つためには、肌着の素材に気を配りたい。和歌山大学の今村律子教授に話を聞いた。

「大汗をかくようなときは“綿”を避けましょう。綿は汗を吸収する力は強いのですが、それを蒸発させる速度が遅いんです。特に冷房下で汗によって服が濡れていると、人の熱を奪いますし、風邪をひいてしまいます。夏場、特に汗かきな人は吸汗速乾の加工が施してあるポリエステルなどのような合成繊維で作られた衣類がいいと思います。ですが26度くらいの快適な職場で、軽作業(机を移動させたり荷物を運んだりなど)をして汗ばむ程度なら、綿や麻がいいですね」

天然素材の麻、再生繊維(化学繊維)のレーヨンなどには着たときに冷たさを感じる「接触冷感」があるといわれ、こちらも夏向き。

「麻はシャキッとして、衣服と皮膚の間に隙間をつくりやすく、肌にまとわりつかないのがいいですね」(今村教授)

■柔らかい肌着には着心地以上の効果あり

素材と同様にこだわりたいのが“着心地”だ。職場環境も一日の大半を過ごす重要な場所だが、衣服にいたっては24時間、体に密着している。着心地が自律神経に影響を与えるという研究があるのだ。

九州大学の綿貫茂喜教授がこう話す。

「皮膚への刺激で衣類の硬さ、粗さ、冷たさ、温かさなどの感覚が生じますが、着ている本人が快・不快を自覚しないような小さな刺激でも、体に影響を与えることがわかりました」

綿貫教授らが女子大生に着心地のいい柔らかい肌着と、ごわごわ肌着を着用してもらい、心拍数や皮膚温、深部体温(鼓膜温)、脳の覚醒水準を示す脳波などを測定すると、明らかに違いが出たという。

「ごわごわ肌着を身に着けた人は、着用直後は違和感、不快感があるものの、それは10分もすれば消えてしまう。ですが、ごわごわ肌着を着用していると、体温調節機能や副交感神経活動が抑制され、脳の活動も低下したのです(図3)」(綿貫教授)

さらに幼稚園児にも市販の通常の肌着と、それより柔らかい肌着を2日間着用させて免疫系の検査を行うと、通常の肌着は、柔らかい肌着と比べてストレスホルモンの値が高く、免疫系の活動を抑制することがわかったのだ。

「そのうち慣れてしまうぐらいの小さな刺激であっても、一日中体のかなりの面積がそこにさらされます。柔らかな、自然な肌触りが重要ということですね」(同)

肌触りは柔軟剤でつくられた柔らかさでないほうが望ましい。最近は縫い目が肌に当たらないような縫い方や、品質表示タグをはずして生地にプリントするなどの工夫を施した、肌に優しい肌着も続々と登場している。

また、自律神経は衣類による“圧迫”でも、影響を受ける。信州大学の三野たまき教授によると「チャンピオンベルトを巻くような位置では締めすぎないほうがいい」という。

「胸下からおへそのあたりまでは繊細なゾーンで、自律神経に影響を与えます。ベルトはおへそより下にしましょう。ブラジャーなどの下着も、きついものを一日中身に着けていると月経周期が遅くなるという報告があります。過度に足首を締め付けるストッキングも避けてください。足首は胸下と比べると鈍感な部分ですが、私たちの研究では足首に圧をかけすぎると血流が悪くなり、かえって足先がむくむことがわかっています」

仕事環境やくつろぐ自宅も、そして常に身に着ける肌着も、体へのストレスを減らすことが快適さを生み出す。これからやってくる暑い夏を元気に能率よく乗り切るため、ベストな室温と肌着に気を配りたい。

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)など。

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(ジャーナリスト 笹井 恵里子 写真=PIXTA)

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