大手5社が大競争「学習まんが日本の歴史」はどれを買えばいいのか

プレジデントオンライン / 2020年9月4日 9時15分

撮影=松本順子

日本史を学ぶうえで、強力な助っ人となってくれるのが学習まんがだ。現在、小学館、学研、KADOKAWA、集英社、講談社の5社から、まんが版「日本の歴史」が発売されている。それぞれの特徴はどこにあるのか。どうやって選べばいいのか。中学受験塾で社会と国語を教える馬屋原吉博さんに聞いた——。

■文字数も、情報量も多い「小学館版」

——現在、入手しやすい学習まんが「日本の歴史」のなかで、もっとも老舗といえるのが小学館版です。1981年初版の後、1998年に改定・増補版が出ていますね。公式サイトによれば、累計発行部数2060万部とのことです。

『日本の歴史』(小学館)
『日本の歴史』(小学館)

【馬屋原】小学館版の最大の特徴は、第21巻までをあおむら純さんというひとりの作家さんが描き、児玉幸多先生というひとりの先生が監修していらっしゃることです。これは他社にはない大きな価値だと思います。普通、企業として効率よく出版しようということになるとどうしても分業ありきになってしまい、巻によって構成やタッチが違うというようなことが出てきます。そういうなかで、違和感のないシリーズ作品になっているというのは、簡単にまねのできない、オンリーワン性だと思います。

——全体的に、文字の量も多いですね。

【馬屋原】文字数も多く、情報量も多い。内容的には、大学受験までを意識しています。ところどころに見開きのパノラマ絵を配置しているのも工夫の表れですね。金剛力士がどう作られたか、ひと目でわかる大ゴマは印象的でした。

——2018年に、新たに第22巻「平成の30年」が発売されました。

【馬屋原】2020年から、正確に言うと来年からですが、学習指導要領の改定で一気に歴史教育における近現代の比率が高くなります。入試でも近現代がポイントになりやすくなったので、そこも含めてのアップデートで「平成史」の巻を出すというのは自然な動きだったのでしょう。

■「あえて敷居を低くしている」学研版

——刊行順では、次は2012年の学研版です。学習参考書で定評のある出版社だけに、巻末の資料編が充実していますね。

『日本の歴史』(学研プラス)
『日本の歴史』(学研プラス)

【馬屋原】学研版は、あえてまんがの中の情報量を減らしています。文字もコマも大きいのが特徴ですが、お子さんの年齢によってはこちらのほうが親しみやすさがあるかもしれません。オールカラーであるということも、敷居の低さを重要視した結果でしょう。

——全体の巻数も12巻と、いちばん少ないですね。

【馬屋原】全12巻という巻数も、あっさりと通して読むというスタイルにはいいかもしれません。まんがの情報量は少ないですが、欄外には豊富な豆知識があり、巻末の資料は充実しています。興味のある子はそちらも読むことができますので、知識の量自体は確保できているという印象です。

■「歴史の捉え方が新しい」KADOKAWA版

——続いてはKADOKAWA版です。2015年の刊行以来、4年連続で売り上げ第1位(※)だそうです。

※紀伊國屋書店チェーン「学習まんが日本の歴史」ジャンル 2016/1~2019/12

『日本の歴史』(KADOKAWA)
『日本の歴史』(KADOKAWA)

【馬屋原】KADOKAWA版は、学習まんがとして冒険作であり、野心作でしたね。まず、歴史観が非常に新しい。そして全巻の監修をされているのが、山本博文先生おひとりであるということ。その歴史観が反映されています。

——歴史観というと?

【馬屋原】時代はこういうふうに流れているんだよという歴史のとらえ方ですね。時代ごとの背景というものが非常にくわしく書かれています。小学館版もそうですが、シリーズとして通して読むと、やはりひとりの方が全体を監修されているメリットは大きいと思います。シリーズ全体として、詳しくていねいに描くところと、さらりとした解説で流すところのメリハリがハッキリしていますので、まんがで初めて歴史に触れる子どもたちにとっては非常に読みやすく、かつ学びにもつながりやすい内容になっています。

——まんがそのものはどうでしょうか。

【馬屋原】情報量が多く、読みものとしてもドラマとしても比較的読みやすいという特徴があります。巻ごとにまんが家さんは異なりますが、統一感があるのが大きなメリットですね。全体的な文字の量や、セリフとナレーションの配分、コマのサイズなどが全巻を通してかなり統一されているからではないでしょうか。また、資料ページの量は多くはありませんが、グラフや地図などはまんが内に盛り込まれており、まんがの中で説明しようという意識の表れを感じます。紙面の面積に対しての情報量はすごいですよ。中学受験レベルをはるかに超えて、大学受験に手が届くレベルです。

■収納しやすいサイズが、現代の家庭にぴったり

——小学生には、少し難しいかもしれない?

【馬屋原】小学生でも、読むのが好きな子は十分に読めるでしょう。これを読んで吸収できるレベルの子であれば、読ませてあげたほうが将来的に役に立つというか、知見を広げてくれるはずです。また、大人が読んでもおもしろい。大人が読むと、小さい頃に教わった歴史とだいぶ変わっているので、今はこんな感じで教えているんだと知る新鮮味があるでしょうね。

——ソフトカバーで一回り小さい判型(四六判)も、KADOKAWA版が最初でした。

【馬屋原】サイズは非常に重要です。全巻セットの箱を買っても、カラーボックスの中に入ってしまうというコンパクト感。収納という意味でも、現代の家庭にうけるところではないかと思います。

学習まんが比較
(画像提供=馬屋原吉博)

■「20巻のうち8巻」が近現代の集英社版

——2016年刊の集英社版は、近現代に注力しているのが特徴です。

『日本の歴史』(集英社)
『日本の歴史』(集英社)

【馬屋原】全20巻のうち8巻分を、明治維新以降の近現代に割いています。新学習指導要領を意識しているのではないかと思います。近現代を意識しているだけあって、たとえば第20巻の第4章「インターネットの時代」などは、なかなかレベルの高い内容です。インターネットの歴史はもちろん、政治にもたらす影響などもしっかり描かれています。

——まんがについてはいかがでしょうか。

【馬屋原】まんがの中の情報量は抑えて、巻頭と巻末の資料を充実させているという形ですね。表紙を『少年ジャンプ』系の人気まんが家が描いているというのがポイントでもあるのですが、本編を描いているまんが家さんは各巻で異なりますので、巻によってばらつきが出てしまっているということはあると思います。

塾講師の馬屋原吉博さん
撮影=松本順子
中学受験専門のプロ個別指導教室「SS-1」副代表の馬屋原吉博さん - 撮影=松本順子

■「各時代に詳しい人」が監修する講談社版

——講談社版は、2020年7月に発売されたばかりです。

『日本の歴史』(講談社)
『日本の歴史』(講談社)

【馬屋原】判型はKADOKAWA版と同じく、ソフトカバーで四六判。どうしたらKADOKAWA版に勝てるかということを、相当意識したのではないでしょうか。最大の違いは、資料編を巻頭に、しかも全32ページのカラーページのうちのほとんどを費やして掲載していることですね。これだけの資料を集めるのは、著作権が厳しい現代においては大変なこと。それだけ、資料そのものにも価値があるというメッセージを伝えたかったのだと思います。

——KADOKAWA版とは異なり、シリーズ全体の監修者を立ててはいません。

【馬屋原】講談社版は、時代ごとに監修者を立てています。つまり、その時代にくわしい専門の方が担当されているということで、プラスにとらえていいことなのかもしれません。ひとりの方が監修すればその歴史観が明確に出やすかったり、巻ごとのつながりがテーマとして出てきやすかったりしますが、それは専門性を取るか一貫性を取るかということで、どちらが優れているかということではないと思います。あくまで特徴ですね。

■歴史上の人物を「悪人」として描かない

——表紙と本編を同じまんが家さんが描いています。

【馬屋原】第1巻の担当は「将太の寿司」の寺沢大介さん。第1巻ということで会社としても気合が入っていることが伝わってきましたし、構成も演出もよかったですね。ただやはり巻によるばらつきはあります。この1巻で描かれた「黒曜石の矢尻」というアイテムが、最後の第20巻の最終話にも出てくるという演出も印象に残りました。

人物の描き方ということでいえば、講談社版では歴史上の人物を少なくとも悪人としては描いていないのが特徴です。悪役として描かれがちな道鏡についても、彼なりの事情があったのではないかということをていねいに描いています。また、歴史上で「三大悪女」と呼ばれる日野富子も、ヒロインのようなルックスで描かれている。このように歴史の新しい史観を反映しているところが、非常におもしろいと感じました。

——情報量やレベルについてはいかがでしょうか。

【馬屋原】普通に大学受験レベルですね。本来は、高校生が読むといちばん勉強になるのではないかと思います。でも、ちゃんと日本史を学んだことがある子であれば、小学生であっても楽しんで読めると思います。

■書店で子供に選ばせるのが一番いい

——各社の学習まんが「日本の歴史」の特徴についてはわかりました。子供に与える際にはどう選べばいいのでしょうか。

【馬屋原】お子さんが読まなければ意味がないので、まずは書店に連れていって本人に選ばせてくださいと。これがいちばん教科書的な回答ですね。親や祖父母が選ぶということであれば、状況と目的によって選ぶシリーズが違ってくると思いますので、今まで申し上げた各社の特徴を参考にしていただきたいと思います。

——まだ読めないけど、家に置いておきたいという場合もありそうですね。

【馬屋原】そうですね。そういう親御さんもいらっしゃいます。「興味をもってほしい」という気持ちはわかりますが、わが事として受け止めたら、何かに興味をもてと言われて、果たしてもつのかということです。でも、もしお子さんが自分で興味をもったとしたら、それはすごい武器になります。ですから、きっかけになりうる可能性として、本を置いておこうということであれば、もちろんやらないよりはやったほうがいい。でも、そこに即時的な効果を期待するのではなく、何かのきっかけになればというトリガーのひとつとしても、学習まんがを活用してほしいですね。

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馬屋原 吉博(うまやはら・よしひろ)
中学受験専門のプロ個別指導教室「SS-1」副代表
中学受験情報局「かしこい塾の使い方」主任相談員。1983年生まれ。中学受験専門のプロ個別指導教室SS-1副代表として社会と国語を担当、難関中学に多くの生徒を送り出している。著書に『今さら聞けない! 政治のキホンが2時間で全部頭に入る』(すばる舎)、『CD2枚で古代から現代まで 聞くだけで一気に分かる日本史』(アスコム)などがある。

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(中学受験専門のプロ個別指導教室「SS-1」副代表 馬屋原 吉博 構成=芹沢夕 編集協力=KADOKAWA)

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