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「家には掘り出しモノがない」というこれだけの理由

プレジデントオンライン / 2021年1月13日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/flyingv43

家探しをしている時に「この物件は掘り出し物ですよ」と言われたことはないだろうか。公認会計士・税理士の山田寛英氏は「現在の制度上、消費者が不動産屋から、おトクな物件を買うことは不可能に近い」と指摘する――。

※本稿は、山田寛英『不動産屋にだまされるな』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■1650万円の物件を1220万円で買い叩いた不動産屋

家を探して不動産屋とやりとりをしていると、ときに「この物件は掘り出し物ですよ」と迫ってくる営業がいるかもしれない。しかし現在の制度上、消費者が不動産屋から、現実として価値のある、おトクな物件を買うことは不可能に近い。それはなぜか。

新築の場合は、完成した時点でしっかりと利益が乗っているのはもちろん、もし中古で掘り出し物が出てくれば、情報を先に入手した不動産屋が先んじて動いて利益を確保し、適正価格にしたうえで、ようやく一般の市場に出回るからだ。

たとえば「不動産トラブル事例データベース」によると、平成11年5月、消費者から物件の売却の依頼を受けた不動産屋が、1650万円で買うという購入希望者(買主)の存在をわざと隠し、自ら安く買い叩いたケースが見られる(「裁判事例、媒介業者による不当な買取り」)。

この事例では本来、1650万円で売れる価値のあった物件を、不動産屋が売主に対し、「同じマンションの別の住戸が980万円で売れており、市場でこの物件を1000万円以上で売ることは難しい。でも1220万円でいいなら私が買ってあげる」とウソをつき、売買契約を締結させている。裁判の結果としては、詐欺として売買契約が解消されたものの、もし売主が違和感を抱かなければ、不動産屋は安価に買ったものを、そのまま適正価格にし、購入希望者へ転売するつもりだったと思われる。

■証券会社の社員が株を買えない理由

ここで不動産市場を、株式市場と比較してみよう。

株式市場で、証券マンが有価証券を買うのが厳しく制限されているのは周知のとおり。商売柄、これから株価のアップダウンにかかわるであろう情報を入手した株式を自ら購入できれば市場の公正さが阻害され、インサイダー取引だらけとなって、健全な市場が成り立たなくなるからだ。だからこそ株式について、証券マンが自身で株を売り買いすることは厳格に禁じられている。

一方、株取引についての知識や経験を蓄え、その売買で出た利益を「飯の種」にする人たちはプロトレーダーなどと呼ばれる。そうしたプロと、さほど知識も経験もないアマチュアが同じ土俵で売り買いを行うのが株式の特徴である。

■誰かが損をすれば、誰かが儲かる「ゼロサム・ゲーム」

株式は、ある人の損失が、そのままほかの人の利益となる「ゼロサム・ゲーム」の要素がある。だからプロトレーダーから見れば、誰かが市場にお金を落とすことが、回りまわって自分の利益につながるから、特に株式投資に長けていない人に興味を持ってもらうことが重要になる。そのため彼らに対し、「簡単に儲かります」「この株がこれからくる」といったアピールを積極的に行い、新規の投資家を勧誘し続けているのだ。

結果、断片的な情報を鵜呑みにした素人が、情報量や経験の差でソンをする場面が多く見られるが、これは証券市場ができてからの歴史上、繰り返されてきたやりとりである。

ではこのような株式市場に対し、情報も経験も持っていない普通の人がどう対峙すべきかといえば、「かかわらない」のが最適解だろう。そもそも株式など買わなければいい。証券会社に行かなくても、またFXなどの金融商品についての知識を得ずとも、日常生活に影響はない。どうしても株式を買わないと生活に支障をきたす、ということは、まずないはずである。

■「弱肉強食」の側面が強い不動産売買

他方、不動産市場も同じようにプロとアマが戦う世界である。だがしかし、こちらの市場は株式市場と、決定的ともいえる大きな違いがある。それは、仲介を務める不動産業者も自ら家を買えるという点だ。これにより、弱肉強食の側面はさらに強くなる。

ライオン
写真=iStock.com/SeymsBrugger
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SeymsBrugger

現実として、物件がいい条件で持ち込まれれば、市場に出す前に自分で買う、もしくは不動産業者仲間に横流しすることができてしまう。たとえば、もとは安い物件にリノベーションを行い、不動産屋の利益が乗った状態にして市場に戻し、結局、掘り出し物とは言えない価格にして物件を売買する、いわゆる「買取再販」が今は盛んだ。

また、今流行しているアパートなどの賃貸物件を扱った不動産投資では、素人がソンをしてプロがトクをするという、セオリーどおりの事例が目立つ。

たとえば、平成24年3月27日に東京地裁で行われた裁判で、不動産投資を勧められて2件の不動産を購入した買主が、売主である宅建業者(不動産屋)から重要事項を告知してもらえなかったとして、売買契約の取消しが認められた事例がある。

この不動産屋は、2000万円が相場である物件1を「3130万円が相場」と嘘を言い、結局2840万円で買わせている。そして1400万円が相場である物件2を「2300万円が相場」と言い、2100万円で買わせた。さらに「家賃収入が30年以上一定」という、非現実的なシミュレーションを提示するなどし、不利益な情報を伝えないことで売買を成立させたとされる。

■「家」は避けられないからやっかいだ

山田寛英『不動産屋にだまされるな』(中公新書ラクレ)
山田寛英『不動産屋にだまされるな』(中公新書ラクレ)

やっかいなのは、「家は生活と非常に密着した存在」ということである。家を売り買いするため、プロである不動産屋とかかわらざるを得ないという現状は、「かかわりたくなければかかわらなくてもいい」という株式市場とは大きく異なる。

それなのに、未だ仲介人である不動産屋に取引制限はない。

その結果として、一般の消費者が割高な買い物を強いられかねない構造ができあがってしまっているのである。

 

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山田 寛英(やまだ・ひろひで)
公認会計士・税理士
1982年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。アーク監査法人に入所。不動産会社や証券会社を中心とした会計監査実務を経て、税理士法人・東京シティ税理士事務所にて個人向け相続対策・申告実務に従事。2015年、相続税・不動産に特化したパイロット会計事務所を設立。不動産を中心とした相続対策・事業承継を専門とする。公認会計士の立場で不動産と接する中、一般人と業界関係者の力に、圧倒的な力関係が温存されている現状に警鐘を鳴らすとともに、インターネットの力で変革が始まる直前でもあることを主張。各種メディアへの寄稿や講演を行っている。著書に『不動産屋にだまされるな』『不動産投資にだまされるな』(いずれも中公新書ラクレ)など。YouTube「会計士・山田寛英の不動産税金チャンネル」運営中。

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(公認会計士・税理士 山田 寛英)

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