グーグルも実践「出張坐禅&Zoom坐禅」オフィスで"禅集中"の驚くべき効果
プレジデントオンライン / 2021年2月15日 9時15分
■コロナ禍で「坐禅」に救いを求める人が増えている
コロナ禍が長引き、不安やイライラを抱える人が増えている。自分や家族が感染することにたいする不安や、人に会えないことへの孤独感……。平時ならば、スポーツや趣味に興じたり、友人と飲食したりすることでのストレス解消も可能だろうが、それも難しい状況だ。
厚生労働省は2020年末、「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査」の結果(調査は昨年の第1派から第2派にかけて)を公表した。「神経過敏に感じた」「そわそわ、落ち着かなくなった」などのメンタルヘルスに異常を感じた人の割合が、半数程度に及んでいることがわかった。
この閉塞感漂う状況にあって、いま「坐禅」に救いを求める人が増えているという。
「コロナ感染症が広がる前には、坐禅は健康にたいする意識が高い女性などが中心で、多くの人にとっては必ずしも必要なものではなかった。しかし、コロナ禍の時代に入り、自粛生活が続くにつれ、坐禅を始めたいとする人が増えてきていると実感しています。坐禅をやりませんか、とSNSで呼びかけると、あっという間に数十人が集まります」
臨済宗大徳寺派願修寺(小田原市)住職の岩山知実さん(35)は、こう明かす。岩山さんはドイツ人の父を持つ、日本禅寺初のハーフの僧侶だ。2016年に臨済宗の専門道場で修行を終えてからは、特に若い人にたいして坐禅の魅力を伝えてきた。坐禅を伝えるターゲットとして、岩山さんが着目したのはビジネスパーソンである。
■グーグルも実践「僧侶がオフィスに出張して坐禅」が人気
その手法とは、僧侶のほうからオフィスに出張して実施する坐禅会だ。
「従来の坐禅会では仕事帰りや休日を利用して、お寺に来てもらっていました。しかし、我々のほうから能動的にオフィスに出向くことで、坐禅の裾野がもっと広がるんじゃないかと考えました。オフィスにお坊さんが出入りし、昼休みや休憩時間に会議室などを使って坐禅を教えることができればユニーク。時には、悩み相談をお受けすることがあってもいい。企業の福利厚生としてもアリなんじゃないかとも考えました」
それが「フライングモンク」と名付けた、坐禅プログラムである。コロナ禍前の2019年秋、Googleの東京オフィスから依頼があり、岩山さんたちの活動がスタートした。
Googleは、坐禅に概念が近いマインドフルネスなどをいち早く社員教育などに取り入れた企業として知られる。2015年より社員にたいして、朝晩の瞑想を通じた心のメンテナンスを全面的に支援する制度を設けている。Googleが実施した社員精神分析プロジェクトでは、瞑想は離職率の減少と生産性向上の原動力となることが科学的にも実証されている。
■リモートワーク下ではZoomを使った「オンライン坐禅」も活況
Google以外でも、坐禅は欧米の経営者と親和性が強い。アップルの創設者スティーブ・ジョブズと禅との関係は有名な話だ。ジョブズはサンフランシスコの禅センターに通い、曹洞宗の僧、乙川弘文に師事。坐禅や禅の理念を、多くの製品や経営手法に生かした。たとえば、iPhoneなどのシンプルなデザインや直感的な操作性は、禅語の「以心伝心(真理は文字や言葉ではなく、心で伝えていくもの)」に影響を受けた、ともいわれている。
Googleでの出張坐禅の評判は上々だった。だが、折しもコロナ禍がやってきて、リアルな現場で坐禅会を開くことが難しくなった。企業がリモートワークへとシフトするなか、岩山さんはそれを逆手に取った新たなサービス「オンライン坐禅」を立ち上げる。
Zoomなどのオンライン会議システムを使えば、場所を問わずにどこでも坐禅ができる。岩山さんは、椅子に座ったままでも可能な坐禅プログラムを考案した。オンライン坐禅は、1回あたりおよそ30分。坐禅が終わると、「ビジネスに活かせる仏教の教え」をテーマにした法話をしてくれる。
■途中参加や途中退出が自由、場所や人数を問わない手軽さ
リアルな坐禅会で味わえる、お堂の荘厳な雰囲気に浸ったり、警策で打たれたりすることはオンラインでは難しいが、逆にオンラインならではの利点もある。
途中参加や途中退出が、気兼ねなくできるなどの手軽さ。また、場所や人数を問わないので、海外のオフィスでも同時開催が可能となる。その時に参加できなかった人には、後日録画したものを送ることができる。
大手印刷会社の凸版印刷では2020年夏、フライングモンクのオンライン坐禅を取り入れた。始業前の30分間、オフィスや自宅など、おのおのの仕事場から参加した。
コロナ禍だからこそ、法話も心にしみる。岩山さんと一緒にフライングモンクに参画している宝泉寺(小田原市)の副住職、原宗久さん(36)は「即今只今」という禅語を使って、凸版印刷社員にこう説いた。
「即今も只今も、『たった今、現在』という意味です。コロナ禍ではありますが、不安やしがらみに囚われず、いま、目の前にあること、いまここにいる自分に集中してください。例えば、仕事に着手しようとする際、何かモヤモヤしていて着手できなくても、いざ、仕事をスタートして、集中すれば意外と捗(はかど)った、という経験があるでしょう。まさに、それが坐禅の境地なのです。坐禅は、自分自身にひたすらに向き合うことを目的とします。心がモヤモヤしている時には、30秒でも1分でもいい。姿勢を正して、呼吸を落ち着かせる訓練をしてみてください。きっと仕事にも活かせるはずです」
■「自分自身が坐っていることすら忘れ、安らぎの境地に」
凸版印刷では近年、仏教の教えを使った社員研修などを積極的に実施。社員のモチベーションや倫理感の向上に役立てている。
凸版印刷の参加者からは、「普段、時間に追われるなかで、あえて思考を停止する時間が持てたのはとても贅沢なひとときだった」「始業前に坐禅を行うことで、いったん心を整えて仕事に臨めた」「その日、何をすべきか自分の中で整理がついて仕事に集中できた」「生涯、坐禅を続けていきたいと思うようになった」などの感想が聞かれた。
岩山さんは話す。
「初心者の方はまず、オンライン坐禅や地域の坐禅会などに参加し、禅僧から基本的な姿勢の取り方と呼吸法を教わるのがよいでしょう。呼吸の深め方などの技術を習得すると、思考がストップする『坐忘(ざもう)』の状態になります。そして、自分自身が坐っていることすら忘れ、安らぎの境地に入ります。コロナ禍の中、イライラが増えているなと感じたら、是非、坐禅をはじめてみてください」
今どきの言葉を借りれば、まさに「禅(全)集中」。終息が見えないコロナ禍、ぜひ自分自身と静かに向き合う時間を、つくってもらいたいと思う。
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浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『仏教抹殺』(文春新書)など多数。近著に『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)。佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)
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