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「女子チア部員が下半身不随で顧問とコーチが責任逃れ」学校で事故が多発する根本原因

プレジデントオンライン / 2021年5月13日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/IPGGutenbergUKLtd

中学・高校の部活中に起きる事故の数は年間平均35万件にも達し、中には死亡事故に至るケースもある。スポーツライターの酒井政人さんは「高校の女子チアリーディング部の練習中、下半身不随の大ケガをした元部員が今年2月、学校を訴えました。事故の責任の所在を明確にし、部活に励む生徒の向上心に応えるためにも中高の部活の管理や指導は適切な“人材”を活用する仕組みを整えるべき」と訴える――。

■「女子チア部員が下半身不随」で顧問とコーチが責任逃れの背景

筆者の母校で、痛ましい事故が起きた。

愛知県の岡崎城西高のチアリーディング部の練習中に元女子部員が習熟度に見合わない危険性の高い練習をさせられ、下半身不随の大ケガをしたのは2018年7月のこと。元女子部員は2021年2月、同校を運営する学校法人を相手取り、将来にわたる介護費など約1億8300万円の損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴した。

新聞報道などによると、部の男性顧問は部活に姿を見せることは少なく、外部の女性コーチが技術指導をしていたが、事故時は2人とも不在だったという。元女子部員は入部してわずか4カ月目に生徒たちだけの活動中に大技の練習をして事故に遭った。当時の練習状況は、必要な補助者もなく、マットを敷くだけというお粗末なものだったようだ。

弁護士や専門家も参加して同校が作成した事故調査報告書では、「顧問は安全指導を含む全指導を外部コーチに一任していた」との認識を示す一方、コーチは「自身は責任者ではない」と考えていたという。責任の所存がハッキリとしない状態で、安全な指導も徹底されないなかで日々の活動が行われていたようだ。

本来であれば避けられたであろう事故が起きてしまったことは本当に残念でならない。学校側は真摯な対応をするべきだろう。同時に、このような悪夢を二度と起こさないように徹底した再発防止策も求められる。

■顧問教員、部活動指導員、外部コーチ「誰が部活の責任者か」

実は今回のような事件は氷山の一角だ。中学・高校での事故の半数以上は運動部の活動中に起きており、その数は年間35万件にも上っている。日本スポーツ振興センター(JSC)のデータによると、部員数の多いバスケットボールやサッカー、野球、バレーボールなどで事故が多いという。部活中の死亡事故も年間に10~20件ほど起きている。

その主な原因は学校側の「管理不行き届き」だが、非常に悩ましい問題が絡んでいる。

前提として知っておきたいのが、少子化が進む一方で部活動は多彩になっていることだ。全国高等学校体育連盟(高体連)には多くの運動部が所属している(陸上競技、体操、新体操、競泳、飛び込み、水球、バスケットボール、バレーボール、卓球、ソフトテニス、ハンドボール、サッカー、ラグビー、バドミントン、ソフトボール、相撲、柔道、スキー、スケート、ボート、剣道、レスリング、弓道、テニス、登山、自転車競技、ボクシング、ホッケー、ウエイトリフティング、ヨット、フェンシング、空手道、アーチェリー、なぎなた、カヌー、少林寺拳法。このなかで水球、ラグビー、相撲、ボクシングは男子のみで、なぎなたは女子のみ。それ以外は男女ともにある。25年前はほとんどなかった女子サッカー部は全国で約700校が登録している)

コーチと部活に励む子供たち
写真=iStock.com/Macrovector
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Macrovector

高体連以外では「甲子園大会」を主催している日本高等学校野球連盟(高野連)がメジャーな存在で、他にも応援団部のような伝統的なものもあれば、近年注目を浴びているダンス部、チアリーディング部などもある。ちなみに筆者が岡崎城西高に在籍していた時代は男子校だった。同校は1999年度から共学となり、新たな運動部が次々と誕生した。事件が起きたチアリーディング部もそのひとつだ。

新たな部を立ち上げる時は、顧問の教員が必要となる。しかし、マイナー競技や近年流行しているスポーツは、顧問が経験したことがないケースが少なくない。日本体育協会の運動部活動に関する調査では、約半数の教員が担当する部活動について競技の「経験なし」と回答しているのだ。

未経験の運動部活動の顧問を任されることは教員の心理的負担になるだけでなく、その競技を学ぶ必要が出てくる。マジメに取り組むほど多忙になり、勉強が不十分だと適切な指導をするのが難しくなる。そのため、部活の顧問をやめたいと考えている教員も少なくない。なかなか“適任者”が現れないのが現実だ。

スポーツ庁は「運動部活動については、顧問となる教師の長時間労働につながるとともに、教師に競技経験等がないために、生徒が望む専門的な指導ができない、生徒のスポーツニーズに必ずしも応えられていないこと等の課題があります」と指摘している。

5年に一度実施されている「OECD国際教員指導環境調査」(2018年)によると、日本の教員が課外活動(主に部活動)に費やした時間は週7.5時間。参加国の平均(週1.9時間)を大幅に上回り、1週間当たりの仕事時間は48カ国中最長だった。こうした調査結果から部活動の長さが教員の多忙化を引き起こしていることが問題視されるようになった。

この事実を踏まえ、教員の仕事時間を減らせるように、2017年には教員の「働き方改革」の一環として教員以外の「部活動指導員」が制度化され、認められた。コーチの外部委託は以前からあったが、その多くはOBなどが土日に顔を出して、交通費程度の謝礼で選手たちを指導するというものだ。法律上、外部コーチは身分が不明瞭で、活動中に事故が起こった場合に責任の所在が曖昧だった理由から、単独で大会などに生徒を引率することは認められていなかった。

なお部活動指導員は学校教育法において「学校職員」という身分になる。さらに有償であることが定められ、研修も義務化された。技術的指導だけでなく、単独で顧問になることや大会に生徒を引率することが可能になったのだ。

その報酬額は公立中学の場合で1時間当たり1600円、週3~5回というのが一般的(条件は自治体によって異なる)。しかし、各自治体が定める条件には、「教員免許を授与された経験がある人」「運動部活動の指導経験がある人」などが含まれている場合がほとんどである上、部活動は平日16時ごろから18時ごろまでが多い。その時間に学校に赴き、指導ができる者となるとかなり限られてくる。そのため教育現場で部活動指導員の活躍度はさほど高くないようだ。

■中学・高校の部活動は「外部スタッフ」を有効活用せよ

実は学習指導要領で部活動は教育課程外の自主的・自発的な活動だと位置づけられており、教員が常に帯同する必要はない。そのため、前出の岡崎城西チアリーディング部の顧問のようにほとんど顔を出さない教員がいる一方で、毎日熱血指導をしている教員もいる。

スポーツ庁が2018年3月に策定・公表した「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」では、「地域のスポーツ団体との連携、保護者の理解と協力、民間事業者の活用等による、学校と地域が共に子供を育てるという視点に立った、学校と地域が協働・融合した形での地域におけるスポーツ環境整備を進める」と記された項目もある。

そもそも学校の部活動はコーチ(顧問の教員、部活動指導員、外部指導者)によって、指導力の幅が大きい。また各自治体、学校で施設の状況も大きく異なる。外部指導者のような専門スタッフがいるチームは独自でやればいいが、問題はそうした存在がいないケースだ。

その場合、各地域で外部指導者を“シェア”することも考えたほうがいいだろう。各地域でその競技に精通する外部指導者を雇い、月に1~2回、土曜日に各校の選手が集まり、合同で練習するのだ(人数が多い場合は参加できる人数を決めてもいい)。安全面での注意点はもちろん、専門的なトレーニング方法などを学び、各学校に持ち帰ることができる。顧問の教員も必要に応じて勉強が可能になる。

元選手の中には指導者をやってみたいと考えている人は少なくない。指導者になりたい元選手と、専門的な指導者を探している学校。実は両方ともニーズがあるのだ。学校側は外部コーチを内々で探すことが多いが、一般公募すればいい。近年は外部コーチを派遣する会社も出てきており、必要な人材を確保するのはさほど難しくなくなっている。

チアリーダーのシルエット
写真=iStock.com/ChrisGorgio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ChrisGorgio

中学・高校ではそれぞれの科目を専門教員が授業を担うが、部活動はそうではない。選手の気持ちを考えても、競技の知識が未熟な先生に教えてもらうよりも、例えば、日本トップクラスだった元選手に月に数回でも指導を受けられたほうがありがたいに決まっている。とにかく人材を有効的に使うことを考えるべきだろう。

顧問の教員、単独で生徒を引率できる部活動指導員、競技面に精通している外部指導者、それから生徒たちの自主性。これらをうまく活用することができれば、日本の部活動のレベルはさらに上がるのではないか。強豪校に行かなくても、才能を伸ばすことも可能になるだろうし、教員の負担も軽減できるはずだ。

学校関係者は生徒と教員、それからスポーツ指導者を志す者たちのために、柔軟な考えで対応することを望む。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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