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話題の企業の決算書から学ぶ、「財務3表」の超基礎早わかり

プレジデントオンライン / 2021年8月19日 8時15分

ビジネスの世界で活躍するには、「決算書」を読み、分析し、判断して行動に移す力が不可欠です。数字が苦手な人でも簡単に理解できるよう、公認会計士の金川顕教さんに図解してもらいました。

■決算書は会社の「成績表」「健康診断書」

決算書は、会社の1年間の活動とその結果を数値化して記録した「成績表」であり「健康診断書」です。

決算書を読むことで、その会社がどんな活動をし、結果としていくら稼ぎ、どれだけ利益を得たのか、どんな資産があり、それをどうやって集めたのか、お金の流れはどうなっているのかがわかります。しかも、なぜ利益が出たのか、なぜ損失が出たのかもわかるのです。

一口に「決算書」といっても複数の種類があります。なかでも、会社の業績や収益性がわかる「損益計算書(P/L)」、会社の財務状態や安定性がわかる「貸借対照表(B/S)」、会社のお金の動きや成長性がわかる「キャッシュ・フロー計算書(C/S)」を「財務3表」といい、重視されています。財務3表は、それぞれを単独で見ることも大切ですが、3表の関係性を把握し、組み合わせて分析することで、もうかっているのか、倒産の心配がないか、伸びそうかなど会社の経営状態をより深く知ることができます。

なお、決算書は毎年最低1回は作成し、利益から税金を払うために税務署に提出することがすべての会社に対して義務づけられています。

■損益計算書で1年間の会社の稼ぎがわかる

「損益計算書(P/L)」は、1年間の収益とかかった費用から、どのくらい利益をあげたのか、あるいはどのくらい損をしたのかを表す、会社の「成績表」です。これを見れば、その会社がどうやってもうけているのか、どんな費用を使っているのかがわかります。

損益計算書は、「売上高(収益)」「費用」「利益」の3つで構成され、「売上高」から「費用」を引いた結果がプラスなら「利益」が出て、マイナスの場合には「損失」が出ることになるのです。

ちなみに、損益計算書は図のように3つの収益と4つの費用から5つの利益を計算します。

このうち「営業利益」は、本業の稼ぐ力を表します。そのため、営業利益がプラスかマイナスか、さらに過去3年分程度を比較してどう変化しているかをチェックすることで、本業がうまくいっているかどうかがわかるのです。営業利益は5つある利益のうち、最も重要といえるでしょう。また、1年間の最終的な利益を示すのが「当期純利益」です。これも1年間だけではなく、過去3年分程度の変化の様子や前期との変化の割合(%)を確認しましょう。

1年で稼いだ金額が見える「損益計算書」

■3つの箱の大きさから会社の安定性がわかる

「貸借対照表(B/S)」には、決算日の時点でその会社にどんな資産があり、それをどのように使っているのか、そもそもその資産をどうやって集めたのかが書かれています。

貸借対照表は、「資産の部」「負債の部」「純資産の部」という3つの箱(要素)からできていて、左側にはお金の使い方、右側にはお金の集め方が書かれています。詳しくいえば、左側の資産の部には会社の資産、右側の負債の部は支払う義務のあるお金、純資産の部は支払う義務のないお金が書いてあります。

3つの箱の大きさを比べることで、経営状態が安定している健康な会社か、不健康で倒産しそうな会社かがわかります。とすると、貸借対照表は会社の「健康診断書」ともいえるでしょう。なお、ここに書かれているのは決算日時点の資産ですが、これまでの企業活動で積み上げてきた結果でもあることをお忘れなく。

会社の健康状態がわかる「貸借対照表」

■組み合わせで会社の状態を判断

「キャッシュ・フロー計算書(C/S)」は、一定期間のお金の流れを表すもので、その会社の成長性や将来性を判断する材料になります。

本業でのお金の出入りを表す「営業キャッシュ・フロー(営業CF)」、設備投資や資産運用など会社の投資活動でのお金の出入りを表す「投資キャッシュ・フロー(投資CF)」、銀行などからのお金の貸し借りを表す「財務キャッシュ・フロー(財務CF)」という3つの箱(要素)で構成されています。このうち、投資CFと財務CFは、それだけで会社の状態を判断することは困難です。3つの箱の組み合わせがどうなっているかをチェックすることによってはじめて、会社の経営状態をトータルに判断することができます。

成長段階がわかる「キャッシュ・フロー計算書」
「財務3表」は“つながり”で見る

■【Q&A 1】アパレル業界で検証! しまむらのP/Lはどちらでしょう?

ここからは同業2社を比較しながら、読者代表の吉田さんとの会話形式で学びます。最初はしまむらとレナウンのP/L。どちらがしまむらでしょう?

しまむらってどんな会社?

低価格の実用・ファッション衣料などを販売する専門店チェーン。堅実経営が特徴。ベビー・子ども用品、雑貨など複数業態を展開。


レナウンってどんな会社?

1902年創業の老舗アパレル企業。2010年、中国の繊維大手グループ傘下に。業績不振にコロナが加わり、20年11月破産。

A社のP/L、B社のP/L
売上高は変化を見る
「営業利益」と「経常利益」から資金力が見える
「売上総利益」と「営業利益」で経営状態を判断
どちらが正解か一緒に考えてみよう!
金川先生と吉田さん

【金川先生】ライバル会社を決算書で比較すると、さまざまなことがわかります。まずはP/Lです。低価格の実用・ファッション衣料などを販売するしまむらと、老舗アパレル会社で、かつては業界内で売り上げ日本一だったレナウンを取り上げて比較しました。どちらがしまむらの損益計算書なのか、わかりますか?

【吉田さん】レナウンって、確か、倒産したんじゃなかったですか?

【金川先生】そうです。大きなニュースになりましたよね。新型コロナウイルス感染症拡大の影響も大きかったとは思いますが、実は、その前から業績が悪化していたんですよ。B社の本業のもうけを表す「営業利益」を見てください。2019年2月期、19年12月期ともマイナス、つまり赤字になっていますね。

【吉田さん】本当だ! 19年からもうかっていませんね。

【金川先生】はい。B社は「営業利益」も「経常利益」も19年2月期からマイナスで、③の図にあるとおり資金面で弱い状態であるとわかります。一方、A社は「売上高」は減少しているものの、「営業利益」も「経常利益」も黒字です。

【吉田さん】資金が潤沢にある可能性が高いんですね。

【金川先生】営業利益率はどうでしょう。

【吉田さん】A社はプラスだけど、B社はマイナス。ということは、B社がレナウンで、A社がしまむらですね。

【金川先生】正解です。損益計算書を読むポイントはもうバッチリですね。

■【Q&A 2】カラオケ業界で検証! ビッグエコーのB/Sはどちらでしょう?

会社の財務状態や安定性がわかる「貸借対照表(B/S)」は、第一興商と鉄人化計画を比較。どちらが「ビッグエコー」を展開する第一興商でしょうか。

第一興商ってどんな会社?

カラオケルーム「ビッグエコー」などを展開する、業務用カラオケのリーディングカンパニー。飲食店の運営なども手がける。


鉄人化計画ってどんな会社?

東京都や神奈川県、千葉県でカラオケルーム「カラオケの鉄人」を展開。まんが喫茶、複合カフェの「アジールエッセ」も出店。

C社のB/S、D社のB/S
倒産リスクは1と2をチェック
純資産の違いで何がわかる?
どちらが正解か一緒に考えてみよう!

【金川先生】B/Sは、「ビッグエコー」などを展開する第一興商と、「カラオケの鉄人」を展開する鉄人化計画を比較してみましょう。どちらが第一興商なのか、わかりますか?

【吉田さん】第一興商は、カラオケ業界のトップ企業でしたよね。業績もいいというニュースを見た気がします。

【金川先生】そうなんです。業績がいいということは、「利益剰余金」もきちんと積み上がっているので、財務状態も安定している可能性が高いですよね。

【吉田さん】ということは、「利益剰余金」のところがマイナスになっていることはありませんね?

【金川先生】おっ、いいところに目をつけましたね。毎年、利益が積み上がっていれば、「利益剰余金」が増えていき、純資産も増えていくはずです。

【吉田さん】なるほど。ということは、収益力が高いだけでなく、会社の安定性も高いでしょうね。

【金川先生】そうです。もう答えがわかってしまいましたね。D社が第一興商です。すぐに現金化できる「流動資産」が「負債(流動負債+固定負債)」を上回っているので、実質的には無借金経営の状態といえるでしょうね。ただし、純資産がたくさんあると、株主から「配当金をもっとたくさん払え」とか、「もっと積極的に新商品を開発しろ」などと要求されることもあるんですよ。

【吉田さん】カラオケ業界はコロナ禍で影響を受けましたけど、テレワークプランを打ち出したりして、新たな取り組みもしているようなのでこれからも注目ですね。

■【Q&A 3】ファミレス業界で検証! サイゼリヤのC/Sはどちらでしょう?

「キャッシュ・フロー計算書(C/S)」は、ファミレス業界2位のサイゼリヤと5位のジョイフル傘下のフレンドリーを比較。どちらがサイゼリヤでしょうか?

サイゼリヤってどんな会社?

首都圏を中心に、低価格のイタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」を展開。野菜の栽培、収穫から加工・調理までを自社で管理。


フレンドリーってどんな会社?

近畿圏で和食主体のファミリーレストラン「産直鮮魚と寿司・炉端 源ぺい」などを展開。業界5位のジョイフルの子会社。

E社のC/S、F社のC/S
C/Sの組み合わせパターンで経営状態を診断
どちらが正解か一緒に考えてみよう!

【金川先生】C/Sは、3つの箱(要素)の組み合わせからトータルな判断をすることがポイントです。ファミレス業界から2社をピックアップしてみましたが、C/Sを観察してE社とF社は、どんな状態だと思いますか?

【吉田さん】E社は2018年8月期と19年8月期の「営業CF」がプラスで、「投資CF」と「財務CF」がマイナスなので成長が期待できる状態、20年8月期は「財務CF」がプラスになったので借入金を利用して、さらに成長を目指しているのではないでしょうか。

【金川先生】その通りです。一方のF社では、19年3月期は「営業CF」と「投資CF」がマイナスで「財務CF」がプラス、20年3月期は3つの箱すべてがマイナスです。どちらも危険信号ですから、今後の動向を注視する必要がありそうですね。

【吉田さん】ファミレス業界は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響も大きそうですし、どの会社も厳しい経営状態が続いていそうです。

【金川先生】でも、サイゼリヤは、「テイクアウト+イートイン」の小型店の新業態の投入を開始しているんです。

【吉田さん】アフターコロナを見据えた投資を行っているんですか? ということは、サイゼリヤはE社ですね。

【金川先生】正解です。こんな挑戦ができるのも、実質無借金の財務基盤があるからです。かなりの資金調達もしたようですけれども……。

【吉田さん】C/Sを見ても現金がたくさんありそうですしね。決算書を読むのが楽しくなってきました。

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金川 顕教(かながわ・あきのり)
公認会計士
三重県生まれ、立命館大学産業社会学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格。有限責任監査法人トーマツ勤務を経て独立。経営コンサルタント、ビジネスプロデューサーとしても活躍。著書に『80分でマスター![ガチ速]決算書入門』など。

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(公認会計士 金川 顕教 構成=大山弘子 イラスト=tactsato)

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