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「高年収は勝ち組、低年収は負け組」そう考える人ほどストレス性障害に陥りやすい

プレジデントオンライン / 2021年10月31日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tzido

適応障害(ストレス性障害)は、自覚症状のないケースが多い。精神科医の和田秀樹さんは「適応障害は遺伝要因よりも、その人が受けてきた教育やしつけの影響のほうが大きい。たとえば何でも二分割で考える人は危ない」という――。

※本稿は、和田秀樹『適応障害の真実』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

■なんでも白黒はっきりつけたがる人は注意

日本において適応障害は一番予備軍の多い病気かもしれません。

「適応障害になりやすい人」という言い方が正しいのかどうかはわかりませんが、「なりやすい思考パターン」は確かにあります。

適応障害になりやすい人は、以下に挙げるような「なりやすい思考パターン」を持っている場合がほとんどで、いわゆる遺伝的な原因による病気ではありません。遺伝要因よりも、その人が受けてきた教育やしつけの影響のほうが大きいのです。治療にあたっては、「認知療法」によってそのような思考パターンを矯正していくことになります。

【二分割思考】

「二分割思考」は、適応障害になりやすい思考パターンのなかでもとくに代表的なもので、なんでも白黒はっきりつけようとする考え方のことを言います。

近年はとくに多くなっているようで「正しいか間違いか」「イエスかノーか」「敵か味方か」「善か悪か」というようにとにかく物事を単純化して決めつけてしまうのです。曖昧な状態は不安で気持ちが悪く、どちらか一方に決めつけないではいられません。

■「即断即決」で一見優秀な考え方のようだが…

しかしながら、世の中は簡単に白黒つけられないことばかりで、グレーゾーンのほうがずっと多いのです。どんなことであっても敵か味方かというのははっきりとわからないものです。「あいつとは30%ぐらい意見が合わないけど、70%は嫌いじゃないんだよな」などと、どこか曖昧でグレーな状態にあることのほうが普通ではないでしょうか。

「子どもを褒めて育てるか、叱って育てるか」というのは、どちらが正解とは言い切れない問題です。たとえば「褒めて成績が上がる子が70%で、叱って成績が上がる子が30%」というデータがあったとして、「70%だから褒めるのが正解だ」と決めつけてしまうのが、まさに二分割思考です。

現実には自分の子どもがその70%のほうなのか、それとも30%のほうなのかはわかりません。本当は30%の叱られて伸びるタイプだった時に「70%が正解」と褒め続ければかえってマイナスになるかもしれません。

「子どもは叱るよりも褒めるほうがいい」と白黒はっきりつけるほうが、自分自身は楽になるのでしょうが、他の可能性を考えず安易な答えに飛びついてしまうと、それが原因で子育てに失敗したり、ストレスを溜め込むことにもなるのです。

二分割思考は「即断即決」のように見えることから、これを優れた考え方のように思う人もいるでしょう。しかし即断即決と「しっかり考えたうえで白黒つける」のは別物です。

■「よいところがあれば自分や他人を許す」姿勢が大事

心理学には「白と黒の間にはグレーがある」「グレーにも、濃いグレーもあれば薄いグレーもある」と理解できるようになることが人間的な成熟であるとする考え方があり、これを「認知的成熟」といいます。

社会心理学者の岡本浩一氏は「曖昧な状況下や白か黒かはっきりしない状況になったときに、不安な気持ちが強くなって慌てて白か黒か決めようとする人は、知的な意味での成熟度が低いのだ」と言います。

これを「認知的複雑性」といい、複雑な状態をいかに我慢できるかが、人間の成熟度を計るものさしになります。大人になるというのは曖昧さに耐えられるようになることなのです。

二分割思考で「この本はほとんどダメだ、使えない」と思ってしまうとその本は読む価値がまったくないという結論になるでしょう。しかし「この本に書いてあることの80%は無駄だが、20%は参考になった」と考えた時には、「まあ、20%役に立つならいいか」と思えてくるものです。

よいか悪いかをはっきり決めてしまえば楽ですし、「よいところもあれば悪いところもある」などと言うと優柔不断と批判されることもあるでしょう。しかし「正解はこれだ」と決めつけてしまうと、そうでない状況が生じた時にストレスで苦しむことになります。

それ以上に悪いところがあっても、よいところもあれば自分や他人を許す姿勢が適応障害の予防になります。

■「こうでなければならない」という考えの人は注意

【完璧主義】

「完璧主義」の思考パターンは「100点でなければ0点と同じで、意味がない」というものです。

完璧主義の人は、仕事においてもすべてに完璧を目指し、会議で出す書類作成一つにもいたずらに時間を費やしてしまいます。細かい部分に目が向いて欠点ばかりが気になります。

書類を前に説明するビジネスマン
写真=iStock.com/scyther5
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/scyther5

しかし、実際の世の中は「別に100点を取らなくてもいい」ことばかりです。受験でも100点満点をとる必要はなく、合格最低点を取れば合格できるのです。あらゆる面で完璧ばかりを求めるようになると、これがストレス要因となって、適応障害やうつ病を引き起こすことにもなるのです。

【かくあるべし思考】

「かくあるべし」、つまり「こうでなければならない」という考え方が強すぎるのも、適応障害やうつ病になりやすいパターンです。

何事においても「~すべきである」「~しなければならない」といった考えに固執してしまうと「こんなこともあるかもしれない、あんなこともあるかもしれない」といった柔軟な考え方ができなくなります。そして自分の考えと異なることが起きた時にはやはり大きなストレスがかかってしまいます。

■「こんな道もある」と模索できる人はストレスに強い

たとえば、「主婦なのだから、家事は全部私がやらなければいけない」と思い込んでしまうと、それができなかった時にはストレスを溜め込んでしまいます。しかし「ほかにもたくさんの生き方がある」と考えられるようになれば、これが適応障害やうつ病の予防になることがわかっています。

「幸せになるにはこの道しかない」と思い込んでいる人よりも「こんな道もある、あんな道もある」といろんな道を探せる人のほうが、きっとストレス負荷の少ない人生を送ることができるでしょう。

「出世レースで負けた官僚が自殺した」というような話を聞くことがあります。すると多くの人は「あの人は挫折を知らなかったから、ショックだったのだろう」と言いますが、これは挫折を知らなかったからではなく、正確には「挫折をしたあとの生き方を知らなかった」ということなのだと考えられます。

「自分は官僚として出世するべきである」との考えに固執してしまったために、それ以外の生き方ができなかったというわけです。大学の先生にでもなればいい、テレビのコメンテーターにでもなればいい、外資に移って金を稼ごうなど、他の選択肢があれば自殺することにはならないはずです。

■「いつも」「みんな」…口癖のように言っていないか

【過度な一般化】

「過度な一般化」とは「○○がそうだったから」と一部の事実だけを取り上げて、それを「いつも」「みんな」「絶対に」などと、広く一般化してしまうことを言います。

未成年による殺人事件が起きると「最近の子どもは、キレやすい」などと言い出すのはその顕著な例です。実際に警察庁の統計データを見ると、少年犯罪の人口あたりの件数は1980年頃をピークにして近年はむしろ減少しています。

また、東京でコロナの感染者が増えているからといって、一足飛びに「日本人全体が危ない」などと危機感を煽るのもおかしな話です。すでにコロナがおおむね収束している地域がいくつかあるからです(2021年7月時点)。

「プレゼンでミスをした。私はいつも大切な時に失敗するんだ」「同僚があいさつをしてくれなかった。みんな私を嫌っているに違いない」などと考えてしまうのも過度な一般化の例です。

■ミスを過大に捉え、自分のせいにしてしまう

【拡大視・縮小視】

仕事上のミスのような自分に都合の悪いことは過大に捉え、逆によくできていることを過小に考える「拡大視・縮小視」もまた適応障害を起こしやすい思考パターンです。

一度遅刻したぐらいで「会社にとって私はお荷物だ」と思い込み、いくら周囲が「たいしたミスではない」「あなたは普段から十分に活躍してくれているよ」と励ましても聞く耳を持たない――これは自分のミスを拡大視した例です。

仕事がうまくいっている時でも「こんな仕事は大した価値がない」と考えたり、難関資格を持っていても「こんな資格は誰にでも取れる」と思ってしまう――これは縮小視です。

このような考え方により自己評価をどんどん下げてしまうことで現実との間にストレスが生じた時に、適応障害になるのです。

電話対応をしながらパソコンを操作する女性
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo
【自己関連付け】

「自己関連付け」とは、自分とは関係があるとはいえない出来事までもすべて自分に関係があるものとして考えてしまうことを言います。

たとえば自分がかかわるプロジェクトでトラブルが発生した場合、その責任はまずプロジェクトのリーダーが負うものですし、細かく見ていけば決して誰か一人だけが悪いということではなく、さまざまな要因が絡み合ってうまくいかなかった場合がほとんどです。

■「高年収は勝ち組、低年収は負け組」という発想

ところが自己関連付けの気質が強い人は「自分がもっと頑張らなかったせいだ」「あの時こうしていればよかった」などと自分と結びつけ、それによって自分を追い詰めてしまいます。「責任感が強い」とも言えそうですが、実際には一種の自己満足(あるいはその裏返し)にすぎません。

逆に、皆で成功させたプロジェクトであっても自己関連付けの気質が強い人だと「これは自分の成果だ」と考えたりします。そのような身勝手なまでの前向きさは適応障害やうつ病と無縁のようにも思われますが、しかしこれは「自分が悪い」という思考パターンと表裏一体のものですから、一度失敗してしまうと一気に落ち込んでしまうことになりかねません。

【レッテル貼り】

勝ち組、負け組など、わかりやすいラベルを貼って物事を判断することを「レッテル貼り」と言います。他者に対してだけではなく「おれは落伍者だ」などと自分にレッテル貼りをして勝手に落ち込んでしまう人もいます。

レッテルにたいした根拠はありません。高年収が勝ち組で低年収が負け組だとレッテルを貼ったところで、そんなものは人間の特徴の一部を切り取り単純化したものにすぎません。

困るのは、一度貼ったレッテルはなかなか剝がせないことで、それは時に差別にもつながります。森喜朗元首相が「女性は話が長い」と言ったのもレッテル貼りの一つの例で、あれを見ただけでもレッテル貼りがいかにバカバカしいかが、わかるのではないでしょうか。

■ささいなことでも「バカにされている」と決めつける

【読心】

「読心」とは相手の心を決めつけてしまうことを言います。

和田秀樹『適応障害の真実』(宝島社新書)
和田秀樹『適応障害の真実』(宝島社新書)

ささいなことを根拠と考えて、「あいつは内心で私のことをバカにしている」などと勝手に思い込んでしまうのです。とくにうつ状態の時は、「相手が自分に対してネガティブな感情を持っている」と思い込みがちで、そのため対人関係もうまくいかなくなってしまいます。

しかし本来、人の心というのは精神科医であっても見通せるものではありません。適応障害やうつ病に悩む患者に対しても、カウンセリングを行うたびに「こういう考えだろうか」「この人の本音はこうではないだろうか」と仮説と検証を繰り返し、ようやく「もしかするとこの人の悩みの原因はここにあるのかもしれない」というものが、おぼろげに見えてくる程度です。

それほど人の気持ちを読むのは難しいもので、根拠のない決めつけが事実を言い当てることなど、まずあり得ないと考えていいのです。

■そのときの感情で現実を認識する危うさ

【情緒的理由付け】

「情緒的理由付け」とはその時の自分の感情に基づいて現実を判断してしまうことを言います。気持ちが落ち込んでいる時は「何をやってもうまくいかない」と悲観的な判断をし、気持ちが高揚している時には、「何でもうまくいく」と楽観的な見方をします。

バブル末期の日本において、ほとんどの経営者は「株価はまだまだ伸びる!」「地価は下がることはない」と楽観的な判断を下し、そのせいでバブル崩壊時により大きなダメージを負いました。これは感情が大きく現実の見方をゆがめた例です。

例示したような適応障害やうつ病になりやすい思考パターンの人に対して、精神科医やカウンセラーが「そんな考え方をしていたら落ち込むでしょう」「そんな考え方をしていたらさすがに仕事へ行くのが嫌になるよね」などと指摘して、少しずつ考え方を変えていくというのが認知療法の基本的な考え方です。

適応障害の自覚がない人でも、まずは「自分は適応障害になりやすい思考パターンに当てはまっていないか」「こういう完璧主義は危ないのか」「二分割思考はやめたほうがいいのか」と、自身を見直してみるとよいでしょう。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)

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