「木下都議はほくそ笑んでいる…」元地方議員が激白"前代未聞の居座り"の真因
プレジデントオンライン / 2021年11月11日 20時15分
■西宮の号泣議員以来の「恥ずべき珍事」
東京都議選の期間中に無免許運転で人身事故を起こし、揚げ句の果てに議会をボイコットし続けてきた木下富美子都議が11月9日になって久々に都議会に現れた。日本中のお茶の間に話題を振りまき、報道も過熱する一方だが、地方議会にとっては「西宮の号泣議員」以来の恥ずべき珍事が続行中だ。
「なぜ、こんな人が議員を続けられるの?」
「どうして辞めさせられないのかしら?」
「この国の制度はどうなってるの?」
巷(ちまた)からそういった声が後を絶たないが、それもそのはず、今回の事件は、そもそも地方議会の常識やルールでは「通常起こりえないこと」が続々と起きているのだ。
この事件は、何重にもガードされた制度や慣習を木下都議がするするとくぐり抜けてしまったことに起因する。こうしたことが起きないように何重にも張り巡られていたはずの「関門」は、なぜいとも簡単に突破されてしまったのか。
■関門①:選挙結果が優先
公人は、禁固刑以上の刑罰に課せられるか公民権が停止されない限り、問題があったとしても選挙で選ばれた限りは選挙結果を優先するという考え方がある。
それだけ憲法で保障された選挙権・被選挙権という権利は崇高(すうこう)なものであり、その点、いかなる問題を起こそうとも当選した事実を覆すことは原則的にできない、というのが基本的な選挙の原則である。今、木下都議はこの選挙結果というシールドに守られている。
ただこれは、問題を起こした候補者でもその後の選挙で当選することで禊(みそぎ)を受けたと解されるわけで、「選挙中に問題行動を起こし、それを知らずに投票する」というようなことはそもそも想定されていない。
もし、木下都議が選挙前に無免許事故を起こし、有権者がそれを知ったうえで投票し当選したとすれば今回のような問題にはなっていない。そういう意味で、今回のケースはあまりにもタイミングが悪すぎた。
■関門②:リコール
とはいえ、こんな問題議員をのさばらしておいていいのか! という話になる。そこで登場するのが「リコール」だ。
本来、公職に就く者に著(いちじる)しい問題があったとき、それを住民の手で排除することができる。これがリコールだ。
ただし、当選後1年という期間を空けねばならないというルールがある。それだけ民主主義において選挙での審判は重く最優先されるべきで、当選翌日にリコールが成立するとなると選挙した意味がなくなってしまうし、いたずらに社会を混乱させないためにも一定の期間を置くことになっているのである。
しかし、今回のように、当選直後に「辞職すべし」という声が爆発するのは想定範囲外の事態で、このルールも木下都議にとってはプラスに作用してしまっている。
■関門③:党の責任
選挙において、人々が投票先を決める時に重視する項目のひとつが「政党」だ。
候補者にとって政党に所属するメリットは3つある。ひとつは政策を共有できる同志と行動を共にできること、もうひとつは選挙での政党票の獲得。そして意外に重要視されているのは保証人的な役割だ。
とりわけ新人は、有権者から見ると海のものとも山のものとも知れない。わかりやすく言えば、「新しい人材に活躍してもらいたいけど、この人に投票して大丈夫?」という素朴な疑問がある。有権者の不安や疑念を少しでも払拭(ふっしょく)するために、候補者は「○○党公認」や「推薦人○○さん」というようなPRを積極的に行う。
事実、木下都議には「都民ファーストの会所属だから」「小池百合子都知事が応援に来たから」という理由で投じられた票が少なからずあったはずだ。
国政における単独比例選出ではないので、すべての責任が党にあるとまでは言わないが、かなりの部分は党または実質的リーダーたる小池百合子都知事に責任がある。本来ならば、党が責任をもって辞職させるのが筋だ。
しかし、小池知事や荒木千陽(ちはる)代表が根気強く説得を試みたという話は今のところ聞かないし、むしろ早期の段階で説得を断念、木下都議を放逐し、あとは自分たちも被害者であるかのような言動になっている。小池知事に至っては、病床から復帰し支援に回った数少ない候補だということをお忘れなのか、ひとごとのように非難するだけだ。
ただし、むしろ木下都議にとってはこれが功を奏したと言わざるをえない。所属政党が早々に見放してくれたおかげで、彼女に「鈴をつける」人間はいなくなってしまったのだから。
■関門④:辞職勧告
とはいえ、これほど問題になっている木下都議を議会も看過はできない。そこで「辞職勧告決議」という手段に出た。
あくまで決議するだけで強制力のないものだが、どんなに激しく抵抗を続ける議員も辞職勧告決議が出た時点で、たいていの場合観念する。民意を受けて職に就く立場として、さすがに全会一致で辞職を迫られ、そこに至る過程で拡大した世論には逆らえない。普通は辞める。ましてや2回も辞職勧告をされて辞めないなど正気の沙汰(さた)ではない。
木下都議は今、「今さえ耐えれば……」とでも思っているのか、「どうせ次はないのだからもらえるものは何が何でももらう」と思っているのか、その胸の内はわからないが、とにかく開き直られたらどうしようもない、というのが議会の実情なのである。
こうして、辞職勧告決議という荒波もひょろりとかわしてしまった。
■関門⑤:欠席中の報酬カット
「なぜ、こんな議員に報酬が払われ続けるのか⁉」という声は日に日に高まるばかりだ。その非難は議会にも多く寄せられた。そこで議会が打とうとした次の手が、「長期欠席議員に対する報酬削減案」だ。
さすがに報酬がもらえなくなったら辞めるだろうし、少なくとも先述のような非難は収まるだろう、ということでひねり出した苦肉の策だったが、これが都議会内で調整が難航。
「病気療養中や事故でやむを得ず欠席した場合はどうなるのか」「ましてや一度でも顔を出したら削減させられないじゃないか」などという議論が交わされたのだが、それを見越してか、11月9日に木下都議当人が突如ひょっこり議会に顔を出し、これまたするりとかわしてしまうのである。
■関門⑥:除名
最後にひとつ、まだ実行段階に移されていない強硬手段がある。除名だ。3分の2以上が出席した本会議で4分の3以上の賛成があれば、強制的に除名、失職させることができるというルールがある。
ただ、これが簡単な話ではない。除名の対象は、基本的に議会内での言動に対する問題が問われるものであり、よほど明確な理由がない限り乱発することは許されない。なぜなら、これが日常的にできるようになると、政争の一環でいくらでも気に入らない議員を排除できてしまうからだ。
私自身、かつて京都市議会に籍をおいていたが、当初は、自民・公明・民主・共産の4会派+無所属1という構図だった。忖度(そんたく)なく市政や議会の問題に切り込むことで、私のことを面白く思っていない議員も多かった。簡単に除名が成立するなら、4会派が結託すれば私を失職に追い込むことが簡単できてしまったはずだ。
ところが、そんなことはできないのである。なぜなら、除名で失職した場合、知事に対して異議申し立てができ、場合によっては裁判も可能だ。それにより除名は無効とされるケースもあり、議会の良識に照らしてほとんど実行されることはない。
実際に2021年4月、北海道本別町の町議が委員会資料をSNSに投稿し、議会が求めた陳謝を拒んだとして全会一致で除名されたケースがあったが、先日北海道は処分取り消しの審判を下し、この町議は議員活動を再開した。
■第2、第3の居座り議員の誕生を防ぐために
今の段階では、議会外で起きた事件に対し、除名という手法を使うのはさすがに無茶、というのが議会筋の声である。だが今後、都議会として何かしらの決着をつけなければ収まらないだろう。
そして、うやむやに収めてはならない。私たちがそのためにできることは、木下都議が辞職するその日まで、怒りの火を絶やさないことだ。今後二度と、第2、第3の居座り議員を誕生させないためにも、市民のみなさまにはぜひともお願いをしたいと思う。
最後に、今回の事件でますます地方議員への不信感が高まっているが、誤解を恐れず一言申し上げたい。
現在、筆者は全国の地方議員対象の研修講師を引き受けている関係で、年間数百人の地方議員と接している。地方議員のほとんどは真面目にコツコツと活動しており、市民のみなさまと同じようにたいへんな怒りを持って本件を見つめている。また、わが身を戒めている。
ぜひその点は誤解をせず、フラットな視点でお住まいの地域の地方議会を引き続き注視いただきたいと思う。「市民が何を言っても変わらない」と思う方も多いが、それでも、「市民が声を挙げなければ変わらない」のも現実なのだ。
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前京都市議会議員
1978年、京都府に生まれる。15歳のとき、政治に命をかけず保身に走る政治家の姿に憤りを覚え、政治家を志す。衆議院議員秘書、リクルート(現リクルートホールディングス)勤務を経て、25歳の最年少で京都市議に初当選。唯一の無所属議員として、同和問題をはじめ京都のタブーに切り込む。変わらない市政を前に義憤に駆られ、市議を辞職。30歳で市長選へ挑戦するも惜敗。大学講師など浪人時代を経て、地域政党・京都党結党。党代表を経て、2020年に再び市長選へ挑むも敗れる。主な著書には『京都・同和「裏」行政』『地方を食いつぶす「税金フリーライダー」の正体』(以上、講談社+α新書)、『京都が観光で滅びる日』(ワニブックスPLUS新書)などがある。
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(前京都市議会議員 村山 祥栄)
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