ひさしぶりの良作なのにかわいそう…NHKが朝ドラ存続のために今すぐやるべきこと
プレジデントオンライン / 2021年11月27日 9時15分
■朝ドラが描く「何者かになりたい」ヒロインの姿
朝ドラ「カムカムエヴリバディ」の視聴率が振るわない。11月1日からスタートし、第1週の平均視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区、世帯視聴率=以下、すべて)が15.5%、2週が16.0%、3週は15.7%。ここまでのところ、前作「おかえりモネ」の期間平均視聴率16.3%を超えた週はない。
「カムカムエヴリバディ」はとてもよくできた朝ドラだ。個人的には、2017年に放送された「ひよっこ」以来の佳作だと思っている。それなのに、視聴率がついてこない。なぜなのだろうか、を考えていく。
自分のことから書くと、長く会社員生活をし、長く朝ドラを愛してきた。「何者かになりたい」ヒロインの姿に自分を重ね、慰められ、励まされてきたからで、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)という本も出版した。女性の生きる困難さ、一生懸命さの先に見えてくる明かり、それがウエルメイドに描かれると心をもっていかれる。
■8話のあるシーンで「良い作品だ」と確信
「カムカムエヴリバディ」は、間違いなく名作の系譜に入る。岡山の小さな和菓子屋の娘・安子(上白石萌音)の「身分違いの恋」を胸キュンで描きつつ、「働く女子もの」になる萌芽も見える。しかも恋の相手=繊維会社の跡取り息子で大学生の稔(松村北斗)が、高身長でハンサム。私好みで期待しかない。
2人は15話で結婚、安子は16話で出産した。早い展開だが、心理描写は周辺人物も含め、すごく巧みだ。何度も涙を流して見ているが、中でも印象的だった2話があるので紹介する。
恋愛シーンで心をもっていかれたのが8話だ。父に見合いを勧められた安子は、会いたくて稔の大阪の下宿を訪ねる。この近くに紅白饅頭を届けに来たと嘘をつく安子。2人で楽しく過ごして帰る汽車でこらえ切れず泣き出し、岡山に着いても立ち上がれない。人が近づいてきたので「すみません、すぐ降ります」と言って立つ。すると、そこに稔。「なぜ?」と驚く安子に、そんな小さい鞄一つで配達だなんて、と稔。
胸キュンとはこのことだ。稔、追いかけてきたのね。ステキ。「なんで泣いてるん? 安子ちゃん、何があったの?」という台詞に「韓流ドラマか」と心でつっこむ。巧みな恋愛シーンはかの国の専売特許のようになっているが、我が朝ドラだって負けてはいない。そう、働く女子に恋愛は必需品。父の勧めと恋心、その板挟みで泣く安子。その切なさが、まるで自分の切なさのよう。これはいい朝ドラだ、と確信した。
■良い話の回の視聴率はやっぱり良い
次が13話。冒頭、ラジオがミッドウェー海戦の“勝利”を告げている。安子の兄が出征、和菓子職人も次々と出征する。人手もなく、材料も手に入らなくなった作業場に、父が一人で座っている。そこに安子。のれんから顔を出し、「お父さん、私にできることねえ?」と聞く。父は、こんなことなら稔との交際を認めていればよかったと返す。
お父さん、違うよ、と心でつぶやく。安子は「和菓子の仕事をするよ」と言ってるんだよ、と。でも、父はそう思わない。仕事は男がするものだから。安子も作業場には入らず、遠回しにしか言わない。それが1942年の女子。でも、わかった。これはきっと、安子が和菓子作りにかかわることの伏線。いずれ結婚する夫は、戦場から帰らないかもしれない。でも、安子は自分の足で歩いていく。これが朝ドラ、希望が灯った。
というわけで、「カムカムエヴリバディ」は素晴らしいと力説した上で、ここからが視聴率の話だ。印象的だった8話と13話、視聴率を調べたら16.5%で、これは23話までの数字では最高だ。つまり、良い話の回は良い数字。実にシンプルな結果だ。わかってる人はわかってる、と言ってもいいだろう。やはり、視聴率の低迷は内容以外に原因がある。この数字からもそう思う。で、ここからは私の推論だ。
■コロナの影響で大きくずれた放送スケジュール
問題は、放送時期の「ずれ」だと思う。1961年4月に放送が始まった朝ドラは、最初からずっと「年度」で動いてきた。1974年までは1年1作、1975年から年2作。以後ずっと「4月1日(前後)に始まり、9月30日(前後)で終わる」と「10月1日(前後)に始まり、3月31日(前後)で終わる」というリズムを基本としてきた。それが、2020年度の「エール」から大きくずれたのだ。
原因は新型コロナウイルスだ。3月30日に始まった「エール」は全130話を予定していた。NHKの働き方改革の一環として、1週の放送が6話から5話になったので、単純計算なら9月25日で終了、次の「おちょやん」が9月29日スタートとなるはずだった。
ところがコロナ禍で撮影が中断、6月26日(65話)を最後に放送も休みとなった。再放送でつなぎ、放送が再開されたのが9月14日。その時は「今後の放送スケジュールは未定」とされていたが、11月27日に終わった。予定より10話少ない全120話、期間平均視聴率は20.1%だった。
■朝ドラマ史の変革の一つ「ゲゲゲの女房」
続く「おちょやん」の放送は2020年11月30日から2021年5月14日までで、全115話。期間平均視聴率は17.4%だった。続いては「おかえりモネ」で、2021年5月17日から10月29日まで全120話が放送された。期間平均視聴率は16.3%。
朝ドラの歴史で大きな変革の一つに、放送開始時間を15分繰り上げ午前8時としたことがある。2010年度上期の「ゲゲゲの女房」からで、これが視聴率に好影響を与えた。その前(2019年度)の2作が13%台と史上最低水準に落ち込んでいたのだが、18.6%まで回復したのだ。そこから視聴率はじわじわ上昇、2012年度上期の「梅ちゃん先生」が20%を突破(20.7%)、以後、「エール」まで2作品を除いて、20%台をキープしてきた。
再び自著の話で恐縮だが、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』の3章のタイトルを「せっかくなのに、なぜ」とした。「テレビ離れ」と言われる中、20%台を取れるのは朝ドラだけ。それなのに、時にどうにも評価できない作品が出てくる。そんな2作を取り上げ、こう書いた。「高視聴率が約束された朝ドラ枠なのだから、余計がんばらないとダメなのに。せっかくの舞台なのに、なぜなのだろう」。ちなみにこの2作でさえ(という言い方もなんだが)、1作は20%台、もう1作も19%台だった。
■いつ最終回を迎えるかわからないという欠点
それなのに、それなのに。すごく出来の良い「カムカムエヴリバディ」の最高視聴率が16.5%なのだ。「エール」(20.1%)→「おちょやん」(17.4%)→「おかえりモネ」(16.3%)という期間平均右肩下がりの波に乗ってしまっている。
「働く女子」にとって朝ドラが心を通わせやすかったのは、組織が年度で動き、4月と10月が節目になるからだと思う。自分や部下への評価をさせられる(と書いてしまうのだが)のもその時期だし、人事異動もそこに集中するところが多い。会社員人生、楽しいことばかりではなかったが、朝ドラが新しく始まることで「心機一転、自分も頑張りますか」と思えた。というのは私の話だが、そんな感覚、組織に属する女性なら、比較的理解してもらえると思う。
それなのに、それなのに。と同じ表現を使ってしまうが、最近の朝ドラは「いつの間にか始まって、いつの間にか終わる」ドラマになってしまっている。半端な時期に始まり、しかもその時点では最終回がいつになるのか不明。その状態が恒例化していて、「カムカムエヴリバディ」のホームページにも「全体の放送回数については、現段階において未定です」とある。
これはどうにも収まりが悪い。民放ドラマは、各局3カ月=1クールでほぼ動いている。放送サイクル=ドラマを選ぶリズム。それなのに、「朝ドラ」は、リズムを刻んでいない。だから選ばれる度合いが徐々に減り、熱心に見るのは私のようなコアな朝ドラファンだけ。そういう事態が進んでいるのではないだろうか。
■離れた視聴者を呼び戻すシンプルなこと
となると、朝ドラがより多くの人に選ばれる作品になるにはリズムの復活、つまり4月と10月スタートに戻すしかないと思う。ということで、計算してみる。
「エール」は全120話=24週放送、「おちょやん」115話=23週、「おかえりモネ」120話=24週だった。この順番なら「カムカムエヴリバディ」は、115話=23週となる。正月前後が休止となることを考慮すると、最終話は4月15日(金)、となる。うーん、惜しいといえば惜しいけど、ずれているには違いない。
となると、「カムカムエヴリバディ」をとにかく4月1日(金)で終わらせ、次の「ちむどんどん」を4月5日(月)スタートとすれば、ここから年度のリズムに戻れる。そうすれば、いきなりは無理でも徐々に視聴率は回復するはずだ。以上、素人の朝ドラ愛からの見立てだ。
■思い切って短縮しても「カムカム」は面白いはず
録画やオンデマンドがあるから、視聴率は「視聴」の指標になっていない。そういう指摘はあるかもしれない。そもそもNHKは民放と違い、視聴率など気にしていないのでは。そういう人もいるだろう。が、朝ドラはNHKにとっては「朝の顔」であるだけでなく、60年の歴史を誇る堂々のブランドだ。最高視聴率62.9%を叩き出した「おしん」は、テレビドラマの金字塔でもあろう。
だからこそNHKは、2000年以降の視聴率低下傾向を受け放送時間帯を変更するなど、ブランド維持に注力してきた。だからコロナ禍がつれてきた視聴率低迷を前に、手をこまねいてばかりではないはずだ。
NHKがこのまま120話→115話を続けるのか、短くしてでも「年度」のリズムに戻すのか。部外者ながら私が思うのは、ズレを放置してじわじわと視聴率が下がるのだとしたら、それはもったいないなということだ。
「カムカムエヴリバディ」はすごく良い。脚本家の藤本有紀さんの力量がひしひし伝わってくる。だから、思い切って短縮に踏み切る手はあると思う。「カムカムエヴリバディ」を大勢の人に見てもらうためだ。藤本さんなら、面白さそのままに見事に短くしてくれるのではないだろうか。
「全体の放送回数については、現段階において未定です」とホームページにあることは、先述した。これからの安子の人生と、NHKの判断に大注目したい。
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コラムニスト
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長。著書に『笑顔の雅子さま 生きづらさを超えて』『美智子さまという奇跡』『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』がある。
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(コラムニスト 矢部 万紀子)
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