「人気俳優を2発殴ったような顔です」婚活アプリの自己紹介で勝ち組が使っている"最初の60字"
プレジデントオンライン / 2022年1月29日 19時15分
※本稿は、安田峰俊『みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界』(星海社)の一部を再編集したものです。
■6割の人がマッチングアプリを利用したことがある
2020年12月2日付けの『日経xwoman』が掲載した、MMD研究所による「マッチングサービス・アプリの利用実態調査」(対象はスマートフォンを所有する20~49歳の独身の男女5385人)によると、マッチング系のウェブサービスを「現在利用している」人は23.9%、「過去に利用していた(現在は利用していない)」人は33.2%もいたという。
現代日本の現役世代の6割弱が利用経験を持っている計算なので、かなり流行している。ウェブで出会いを探し、そこからLINEのかけひきのなかで2人の関係を深めていくのが現代人の恋愛のありかたなのだ。
■女性より男性のほうが文章術を考える必要がある
そこで考えたいのが、マッチングアプリ(婚活アプリ)のプロフィールの文章術だ。ちなみにマッチング系のサービスは、通常は女性側の圧倒的な売り手市場である。ゆえにプロフィールについても、女性よりも男性のほうがしっかりと文章術を考える必要がある。
さて、知人女性のアカウントを通じて、大手婚活アプリをのぞいてみると、「東京都在住、30~35歳、大卒以上、未婚、子どもなし、年収400万~600万円」という絞りこみをおこなったうえでも、なんと2900人以上の男性がヒットした。
スマホの画面には彼らの顔写真がズラッと並ぶ。それぞれハンドルネーム・年齢・都道府県・職業・年収・身長・体型などの基本情報に加えて、プロフィール文章の最初の60字ほど(表示環境によりすこし変わる)が表示される仕組みである――。
これは実際に観察するとおもしろい。年齢・学歴・年収がほぼ同じ男性ばかりなのに、各人のリストをざっとスクロールしただけで、すでに大きな「差」があるからだ。
■クリックされないプロフィールの実例
理由は最初の約60字だ。次の3本のサンプルを読んでみてほしい(なお、文章術とは関係がない本人のルックスの優劣は、ひとまず考慮に入れないでおく)。
はじめまして。プロフィールを見ていただきありがとうございます。板橋区に住んでいる35歳で、仕事は営業をしています。今まで…
例②【まつたろう】さん
はじめまして! 大学で地元山梨県から上京し、現在は学芸大学近く住みです。実家にウサギいます♪ あるTシャツサイトのモデルをし…
例③【ひろ】さん
プロフィールを見て頂きありがとうございます。職場や日常で出会いが少なく、真剣に結婚を考えて思い切って登録しました。仕事…
実際に交際を望むかはさておき、とりあえず例②をクリックしたくなる。
学芸大学という東急東横線沿いのおしゃれな地名と、唐突に登場するウサギ。さらに「Tシャツサイトのモデル」という、具体的になんなのかは不明だがルックスのよさや清潔感を連想させる単語――。
自己紹介文の冒頭わずか60文字足らずで相手の関心を引き寄せる、計算されたプロフィールだ。
いっぽう、他の2人はかなり没個性的である。
しかし、私の見るところ、男性会員のうちで7~8割くらいは、この手の無難すぎる書きかたをしていた。しかもそういう人に限って、登録名も「たか」「ひろ」「まさ」など他のユーザーと区別しにくい人が多く、いっそう影の薄い雰囲気を漂わせている。
■定型表現より伝えるべき情報がある
どうやら「プロフィールを見ていただきありがとうございます」は、ビジネスメールの「お世話になっております」(こちらの記事参照)と同じく、婚活男性たちの定型表現のようだ。
だが、リストを閲覧する女性に自分をアピールする約60字のチャンスのなかで、定型表現だけで23字(「はじめまして!」も加えると30字)を消費するのは惜しい。相手側の女性も、趣味・性格・出身地など、もっと優先性の高い情報を知りたいはずだろう。
また、「プロフィールを見ていただき~」という定型表現を使っている人は、他の部分でも紋切り型の表現が目立った。以下、同性としての立場から論評を加えつつ紹介したい。
■「言わずもがな」な情報はさっさと捨てよう
•日常に出会いがなく登録しました。
→日常が出会いに満ちている人は婚活しないのでは。
•新しい出会いがほしくて登録しました。
→古い出会いを追いかけて登録していたらストーカーだ。
•こうしたサービスを使うのははじめてで心配ですが……
→婚活アプリのヘビーユーザーのほうがもっと心配だ。
•素敵な人に出会えればいいなと思っています。
→わざわざ登録費を払って素敵じゃない人とわざわざ出会いたくないだろう。
•温かい家庭を築きたいと思っています。
→殺伐とした家庭を築きたい人がいるのか。
•まずはすこしずつおたがいを知っていければ
→瞬時に相手のすべてを理解できたらエスパーだ。
•気になったらぜひ「いいね!」してください。
→気にならない人が「いいね!」しないだろう。
辛辣すぎるだろうか? しかし、たとえば寿司屋のお品書きに「食べられるので売ろうと思って握りました」とか「新鮮なネタだったらいいなと思います」と書かれている光景を想像してみてほしい。そんな店には近寄りたくないだろう。
これらの表現の共通点は「言わずもがな」であることだ。わざわざ書かなくてもわかることは実質的に無意味な情報なので、削ぎ落としたほうがいい。
■ネガティブ情報は冒頭に書いてはいけない
ほか、もっと先になってから伝えればよさそうなことを冒頭部で語っている例もある。
•女性と付き合ったことがありません。
•まだ5年前の別れを引きずっています。
•わがままな人は苦手です。
•バツイチの人は連絡してこないでください。
•母と同居してくれる人を求めています。
•髪が薄いですが……
ほかに健康問題や重すぎる家庭の事情なども同様だ。
もちろん、実際に会ったり交際したりする前にはネガティブな要素もちゃんと説明するべきだし、逆に相手への要求の基準を持っていてもかまわない。ただ、アピール文の最初にそれを持ってくるべきではないだろう。
■最初の間口はひろいほどいい
悪口が続いたので、よい例もあげておこう。
私がざっと見て「やるな」と思ったプロフィールを、原文を多少改変して紹介する。太字の部分が冒頭の60字だ。
性格は穏やかで怒ったりしないです。
星野源を2発殴ったような顔をしています。
自営業で休み不定期。バイトの子に頭下げたら調整できます。
趣味はバスケ、映画、脱出ゲーム、お笑い、漫画、カラオケなど
休みの日は家でテレビ見たり、ドライブしたり、友達と食事したりです。
ソファーでグダッとしながら有吉の壁を見るのが一番の幸せ。笑
ちょっとふざけたプロフィールですが、真剣に探しています!
好きになったら結構一途です。
バツイチも年上も気にしません。
よろしくお願いします!
見事である。「星野源を2発殴ったような顔」という説明で、見た目は悪くないが親しみやすそうなイメージをあたえ、「バイトの子に頭下げたら調整できます」で、自分が人を雇う立場であることや目下の人にも優しい人物であることをさりげなく匂わせている。
モラハラをしたりストーカーになったりする危険性が薄く、いっしょに過ごすと楽しそうな人であることも伝わる。
とどめは「バツイチも年上も気にしません」だろう。これなら、バツイチや年上の女性はもちろん、そうではない女性からも「寛容な人」として好感を持ってもらえる。最初の間口はひろいほどいいのだ。
次の例も見てみよう。
■スタートダッシュで他と差をつける
趣味は天体観測で、週末は近所の公園で望遠鏡を覗いています
他にも散策が好きで休日は周辺の街を(以下略)
「宇宙開発」「天体観測」という非日常的な言葉がすべてを持っていく一点突破型だ。仮にこの先に続くプロフィールの内容が月並みでも、スタートダッシュですでに勝っている。
他にも「花火職人」「重要文化財の修復技術者」「メンズスーツのオーダーの自営」といったすこし変わった職業や、「波照間島から上京して7年目」「ブラジルにサッカー留学」のような変わったバックグラウンドが冒頭に登場している人は目にとまりやすい。
■「婚活」というゲームの勝利条件を考える
そもそも、婚活は万人からまんべんなく好かれる必要はなく、1人の気が合う相手とゴールインできれば「勝ち」になるゲームだ。
なので、「ある壁サークルを主催している同人漫画家です」など、たとえ一般的には異性ウケが悪い尖った個性でも、必ず引きつけられる人がいる情報であれば前面に出したほうがいい。
逆にいえば、「板橋区在住」「仕事は営業です」みたいなことは、わざわざプロフィールの先頭に書く必要はないはずだ。
別に板橋区も営業職もまったく悪くないが、似たような人が大量にいるため、誰の胸にも刺さらない。アピールにならない情報なのである。
■マッチング後の注意点
さて、こうした熾烈な競争の結果、男性側が気になる女性会員に「いいね!」を送り(女性側からも送れるが)、先方がそれを受け入れればマッチングが成立する。その後はアプリ内でメッセージをやりとりし、やがてLINEの会話に――。
と、各サービスごとに細かい違いはあれど、このようにしてLINEメッセージの文章術を必要とする局面へと移行していく。
メッセージを直接やりとりするときの注意点はすでに書いた。長すぎる文章、死語、「おじさん構文」、「おじさん話題」などをひかえ、相手と会話が盛りあがればデートに行き、相性がよければやがて交際や結婚への道が開かれていく。
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ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員
1982年生まれ、滋賀県出身。広島大学大学院文学研究科博士前期課程修了。著書『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』が第50回大宅壮一ノンフィクション賞、第5回城山三郎賞を受賞。他の著作に『現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史』(中公新書ラクレ)、『「低度」外国人材』(KADOKAWA)、『八九六四 完全版』(角川新書)など。近著は2022年1月26日刊行の『みんなのユニバーサル文章術』(星海社新書)。
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(ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員 安田 峰俊)
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