背中を押すつもりが逆効果…ひきこもりの子を追い詰める親の"最悪の声かけ"
プレジデントオンライン / 2022年2月17日 17時0分
※本稿は、林恭子『ひきこもりの真実 就労より自立より大切なこと』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。
■家族が「心地の良い環境を整えてあげる」ことが必要
ひきこもり状態というのは、「ガソリンの入っていない車のようなもの」だとも思う。
ガソリンの入っていない車を動かそうと外から働きかけてもそれは無理というものだ。車にガソリンが必要であるように、人もまずはエネルギーを貯める必要がある。
そのエネルギーとは図表1にあるように、何かしら当事者にとってポジティブな出来事や声かけであり、「安心感」や「理解」「共感」などである。ただし、これは一滴ずつしか溜まらずとても時間がかかる。
ところが、図表2のように当事者にとってネガティブな出来事や声掛けがあるとせっかく溜まったエネルギーは一気にゼロになる。また一からやり直しである。
私はこれを何度も繰り返しながら、なんとかいっぱいに溜まってあふれ出すようになったのが「生きてみよう」と思った三六歳のときだったと思う。
家族にお願いしたいのは、一滴一滴溜めるための手助けをしてほしいということだ。そのためには、本人ができるだけ居心地よく、できることなら「楽しい」とか「うれしい」というポジティブな感情を持てるような、心地の良い環境を整えてあげることが必要だ。
■返事がなくてもあいさつは欠かさずに
本人はありとあらゆる言葉ですでに自分を責めているので、傷口に塩を塗り込むようなことは必要ない。むしろ、それを消し去れるほどのプラスのメッセージを送ってほしい。
「あなたには生きる価値があるし、誰よりもあなたを大切に思っている。あなたの人生を精一杯応援する」というメッセージを送り続け、エネルギーを溜める手助けをしてほしいと思う。
また、関わり方としては、できるだけ普通に家族の一員として接することが大切だと思う。たとえ返事がなくても「おはよう」「○○に行ってくるね」などと声をかけたり、腫れ物に触るようにするのではなく、他の兄弟とできる限り同じように接してほしい。
■プレッシャーは脅しになる…親が口にしてはいけないNGワード
声掛けのヒントとしてNGワードとOKワードも紹介したい。
NGワードの一つは「○○ちゃん、就職したんだって」とか「△△くん結婚したらしいよ」など同世代と比べること。また、「これからどうするの?」「お父さん、もうすぐ定年なんだけど」「もううちにはお金がない」などプレッシャーをかけるような声掛けもNGだ。
親にすれば少し背中を押して動いてもらおうという思いで出る言葉だろうが、これはプレッシャーというよりは脅しであり、本人をよりひきこもらせるには効果的だが前に進んでほしいと思うなら最悪の言葉かけである。
また、「学校行かなくていいし、仕事がつらいならしばらく休めばいい。でも、せめて朝は起きよう。散歩くらいはしよう」というのもNGで、そんなことができるならとっくにやっている。
■好きなこと、趣味の話はOK
ではOKワードは何かというと、社会問題や話題になっている人の話、本人の好きなことや趣味についてなどだ。
実はひきこもりの人は投票率が高いといわれることもあり、社会問題に関心がある人も多い。ニュースなどをよく読み世の中の動きに敏感であり、自分事として政策や福祉の在り方などに関心を持つとも考えられる。
また、ゲームを一日中やっているようだったら教えてもらって一緒にやってみるとか、本人の好きなことについて聞いてみたり教えてもらったりするのもいい。スマートフォンやパソコンに詳しい当事者もいるので、習ってみるのも良いと思う。
口は利かないが釣りやドライブには親と一緒に行くという人もいる。一緒に過ごす時間を増やすのも、いつか話ができるようになるには大切なことだと思う。
また、本人が家から、自室から出ない、口もきかないという場合、起きていることをそのまま理解してみてはどうだろうか。外に出ないということは家のほうが良く、外が嫌なわけだ。外に何かつらいこと、抵抗を感じることがあるのではないか。
口をきかない場合、何かそうする理由があるはずで、以前に本人の気持ちをきちんと聴かずに否定したことはなかったか、いつも本人の希望とは違うことをしていないか、などと振り返ってみるのも良いのではないかと思う。
■「わかり合えない」は相手を理解するための最初の一歩
親子はもっとも身近でありながら、ときにもっとも遠くなってしまう存在かもしれない。私も母とは「わかり合えない」と悟ったときに、ある一定の距離ができたことは否めない。
だが、そのことで愛情がなくなるとか、関係が冷えるとかそういう感覚は一切なかった。むしろ「わかり合えない」とわかることは相手を理解しようとするための最初の一歩なのではないかと思う。
もし「子どものことはなんでも自分が一番よくわかっている」と思っている親がいるとしたら、それはとても怖いことだと思う。子どもをわからない「他者」として認め、だからこそ理解したいと思ってくれたら、それが望ましい接し方ではないかと私は思う。
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ひきこもりUX会議代表理事
高校2年生で不登校になり、以来30代まで断続的にひきこもって過ごす。2012年から当事者活動を開始。全国で「ひきこもり女子会」を主催する他、メディアや講演を通して、ひきこもりについて当事者の立場から伝えている。現在、ひきこもりUX会議代表理事。他、新ひきこもりについて考える会世話人、東京都ひきこもりに係る支援協議会委員等を歴任。編著に『いまこそ語ろう、それぞれのひきこもり』(日本評論社)、共著に『ひきこもり白書2021』(ひきこもりUX会議)などがある。
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(ひきこもりUX会議代表理事 林 恭子)
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