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いつ心が折れてもおかしくない…元自衛隊のメンタル教官が指摘「今の子育て環境の厳しさは、戦場並みだ」

プレジデントオンライン / 2023年8月10日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/guvendemir

子育て中の親は疲れている。なぜこんなに大変なのか。自衛隊で20年間、任務で傷ついた隊員の心のケアをしてきた心理カウンセラーの下園壮太さんは「大げさではなく、現代の子育て環境のリスクは戦場並みだ」という――。

※本稿は、下園壮太(著)、ひえじまゆりこ(イラスト)『ワーママが無理ゲーすぎてメンタルがやばいのでカウンセラーの先生に聞いてみた。』(時事通信社)の一部を再編集したものです。

■現代の子育て環境のリスクは「戦場並み」だ

子育てとは「戦場」です。

決して大げさなことを言っているのではありません。

これは、私からみなさんに向けて、一番強くお伝えしたいことなんです。

私は自衛隊で、20年間「心理幹部」として、任務で傷ついた隊員の心をケアする仕事を続けてきました。戦場の悲惨さについてはよく認識しています。また、退官したあとは、「メンタルレスキュー協会」というNPO法人で、プロフェッショナルなカウンセラーを育成しつつ、うつや悲惨なできごとを経験した多くのクライアントの支援を続けています。

リアルな戦場の怖さを知り、かつ「心の危機」に陥った多くのケースに寄り添ってきた経験から、「現在の子育て環境のリスクは戦場並みだ」と指摘したいのです。

そもそも人間に限らず、命あるものにとって、子孫を残すということは本来命がけで行われるものです。それに加えて、コロナ禍を経て、今の日本で子育て中の人、とりわけワーキングマザーのみなさんは、これまでにない厳しい環境のもと、お子さんを育て、仕事をしなければいけなくなっている。その厳しさは事件・事故や災害現場、戦場と同じレベルであり、本人に自覚がなくても、いつのまにかハードな戦いを強いられていて、だれでもいつでも、心が折れてしまう可能性が高まっているんです。

ですから、今これを読んでいるあなたは、まず「自分が疲れていたり、自分をコントロールできなかったりするのは当然なんだ」と思ってください。そして、ご自分を責めないでください。

■ワーキングマザーの9割近くが「疲れている」

なぜ子育てが「戦場」だと言えるのでしょうか? 詳しくはSTEP2(本書の61ページ以降)で述べますが、この本は、「最前線」にいるお母さんたち、そしてお父さんたちのために、少しでも助けになればという思いからお届けします。

さて出版に先立って、保育園ママ・パパを応援しているウェブサイトが、働くお母さんたちの悩みについてアンケートを実施してくださいました。

私の予想どおり、いや予想を超えて、今まさに現場にあるワーキングマザーのみなさんの、切実な様子が伝わってきました。

「自分が疲れていると感じる」と回答した方は86.9%。「子育てと仕事の両立で悩んでいる」と回答した方は64%いらっしゃって、悩みの内容については、1位「自分自身のイライラ」63%、2位「子どもとの接し方」60.5%、「家事の負担」58.8%でした(複数回答)。

■ワーママは「無理ゲー」なんです

寄せられたコメントを読んでみると、

・「疲れている自分、家事をしなければならないがスムーズにいかず、気力なく、そういうときに子どもと衝突しイライラが募るという、負のループに陥ります」(千葉県40代/11歳児ママ)

・「イライラが止まりません。毎日、怒鳴っています」(千葉県30代/5歳・2歳児ママ)

・「フルタイムで仕事をしていると、平日帰宅後は夕食作り、夕食、片づけ、お風呂、就寝準備、明日の用意……と子どもと向かい合って過ごす時間がない。宿題や学校からの連絡もおざなりになってしまう」(岐阜県30代/7歳・4歳児ママ)

・「仕事から帰ってきて子どもをあやしながら家事をするのがとても疲れる。(コロナ禍では)テレワークになって、夫が家にいることが増えたので、夫の昼食を作らないといけない」(大阪府20代/1歳児ママ)

それぞれに大変な負担感の中、生活を送っていらっしゃることが伝わってきます。アンケートの性質もありますが、世間の人たちがうっすらイメージしている「幸せな子育て」「キラキラしたワークライフバランス」など、そこにはほとんどないのです。

この本のタイトルに沿うなら、ワーママはズバリ、「無理ゲー」なんです。

赤ちゃんを負ぶって引っ越しの準備を進める母親
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

■何よりも大事にするべきは「自分自身のケア」

私は子育ての専門家ではないので、ここで寄せられたそれぞれの悩みについて、「○歳のお子さんにはこう接しましょう」とか「宿題や学校からの連絡対策はこうしましょう」といった個別のアドバイスはできません。

一方で、私はメンタルヘルスの専門家として、「心」についてはアドバイスができます。人が悩むときには、ある共通の「メカニズム」があります。そのメカニズムを知ることで、少なくとも、メンタル面でのトラブルを防ぎやすくなります。心の仕組みを知って、自分自身を上手にケアできるようになると、いつのまにか悩みが悩みでなくなっていくでしょう。

人の悩みには「問題があって悩むから、心が不調になる」のではなくて、「心が不調になるから、悩みや問題が生まれてくる」という面があります。多くのクライアントを見ていると、むしろ後者のほうが圧倒的に多いのです。今、頭を悩ませていることが子育てであっても、介護であっても、はたまた恋愛やキャリアであっても、それは変わりません。

今まさに奮闘されているワーママのみなさんに向けて、何よりも大事にしてほしいのは自分の心。「自分自身のケア」です。

心のメカニズムを知って、自分さえしっかり大切にできれば、たいていのことは乗り越えていけます。「自分自身のケア」がすべての土台であり、ここが崩れるとすべてが崩れて、いろいろな問題が生じてきてしまうんです。

■戦場(=子育て)では自分を後回しにしがち

自分自身のケアがすべての土台。けれども、戦場(=子育て)においては、多くの親御さんは、自分のことはつい後回しにしがちです。しかも本人が落ち込めば落ち込むほど、さらに後回しになっていくという悪循環に陥っていきます。

本書でも話していきますが、心がうつっぽくなると、

・同じことでも、より自分を責める思考になる(「自責スイッチ」と呼んでいます)

・同じ刺激でも、よりイライラする

・ほかの人から「休んだほうがいい」と言われても「休めない」とムキになる

・状況が悪化するほど相談できなくなる

などの症状が、だれにでも現れてきます。状況が深刻になってから、何か対策しようとしても、すでにいつもどおりには動けなくなっていることがほとんどです。

「待ったなし」の現場においては、どんなことも早め早めに対策をしておくことが大事。この本では、そのための知識とノウハウをなるべくやさしく、ポイントを絞ってご紹介していきます。

■現代は子育てを「こじらせてしまうポイント」が多い

さて、子育ては「戦場」だと言いました。

下園壮太(著)、ひえじまゆりこ(イラスト)『ワーママが無理ゲーすぎてメンタルがやばいのでカウンセラーの先生に聞いてみた。』(時事通信社)
下園壮太(著)、ひえじまゆりこ(イラスト)『ワーママが無理ゲーすぎてメンタルがやばいのでカウンセラーの先生に聞いてみた。』(時事通信社)

誤解しないでいただきたいのですが、本来、私たち人間にとって、命を授かり、育んでいく体験はすばらしいものであり、喜びを感じられるものです。身近に子どもの成長を見て、子育てのスキルを学ぶことで、今まで見えなかった世界を知り、視野がグンと広がります。また、仕事との両立を試行錯誤する中で経験を深めれば、人としても社会人としても、大きくたくましく成長できるチャンスになるでしょう。また、中には、悩みや不調を抱えすぎることなく子育てに向き合えているママもいることでしょう。子育ては本来、楽しいものなんです。

ただし、私の観測では、少しばかり現代は、子育て活動をこじらせてしまうポイントが多すぎてしまうようです。本来の喜びを感じられるようになるためにも、子育て中の方は、まずは「自分自身のケア」について、この本を通じて知ってほしいです。

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下園 壮太(しもぞの・そうた)
心理カウンセラー、NPO法人メンタルレスキュー協会理事長
1959年、鹿児島県生まれ。82年、防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊入隊。陸上自衛隊初の心理幹部として、自衛隊員のメンタルヘルス教育、リーダーシップ育成、カウンセリングを手がける。大事故や自殺問題への支援も数多く、現場で得た経験をもとに独自のカウンセリング理論を展開。2015年に退官し、その後は講演や研修を通して、実践的なカウンセリング技術の普及に努める。著書に、『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新聞出版)、『「一見、いい人」が一番ヤバイ』(PHP研究所)、『教えて先生 もしかして性格って悪くなるの?』(すばる舎)など多数。

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(心理カウンセラー、NPO法人メンタルレスキュー協会理事長 下園 壮太)

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