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面倒ごとを押しつけられる前儀式になっている…上司と部下の「1on1」にみる残念な企業の共通点

プレジデントオンライン / 2023年8月10日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

部下と上司が1対1で対話する「1on1ミーティング」を取り入れる組織が増えている。400以上の企業や官公庁に組織変革支援を行ってきた沢渡あまねさんは「1on1は万能薬ではない。コミュニケーションの取り方を間違えるとただの『無駄な時間』になってしまう」という――。

※本稿は、沢渡あまね『コミュニケーションの問題地図』(技術評論社)の一部を再編集したものです。

■なぜ1on1ミーティングがうまく機能しないのか

1on1(ワンオンワン)ミーティング(以降、1on1と表現します)。人材育成や業務の進捗(しんちょく)フォローアップ、およびコミュニケーション活性などを目的として、おもにマネージャーとメンバーの間でおこなわれる対話。日本でも、最近1on1を取り入れる組織が増えてきました。小学生時代にバスケットボールをやっていた私は、職場ではじめてマネージャーから「1on1しよう」と言われたとき、対決を仕掛けられたのかと思い、身構えてしまいました(苦笑)。

もはやブームと言ってもいいくらい、職場での勢いを増してきた1on1。効果はあるものの、過信しすぎは禁物です。1on1は万能薬でも、魔法の杖でもありません。実際、「1on1が苦痛」などのメンバーやマネージャーの声を反映し、1on1をやめる企業も出始めました。1on1は制度ではなく、コミュニケーションのイチ手段。「やめる」「やめない」で論じるものではないと私は思いますが、その話はいったん置いておきましょう。

うまく機能しない1on1……そこからも、組織のさまざまなコミュニケーションの問題が垣間見えます。

■「形骸化した1on1」でありがちな光景

①何も起こらない、時間の無駄

何も話すことがない。人事部から「毎週1回30分、マネージャーとメンバーで1on1をしろ」と強制されてやってはいるものの、マネージャーの「何かない?」からはじまり、メンバーの「そうっすね。特にないです」で、そのまま沈黙モードに。気まずく思ったどちらか一方が、ひたすら自分の話をしてタイムアップ。まるで消化試合。何かが解決するわけでもなし、忙しいのに正直勘弁してほしい。

②目先主義

1on1は単なる進捗確認の場。目先のタスクの進捗を確認してハイオシマイ。もちろん、それも有意義ではあるけれども、それってグループチャットで確認すればよくないですか?

あるいは、その場でなんでも解決しようとする。1on1で唐突にテーマや仕事を振られて、その場で答えを出せ、決断しろと迫られる(マネージャーがメンバーに迫るパターン、メンバーがマネージャーに迫るパターン、いずれもあります)。30分1本勝負、60分1本勝負な空気感。その場での、すぐの変化や成果を求められる。無理にその場で答えを出そう/出させようとする。これまた、重苦しくて息苦しい。毎試合、汗だくで終了。

■1on1は仕事を押し付ける場ではない

③しれっと責任の所在(主体)を渡される

「1on1しようよ」

マネージャーのこのひと言に応じたのが運のツキ。仕事の進め方や、キャリアの悩みなど雑多な相談をしようと思って臨んだものの、気がついたら重たい仕事をしれっとマネージャーから押しつけられて終わった。

そのような「押しつけ儀式1on1」にありがちな言動や行動がこちら。

●キミはどう思うの?

ふた言目には「キミはどう思うの?」で切り返してくるマネージャー。もちろん、思いを聞いてくれるのはうれしいし、尊重してくれる気持ちもうれしい。しかし、口癖のように「キミはどう思うの?」を繰り返すマネージャーはどうもね。

そもそも、このテーマはあなた(マネージャー)の仕事では? 私はお手伝いのつもりで参画しているだけなのに、いきなりどう思うのと聞かれても……。

その仕事を私に任せたいなら、その合意形成が先でしょう。なぜ相手に思いを問うのか、そのココロや相手への期待をまず知りたいです。「キミはどう思うの?」攻撃で、じわじわ責任の所在をメンバーにパスするのはやめてほしいなぁ……。

●「気の利く勇者」待ち

マネージャーが問いやテーマだけ投げ込んで、ひたすら沈黙。「私がやります!」と相手(メンバー)が言うのを待っている状態。なんていうか、相手にYESを言わせたいムード満々。

もちろん、たまにはそういう場があってもいいかもしれないけれども、毎回それだとさすがにメンバーは警戒してしまいますって。

●後出しジャンケン

とりあえずテーマだけ設定されて1on1開始。そこまではいいものの、「私が引き受けます!」と言ったが最後、後から「あれもやって」「これもやって」「じつはこういう事情があって」と、いろいろと重たい要件や制約条件を盛り込んでくる。まるであと出しじゃんけん。前言撤回したい。

いずれも破壊力抜群! あ、この景色、それこそバスケットボールの1on1に雰囲気が似ているかもしれませんね(苦笑)。

この手の「押しつけ儀式1on1」が常態化すると、メンバーは1on1を警戒します。そして「言ったモン負け、受けたモン負け」の文化が色濃くなる。

そして、極め付きがこちら。

■相談事が職場内に漏れる

④マネージャーに裏切られる

「なんでも話していいよ」
「気になっていることがあれば言ってください」

マネージャーAさんのこの言葉を素直に信じた、中途入社のBさん。それならばと心を開いて話してみた。気になる職場の慣習、同僚たちから雑談ベースで聞いた話や素朴な疑問。別にその場でどうこうしてほしいわけでも、解決してほしいわけでもなく、「なんでも話していい」「気になることがあれば」と言うから、あくまでカジュアルな雑談として。こういう対話も大事だろうと思い。

ところが、そこからマネージャーの表情が一転。

「なに、そんなことが起こっているの⁉」
「だれがそんなことをしているの(言っているの)?」

まずい、これは大事になってしまう。そんなつもりはなかったのに。そう考えたBさんは、発言をとり下げた。

「大事にするつもりはないですし、騒ぎになると私の立場もなくなるので、この話は忘れてください」
「わかりました。ほかの人に話したりもしないですし、私が現場で騒ぐこともしませんから。安心してください」

その約束を交わし、Bさんはいったん胸を撫でおろす。

ところが、後日同僚のCさんとDさんからこんなひと言が……。

「なんか、Aさんからいろいろ聞かれたよ(苦笑)」
「別に騒ぐほどのことじゃないのにねぇ……」

マネージャーAさんによる現場の事情聴取と「犯人探し」が始まっていた!

オフィスで内緒話をする人
写真=iStock.com/DragonImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DragonImages

「なぜ、だれも望んでいないことを勝手にするのだろうか……」

Aさんに苦言を呈するも「マネジメント上必要だと思ったので、そうしました」のそっけないひと言。同僚とうまくやっていきたいのに、現場のコミュニケーションは何も問題がないのに、なぜわざわざチームに溝を生じさせようとするのか。

「もう、このマネージャーには迂闊なことは言えない。気になることがあっても、絶対この人には言ってはいけない……」

こうして、表面的な対話しか起こらない「見た目上は朗らかな」1on1が繰り返されるのでした。

(うまくいっていそうなチームほど、実態はこんな有様だったりしますから、経営トップのみなさん、要注意ですよ!)

■手段であるはずの1on1が目的化している

形骸化した1on1。繰り返されると、マネージャーもメンバーも1on1に対して無力感を募らせます。その無力感が、ますます1on1の形骸化に拍車をかける。

無力感しか残らない1on1……その背景にも、組織のさまざまな問題が見え隠れします。

①人事部門による強制

「マネージャーは最低週1回30分、全メンバーと時間をとって1on1を実施すること」

1on1黎明(れいめい)期に多くの企業で見られた取り組み。コミュニケーション不足を解消するために、メンバーのエンゲージメントを向上するために、定期的に1on1の実施をマネージャーに義務づける。でもって、マネージャーはやらされ感で1on1をおこなう。

こうなると、形骸化の道まっしぐら。とにかく1on1を実施することが目的化し、中身のない消化試合のようなミーティングだけが繰り返されるだけになります。

マネージャーの負担も無視できません。10名部下がいるマネージャーであれば、300分の時間、さらに準備時間が加わるわけで、なかなかマネージャー泣かせです。

もちろん、「まずは1on1で対話する習慣を組織に定着させる」「1on1の体験を増やす」といった目的で、最初の一定期間は1on1を義務化するのも決して悪くはないと私は思います。定期的に1on1が設定されているから、お互い気を遣わずに対話の場を持つことができるメリットも大きいでしょう。ところが、現状を顧みずに惰性でそのまま続けてしまうと、手段であるはずの1on1が悪気なく目的化してしまいます。何事もふりかえりとアップデートが肝心です。

ところで、1on1って、そもそもマネージャーとメンバー間だけのコミュニケーション手段なんでしたっけ?

■何でも1on1で話せばいいというわけではない

②それしかやり方を知らない/過信している
・コミュニケーションがうまくいかないと思ったら ⇒ とにかく1on1!
・何かあったら ⇒ とにかく1on1!
・お互いの考えや意見がかみ合っていないと思ったら ⇒ ひたすら1on1!

なぜなら、それしか方法を知らないから。あるいは、1on1さえ繰り返せばなんとかなる、わかり合えると、「1on1万能説」を信じ切っているような人もたまに見かけます。

いわば「1on1にすべての望みを託している」感じ⁉

そう表現するとカッコイイかもしれないですが、単なる問題の先送りと丸投げです。

■1on1は日頃からの情報共有があってこそ力を発揮する

③現在位置不明・経路不明な情報共有スタイルと組織文化

唐突に1on1を設定して(されて)、その場でとにかく課題を解決しようとする(あるいは相手に仕事の主体を引き渡そうとする)。その背景にあるのは、やはり日頃の情報共有および組織そのもののカルチャーの問題です。

①その組織で何がおこなわれているのか、だれが何をやっているのかわからない
②だれが何を話しているのかわからない
③だれに話を持っていったらいいのかわからない

でもって、場当たり的に1on1で相手に相談しまくる。自分の課題や役割も、相手の課題や現状もよくわからないままに。

④唐突に話を振る/振られる

こうして唐突に1on1を設定され、雑に話を振られても、相手はポカンとします。毎回、そのテーマの現在位置(組織における扱われ方、優先度、どこまで話が進んでいるか、だれが関係しているかなどの現状や進捗)の確認や、1on1を仕掛けるほう/仕掛けられたほうの現状の景色合わせから手探りでスタート。時間がかかって仕方がない。

その背景には

⑤普段から情報共有がされていない。相手に興味がない

この状況もまちがいなく存在します。

沢渡あまね『コミュニケーションの問題地図』(技術評論社)
沢渡あまね『コミュニケーションの問題地図』(技術評論社)
④マネージャーの想像力と能力の欠如

1on1で聞いたプライベートな話や、雑談ベースでの話をもとに、本人の同意なしに勝手に動いて、勝手に騒ぐ……それでは、単なる人騒がせマネージャーです。

厄介なのが、この手のマネージャーは正義感と自分の「べき論」や「仕事した感」でもって脊髄反射で動いてしまうこと。それが、現場やまわりや本人にどう影響を与えるか、その後のマネージャーとメンバーおよびチームの信頼関係にどう影響を及ぼすか、まるで想像できていない。経験不足も、マネジメント能力不足も否めません。

メンバーの意向を尊重し、約束を守る。メンバーの期待を裏切らない――マネジメントの鉄則です。それができないマネージャーは「テクニカルファウル! 退場!」。

■1on1はあくまで組織の課題解決のための1つの選択肢

こうして、その組織のマネージャーもメンバーも1on1に対する効力感を失い、1on1を信頼しなくなります。酷くなると、1on1を「面倒ごとを押しつけられる前儀式」としてとらえ、1対1のコミュニケーションを避けるように。

・1on1に応じたら負け
・お互い本音を言わない、相談しない

このような文化が醸成されます。

また、すべての業務上のコミュニケーションが1on1に閉じてしまうのも問題です。秘匿の関係上、当人たちだけに閉じておきたいテーマや話の内容、プライベートな相談はさておき、1on1で話し合われた内容であっても組織全体にかかわるものは全体に共有しないとまずい。さりとて、そのためのコミュニケーションコストやデリバリーコスト(内容を他者に伝達する手間や労力)も悩ましい。よって、1on1だけでなんでも解決しようとするのはやはり考えものなのです。1on1は、あくまで組織の課題解決のための1つの選択肢です。

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沢渡 あまね(さわたり・あまね)
作家/ワークスタイル&組織開発専門家
1975年生まれ。あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/浜松ワークスタイルLab所長/国内大手企業人事部門顧問ほか。「組織変革Lab」主宰、DX白書2023有識者委員など。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『問題地図』シリーズ(技術評論社)をはじめ、『新時代を生き抜く越境思考』(同社)、『職場の科学』(文藝春秋)、『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『仕事は職場が9割 働くことがラクになる20のヒント』(扶桑社)など著書多数。

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(作家/ワークスタイル&組織開発専門家 沢渡 あまね)

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