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「答えはお客様の中にある」はもう古い…これから国内で急成長する新規事業を作るために必要なこと

プレジデントオンライン / 2023年8月9日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/marchmeena29

未来のビジネスの種はどこにあるのか。ドリームインキュベータの三宅孝之社長は「日本企業の新規事業への挑戦は、なかなかうまくいっていない。これはかつて有効だった『答えはお客様の中にある』が通用しなくなっているからだ。これからの新規事業はビジネスエコサイクルを構築する必要がある」という――。

※本稿は、三宅孝之『「共感」×「深掘り」が最強のビジネススキルである』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■日本の企業はすでに耐用年数を超えている

今、そして、これから、日本で活躍するビジネスパーソンとは、どんな人か。

私は、それはビジネスプロデューサーであると考えています。

ビジネスプロデューサーとは、大企業の次の柱となり得るような数百億、数千億円規模の新規事業を創造する人です。

では、なぜ今、大規模な新規事業を創造する人が求められているのでしょうか?

「失われた10年」と言われてから、すでに20年が経ちました。しかし、いまだに日本経済が大きく成長する兆しは見えてきていません。

それは、日本企業が本業として現在行なっているビジネスの多くが、すでに耐用年数を超えてしまっているからです。経営の柱であった本業が市場の成熟期を迎え、将来的に成長する見込みがありません。

にもかかわらず、「まだ大丈夫だろう」「もう少しぐらいはもつだろう」という希望的観測から、やや無理矢理に延長戦を戦っている企業もあります。しかし、耐用年数を超えた橋は、いつか必ず落ちます。

それがわかっている危機感の強い企業ほど、新しい事業を立ち上げるべく挑戦を繰り返しています。

■新規事業が求められている

経営者の関心事項の中で「新規事業の具体化」は、この10年で110%も増えています。

また、日本における売上上位100社のうち約8割がこの10年間に新規事業部門を新たに設立しており、その設立ペースは年々加速しています。

つまり、日本の大企業にとって、「新しい事業の創造」は、トップアジェンダの中でも、とりわけ喫緊の課題となっているのです。

かつて世界第2位を誇った日本の国民一人当たりGDPは、2021年、27位にまで下がりました。時価総額世界トップ10に7社も入っていた日本企業は、今ではゼロ。トップ50に入っていた唯一の日本企業、トヨタ自動車も、2023年2月、ついに圏外となってしまいました。

この間、アメリカでは、アップルやグーグルといった企業により、新たなビジネスがどんどんプロデュースされ、今ではそれらの企業で世界時価総額合計の大半を占めるほどになっています。

日本がビジネス面でも世界に誇れる国であり続けるためにも、「失われた30年」を「失われた40年」にしないためにも、新規事業、それも数千億円以上の大規模な新規事業を創造することが、日本経済、日本企業に求められているのです。

そして、それを実現するのが、ビジネスプロデューサーです。

■日本で新規ビジネスが立ち上がらない理由

では、どうやって、それほど巨大な新規事業を生み出すのか?

残念ながら、日本企業の新規事業への挑戦は、なかなかうまくいっていません。

市場が成熟してしまっている現在の日本では、ニッチ市場であっても、ほぼ埋まってしまっています。私たちが、「新規事業をやりましょう」と言うと、「新しいビジネスを始める市場なんてあるの?」と聞かれます。「そんな市場はもうない」と思っているのでしょう。

メタバースのように、新技術の登場で新たな市場が生まれることはあります。ただし、その市場が大きく成長するまでには時間がかかります。しかも、それらの新市場がすべて大きく成長するわけでもありません。

通常の新規事業開発では、顧客ニーズから発想するのが基本です。お客様は何を求めているのか、どんなサービスを提供してほしいと思っているのか。それを調べ、それに応える商品やサービスを考えます。「答えはお客様の中にある」と言われます。

しかしながら、あらゆるニーズが満たされている、現在の成熟した日本市場では、その方法が通用しません。お客様の中に答えがないからです。かつて有効であった、「顧客ニーズから新たな事業を発想する」という方法は、効力を失ってしまっているのです。

これが、通常の新規事業開発で生み出された事業が大きく成長しない理由の1つです。

ビジネスウーマン
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

■社会課題は山積している

顧客ニーズが大幅に減少した日本ですが、その一方で、新たに大きなニーズが生まれています。それが「社会課題」です。

ご存じの通り、日本は社会課題先進国です。少子化、高齢化、経済格差、自然災害、環境汚染、エネルギー不足、労働力不足、医療・介護の問題、インフラの老朽化など、様々な社会課題を抱えています。日本企業の既存事業だけでなく、日本の社会システムも耐用年数を超えてしまっているのです。だから、現代社会に対応できず、歪みが生まれています。

これらの社会課題は、言い換えれば、解決が求められる「社会ニーズ」です。顧客ニーズよりも大きな社会ニーズを満たせば、自然と事業規模も大きくなります。もっと言えば、社会課題が大きくなればなるほど、それを解決するビジネスの事業規模も大きくなります。

■社会課題をいかにビジネスにするかが課題

ただ、社会課題をビジネスで解決することは、それほど容易いことではありません。

顧客ニーズを起点にして、新たな製品やサービスを作るというのは、考え方として比較的わかりやすいと思います。顧客に関するデータをきちんと調べ、論理的に考えていけば、どのような製品やサービスが求められているのかが見えてきます。それをビジネスモデルに落とし込むことができれば、新規事業が動き出します。

一方、社会課題や社会ニーズは漠然としているため、どこから手をつけたらいいのかが、そもそもわかりにくい。しかも、当初はまったく儲かりそうに見えません。

社会課題の解決をいかにビジネスにするかが、ビジネスプロデューサーの腕の見せどころです。

■大企業こそ向いている

社会課題を解決するだけなら、ビル・ゲイツ氏のように財団を作って寄付をするなど、ビジネス以外の方法もあります。しかし、ビジネス以外の手法では、寄付金やボランティア、補助金などの限られたリソースが尽きてしまえば続けることができません。篤志家の膨大な資金も無尽蔵ではありません。利子の範囲で寄付をするのであれば元本は減りませんが、それを超えて使えば、いつかはなくなります。

ところが、社会課題の解決をビジネスにできれば、儲けが生まれます。儲けが出るビジネスには持続性があります。これが非常に大事な点です。

若い人たちの中には、「社会課題の解決を持続できるかたちでやりたい」と思って、大企業に入社した人が大勢います。ところが、既存事業がうまくいっている大企業ほど、新規事業は「非日常」の業務です。「それ、絶対に儲からないだろう」などと言われてしまい、なかなかやらせてもらえないのが現状です。

しかし、社会課題を解決するビジネスを手掛けるのは、大企業にこそ向いています。ベンチャーや中小企業ではなし得ない規模の投資や多数の優秀な人材、他社と連携するときに役立つ知名度・ブランド力の高さ、事業が立ち上がるまでに待てる時間軸の長さ。どれをとっても、社会課題を解決するような大規模なビジネスプロデュースは大企業にぴったりなのです。

オフィスビル
写真=iStock.com/scanrail
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/scanrail

■複数の企業のビジネスを数珠つなぎにする

数百億、数千億円規模の事業を創造しようと思えば、1社だけで実現することはまず不可能です。複数の企業との連携が必要不可欠となります。

また、社会課題の解決をビジネスにするためには、業界を超えた様々な企業(時には国や自治体も)に参画してもらう必要があります。そして、それら複数の企業のビジネスを数珠つなぎのようにつなげていくところに、ビジネスプロデュースの肝があります。

1対1のギブアンドテイク型のビジネスにするのではなく、連携する企業のビジネスをいくつも組み合わせて、グルッと回る仕組みを作る。これができて初めて、ビジネスプロデュースの巨大なエコシステムが完成し、ビジネスが回り始めます。

このエコシステムを構築するのは非常に難しく、そのための労力も甚大です。ただ、参画企業のビジネスが足し合わされる、場合によっては掛け合わされるので、事業規模が大きくなり、皆が利益を得られるというわけです。

日本企業は内製を重んじ、自社内、あるいは自社グループ内ですべてを完結させることで数々のビジネスを成功させてきました。その成功体験が強く残っている企業ほど、すべてを自分たちでやろうとします。すると、社内のしがらみにからめとられ、どうしても内向きになってしまいます。これも、新規事業が大きく成長しない原因の1つなのではないでしょうか。

そんな企業であっても、社会課題の解決のためであれば、参画しやすくなります。グループ外の他企業と連携する大義名分ができるからです。

今後のビジネスで大切なのは、「つながり」かもしれません。業界という枠が崩れ、業界を跨いだ新しい市場ができはじめている昨今、強いのは、業界を超えて「つながれる」企業です。逆に言えば、既存の業界に固執している企業は、異業種のプレイヤーに簡単に飲み込まれてしまうことでしょう。

ビジネスネットワーク
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■豊田市の介護予防事業のケース

「グルッと回る仕組みを作る」とは、どういうことか。イメージをつかんでいただくために、ドリームインキュベータが愛知県豊田市で2021年に始めた介護予防事業を紹介しましょう。

この事業で取り組んでいる社会課題は、自治体が負担する介護費の増加です。

介護費は地方自治体が一部を負担していて、年々その額が増えています。豊田市もその典型でした。では、この社会課題を、どのように解決するのか。あなたなら、どう考えますか?

介護費を減らすためには、介護を必要とする人を減らすことが必要不可欠です。そこで色々と調べてみると、社会参加する機会が多い人たち、例えば、スポーツをしたり、同じ趣味を持つ人たち同士で集まったりしている人たちは、介護が必要になる時期が遅くなるということがわかりました。毎日歩いて、楽しくおしゃべりするだけでも、認知症予防になり、介護を必要とする時期を遅らせることができます。

「ということは、高齢者向けにスポーツや趣味の会をする場を提供するようなビジネスを展開すれば、介護費を減らせるのではないか」。そう考えた方もいるかもしれません。

そうなのです。でも大事なのはここからです。

さらに調べると、健康なときの生活実態と要介護認定を受ける時期の関係について、過去のビッグデータを分析した「日本老年学的評価研究プロジェクト」という医学的な研究があることがわかりました。この研究結果を活用すれば、現在の生活状況や活動のレベルを把握することで、将来の要介護度と介護費を予測することができます。

■「節税」というお金の創出で5年間に5億円

そこで私たちは、次のようなビジネスエコサイクルを作ることにしました。

まず、日本政策投資銀行に協力してもらい、日本生命などの保険会社や地方銀行などと一緒になってファンドを作りました。そして、事業の事務局として新たに設立したDIの子会社が、そのファンドから運営資金を預かります。

そして、豊田市内の企業や全国規模の大企業に呼び掛けて、その資金でスポーツや趣味の会などの高齢者向けサービスを展開してもらいます。現在、50社以上が様々なサービスを展開し、それらを活用する高齢者は月間2000人に迫る規模となっています。

先ほど紹介した研究を行なった機関(日本老年学的評価研究機構:JAGES)に市内の高齢者の生活状況や活動レベルを評価してもらうと、将来の介護費をどれくらい削減できそうかが予測できます。そこで、市が負担するはずだった介護費のうち、削減できた金額の一部を事務局が受け取り(財源は、市の財政に加え、企業版ふるさと納税を活用)、ファンドにリターンとして支払います。

ファンドを作り、投資家から資金を集める

事務局がファンドから資金を預かり、事業者に提供

資金提供を受けた事業者が高齢者にサービスを提供

評価機関がサービスの効果(介護費がどれだけ減るか)を評価

減った介護費の一部を、成功報酬として、市が事務局に支払う

事務局がファンドにリターンを支払う

これでグルッと1回転するビジネスモデルです。

【図表1】愛知県豊田市での介護予防事業のビジネスモデル
図版=『「共感」×「深掘り」が最強のビジネススキルである』(PHP研究所)より
三宅孝之『「共感」×「深掘り」が最強のビジネススキルである』(PHP研究所)
三宅孝之『「共感」×「深掘り」が最強のビジネススキルである』(PHP研究所)

事業規模はスタートから5年で5億円。毎年、市内の5%以上の高齢者にアクセスすると設定していますが、2年目に入り、急速に知名度が増し、豊田市全体に広がってきました。

参画している企業が素晴らしく、サービスを次々と進化させたり、相互に連携したりしながら、市民をより楽しく元気にするための工夫がなされ続けています。

しかも、その取り組みには報酬が支払われますし、頑張った豊田市での介護予防事業への参加企業はその分報われるという仕組みもビルトインされています。介護予防事業という以上に、新しい「コミュニティ産業」が創出される息吹(いぶき)を感じています。

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三宅 孝之(みやけ・たかゆき)
ドリームインキュベータ社長
京都大学工学部卒業、京都大学大学院工学研究科応用システム科学専攻修了(工学修士)。経済産業省、A.T.カーニーを経てドリームインキュベータ(DI)に参加。経産省では、ベンチャービジネスの制度設計、国際エネルギー政策立案に深く関わった他、情報通信、貿易、環境リサイクル、エネルギー、消費者取引、技術政策など幅広い政策立案の省内統括、法令策定に従事。DIでは、環境エネルギー、まちづくり、ライフサイエンスなどをはじめとする様々な新しいフィールドの戦略策定及びビジネスプロデュースを実施。また、個別プロジェクトにおいても、メーカー、医療、IT、金融、エンターテインメント、流通小売など幅広いクライアントに対して、新規事業立案・実行支援、マーケティング戦略、マネジメント体制構築など成長を主とするテーマに関わっている。共著に『3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」戦略』『3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」成功への道』(ともにPHP研究所)、『産業プロデュースで未来を創る』(日経BP社)がある。

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(ドリームインキュベータ社長 三宅 孝之)

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