「認知症は全然怖くない」と断言する和田秀樹さんが、高齢者がかかる病気の中で一番怖いと語る病気
プレジデントオンライン / 2023年8月23日 17時15分
※本稿は、和田秀樹『65歳から始める和田式心の若返り』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
■65歳を過ぎたら「不幸になる老い方」に注意
「やっぱり、ボケにだけはなりたくないよな」
こんなことをいう人たちがいます。あなたも、そんなふうに思っていませんか。
しかし、晩年にボケることは、決して不幸なことではありません。
私は、高年者専門の精神科医として、これまでに認知症の人々を多く診みてきました。
たしかに、認知症が進行すると、子どもの顔まで忘れてしまうといったことが起こります。
しかし、ご家族は悲しい思いをするかもしれませんが、本人はあんまり気にしていません。忘れていることも忘れてしまうからです。よいことも忘れますが、嫌な記憶も忘れられるので、その日その日をニコニコと過ごされる患者さんがほとんどです。
そして、同じホームで過ごす仲間たちと、互いに通じていない言葉で、なんとも楽しそうにおしゃべりをされています。これを老年精神医学では「偽会話(ぎかいわ)」と呼びます。
そんな、朗らかでのどかで幸せそうな姿からは、
「最後には、人は無邪気だった頃に戻れるんだなぁ」
と、老いる幸福を教えてもらえます。
反対に、「不幸になる老い方」があります。それは、「老人性うつ」を発症することです。
老人性うつとは、65歳以上の人に起こるうつ病のことで、私は、高年者の病気の中で最も怖いものではないか、と感じています。
この老人性うつは、65歳を過ぎると発症リスクが高まります。
発症すると、老いる幸福感が奪われます。来る日も来る日も不安から逃れられず、身体的な不調も続きます。大変につらい日々が続くことから、自らを死に追い込んでしまう人も多くいるのです。
多くの皆さんは、年を重ねると、体や脳の老いばかりを気にしていますが、感情の動きが失われるといった「心の老い」も問題です。
そこで、心も全身の老いを受け入れて、余裕を持ったよい年の取り方をしていきたいものです。これを私は「心の老い支度」と呼んでいます。
■幸福な気持ちは、日光に当たることで生まれる
心の老い支度ができれば、老人性うつを、かなりの確率で防げます。認知症は防げませんが、認知症への恐怖は消えます。なお、本書で述べていますが、認知症は決して怖い存在ではありません。
多くの人は、晩年の人生をよりよく生きるためには、「不自由しないくらいのお金が大切」、あるいは「健康な体こそ大切」と考えます。しかし、65歳からの人生に心の健康より大事なものはない、と私は声を大にしていいたいと思います。
そこで、まず実践していただきたいのが、「外に出て、日光に当たる時間を長く持つこと」です。散歩をするのでもいいですし、ゴルフやガーデニング、パートナーや友人とのお出かけや旅行を楽しむのでもけっこうです。とにかく、外に出かけましょう。
なぜなら、日光に当たることで、心の老い支度において最も重要なセロトニンが、神経から多く分泌されるからです。
セロトニンは、幸福感を伝える神経伝達物質で、「幸せホルモン」とも呼ばれます。
このセロトニンの分泌量が、人の幸福感を左右しています。
たくさん貯金があるのに、自分の足で歩ける体があるのに、家に引きこもりがちになり、自分を「不幸」と思い込む人がいます。これは、セロトニンの分泌量が少ないことが一因です。セロトニンの分泌量が減れば、今ある幸せに気づきにくくなります。
反対に、積極的に外へとくり出して、「お金がなくても、毎日楽しいし、とっても幸せ」と、ドーンと構えて暮らす人もいます。
ささやかな出来事に幸せを感じられることにも、セロトニンの分泌が関与していると考えられます。
■65歳以上の15%程度はうつ状態
「私の人生、こんなもんか」
65歳を過ぎると、人生の先が見えたような気がして、あきらめの感情を持ちやすくなります。この思考こそ、「幸せホルモン」である神経伝達物質・セロトニンの分泌量が減っている証、ともいえるでしょう。
実際、65歳を過ぎると、セロトニンの分泌量が減っていきます。
セロトニンの分泌量がさらに減ってしまうと、幸福感すら覚えなくなっていきます。
すると、「もう誰にも必要とされていない」と感じ、「オレなんて、もうどうでもいいや」と投げやりな気持ちになったり、不幸を数え始めたりするようになります。こういった思考に陥ると、老人性うつを発症している可能性があるのです。
ときどき、「もう、いつお迎えが来てもかまわない」といったり、「早いところ、お迎えが来てくれないかしら」と願ったりする人がいます。
そうした言葉も、老人性うつを発症すると口にしやすくなります。セロトニンが減ってしまうと、「生」に対する前向きさを失ってしまうのです。
アメリカの老年医学の教科書には、65歳以上の5%、つまり、20人に1人がうつ病を抱えている、と書かれています。
日本では、「精神科にかかるのは恥ずかしい」と思い込んでいる人が多い傾向にあります。病院や周囲の人に頼れず、一人で苦しんでいる人の数は、日本ではかなり多いと推測されます。
私が患者さんと接している感覚では、一時的に気分が落ち込む「抑うつ状態」の人も含めて、
65歳以上の人の15%程度が老人性うつ、もしくは抑うつ状態にあるのではないか、と考えています。
なんの対策もしなければ、加齢とともにセロトニンの分泌量は減ります。だからこそ、心の老い支度ができていないと、セロトニンの分泌量は減る一方となり、気分が落ち込みやすくなってしまうのです。
セロトニンが減れば誰でもなる病気が、うつ病です。
■肉には幸せホルモンを促すアミノ酸がたっぷり
高年になったら、自分の体に不足しているものを、どんどん足していきましょう。
私は、これを「足し算健康術」と銘打っています。足し算健康術は、幸福感を高めるための老い支度の秘訣です。
セロトニンも放っておけば不足するので、きちんと足していきましょう。
では、どうやって足せばよいのでしょうか。
1つは、先述したように、外出して日光をたくさん浴びること。日光を浴びることが、セロトニン分泌のスイッチを押すことになります。
もう1つは、動物性たんぱく質の宝庫である「肉」を食べることです。たんぱく質は筋肉や血管、皮膚や粘膜など、ありとあらゆる組織の材料となる物質です。
なかでも、肉には、セロトニンをつくるための材料の1つである「トリプトファン」という必須アミノ酸が、豊富に含まれています。当然、魚や大豆製品にも多く含まれていますが、高年者が敬遠しがちな肉も、セロトニンを補強するために、しっかり食べたほうがよいのです。
日光浴というスイッチを押し、肉からトリプトファンを摂取することで、セロトニンの分泌力が高まります。
それでも、気持ちが上向かないときには、精神科を受診し、脳内のセロトニン量を増やすための薬を処方してもらいましょう。薬については本書で詳しく述べていますが、脳内のセロトニンを増やすタイプの抗うつ剤が、老人性うつには有効です。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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