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"加齢を受け入れる、若づくりで闘う"はどっちがいいか…医師・和田秀樹「老いとの向き合い方」の最終結論

プレジデントオンライン / 2023年8月25日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/doble-d

老いとはどのように向き合うべきか。医師の和田秀樹さんは「外見を若々しくすることは、気持ちまで明るくし、心の老化のスピードを緩める。『老いと闘うこと』と『老いを受け入れること』は、対立関係にあるのではなく移行するものだ。闘える間は闘ったほうがいい」という――。

※本稿は、和田秀樹『65歳から始める和田式心の若返り』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

■定年退職は自分の居場所も人間関係も失う最悪な制度

「定年後にうつになる人が多いんだよなぁ」

というのは、精神科医なら誰もがする話です。もともと、セロトニンの分泌量が低下しているところに、定年退職がきっかけとなって老人性うつを発症する人たちは、非常に多く見られます。

それほど定年制とは、心の健康において最悪の制度です。まるで理にかなっていない、おかしな制度なのです。

まだ能力があって会社に貢献できる人材でも、65歳、もしくは70歳になると、一律に解雇する会社がいまだに多いのは、年齢による差別制度といえます。こんな前時代的な制度が、日本という国にはまだあるのです。

「人の心を無用に苦しめる制度なんぞ、なくしてしまえ!」

と、精神科医として日々叫んでいますが、残念ながら、社会はどうにも変わっていきません。

ではなぜ、定年が老人性うつのきっかけになりやすいのでしょうか。

それは、長年、仕事で積み上げてきたものを一日で喪失するからです。

古典的な精神分析の考え方では、うつ病の最大の原因は、「対象喪失」とされています。愛する対象を失ったときに、人間は心理的に不安定になり、うつ状態に陥ります。その状態が2週間以上続いたとき、「うつ病」と診断されます。

定年後にうつになる人が多いのは、会社を離れることが対象喪失になるからです。

熱い想いを持って長年勤めてきた会社を去ることになるため、居場所も人間関係も一気に失い、それが心に大きなダメージを与えてしまいます。

一方、現代的な精神分析では、「自己愛喪失」が心の健康に最も悪影響を及ぼす、としています。自己愛喪失とは、自己愛が満たされないこと、あるいは自己愛を満たしてくれる対象を失うことです。

具体的には、自分の働きを認めてくれる人、自分を尊敬してくれる人、自分の心の支えになる人、自分が同じ仲間と思える人などを失うことが、自己愛喪失になります。

定年退職を迎えると、これらを一気に失うことになります。

このように、定年退職は、対象喪失と自己愛喪失がダブルで押し寄せてくる、心の健康において最悪の状況を生み出しやすいのです。

■65歳を過ぎたら「自分がやりたいことをやる」

ところが、定年退職という最悪な制度も、自分の考え方を変えると、最高の制度に見えてきます。

よく考えてみてください。定年退職は、それまでの束縛から解放されて、「自由を手に入れる」という最良の機会とも考えられます。

65歳は、老いてきてはいるものの、体力・気力は十分にあり、試せることはたくさんあります。むしろ、時間的な余裕が増えるぶん、できることも増えていくでしょう。この先、20年も30年も生きることを考えれば、その数は無限大です。

そこで、65歳以降のご自身に対して、1つルールを設けてはいかがでしょうか。

「65歳を過ぎたら、自分がやりたいことをやる」というルールです。

現役時代は、社会のルールに従って生きてきました。しかし、現役を引退したのちは、あなたを縛るものはもう何もなく、一人の人間としての自由を謳歌できます。

年齢を重ねてまで、嫌なことをする必要はありません。取り返しがつかなくなるような大バクチ以外のことなら、なんでも気軽に試してみましょう。そうすることで、新たな刺激を前頭葉に与えられます。

セロトニンの分泌が減っていく65歳以降は、なんでもやりたいことをするようにしないと、人生を楽しむ意欲など湧いてこないのです。

祖父と孫は家でテーブルの周りに座ってコンピューターを使う
写真=iStock.com/zeljkosantrac
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zeljkosantrac

■老いと「闘える間は闘う」で老化のスピードが落ちる

「老いと闘う派」と「老いを受け入れる派」。このように世間では、老いに対する考え方が二極化しています。

「努力をすれば、老いは遠ざけられる」といって、アンチエイジング(抗加齢)に勤しむ人がいれば、「年を取ったら、老いるのが当たり前。自然なままに生きていく」と、老いていくことを素直に受け入れている人もいます。

どちらも素敵な考え方で、否定するつもりはありません。

ただ、高年者専門の精神科医としてわかることは、「老いと闘うこと」と「老いを受け入れる」ことは、対立関係にあるのではなく、“移行するもの”だということです。

老いと闘える間は、闘ったほうが老化のスピードを緩められます。

60代はまだまだ、十分に闘える時期です。

この時期に老いと闘わずにいると、年齢以上に老け込んでしまいます。実際、何もしないでいると、60代でもヨロヨロして転びやすくなったり、顔つきが老人そのものになってきたりします。

ただ、どんなに頑張っても、老いることは止められません。ある時期が来れば、闘うフェーズ(局面)から受け入れるフェーズへと移行していくことになります。

しかし、歩行がおぼつかなくなっても、認知症になっても、寝たきりになっても、人生が終わりかといえば、そんなことはありません。

そのとき、「老いを素直に受け入れられた」ならば、できなくなったことをあきらめるぶん、今できることが愛(いとお)しく感じられるでしょう。

たとえば、歩けなくても絵は描けます。寝たきりでも俳句は詠(よ)めます。やってみたかったけれど、やらずにいたことを、そのときが来たら始めてもよいのです。そう思えば、「寝たきりになったら、どうしよう」という不安が軽くなりませんか。

そんな穏やかな時期が、生きていればやがて訪れます。ただ、その時期はなるべく遅くできるに越したことはありません。そのためにも、老いと闘える間は闘って、老化のスピードを緩やかにするとよいと思います。

■外見を通して心が若がえると、免疫の働きもよくなる

老いと闘うことは、老人性うつの予防にもなります。それなのに、「若づくりは恥ずかしい」「60歳を過ぎて派手な格好はできない」などと考えていないでしょうか。

外見を若々しくすることは、気持ちまで明るくし、心の老化のスピードにも影響します。臆することなく、どんどんやっていきましょう。

とくに男性は、見た目の若さにあまり気を遣わない傾向があります。外見が老人らしくなっていくと、その影響を受けて心も老化し、全身の身体機能も老け込みます。

実際、精神神経免疫学という医学の分野では、外見を通して心が若がえると、免疫の働きも高確率で若がえる、という研究が進んでいます。

ですから、「いい歳をして恥ずかしい」などと、自分を抑えないでください。

美容医療の力を借りて、外見の若がえりを図るのもよい方法です。シミやシワが1つ消えるだけで、こんなにも心が軽くなるのか! と実感されるでしょう。髪が薄くなったのなら、植毛やウィッグを試されるのも素敵なことです。

■補聴器や紙オムツをどんどん活用しよう

また、体のさまざまな機能が落ちてきたとき、現代には、それを支えてくれるグッズがたくさんあります。高年者用のグッズを使う勇気を持ちましょう。

和田秀樹『65歳から始める和田式心の若返り』(幻冬舎)
和田秀樹『65歳から始める和田式心の若返り』(幻冬舎)

耳が遠くなったら補聴器をつける、足腰が弱ったならば杖つえや歩行器を使う、尿もれが気になるのならば紙オムツをはく。

こうして、文明の利器をどんどん活用すれば、老いた部分をカバーしてもらえるぶん、自由度が増します。外出して日光に当たれば、セロトニンの分泌が促進されて、老人性うつの予防にもなります。

高年者用グッズは、老いた人生を楽しませてくれる、最高の支援者なのです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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