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法的に間違ったことは一切していないが…人気ラーメン店「AFURI」が炎上してしまった根本原因

プレジデントオンライン / 2023年9月1日 13時15分

AFURIのラーメン(写真=Wei-Te Wong/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)

商標権をめぐって酒造メーカーを提訴した人気ラーメン店「AFURI」が、SNSなどで批判にさらされている。PR戦略コンサルタントの下矢一良さんは「AFURIの行為に違法性は一切ない。それにもかかわらず批判を集める背景には、酒造メーカーの『声明文の巧みさ』、そしてAFURI社長の『感情に任せ、本質を見失った危機対応』がある」という――。

■なぜ人気ラーメン店「AFURI」は批判されているのか

人気のラーメンチェーン店「AFURI」がSNSを中心に、大きな批判を浴びている。神奈川県伊勢原市の酒造メーカー「吉川醸造」が8月22日に発表した声明文によると、ラーメン店などを展開するAFURI社は吉川醸造の日本酒「雨降(あふり)」がAFURI社の商標を侵害していると主張、商標の使用差止めと損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴したというのだ。

この騒動を受け「もう二度とAFURIのラーメンは食べない」といった書き込みが、SNSに相次いだ。AFURI社は法律に則って、自社ブランドの関連商標を取得し、その権利を行使したに過ぎない。だが、SNSはAFURI社への批判であふれている。つまり、AFURI社は知財戦で優位に立ったが、広報戦で完敗しているのだ。

AFURI社の行為に違法性は一切ない。関連商標を取得する行為も、ビジネスの世界では極めて一般的だ。それにもかかわらず、なぜ、批判の集中砲火を浴びたのか。その背景には、吉川醸造の声明文の巧みさ、そしてAFURI社長の感情に任せ、本質を見失った危機対応がある。

私はテレビ東京の経済部記者として、多くの企業を取材してきた。現在は独立し、企業の広報PRを支援している。長年、企業の広報PRに携わってきた経験をもとに、広報戦の勝敗をわけた原因を紐解いてみたい。

■吉川醸造が掲載した巧みな「お知らせ」

改めて、両社の争いの経緯を振り返ってみたい。8月22日に吉川醸造のサイトに「AFURI株式会社からの提訴について」という「お知らせ」が掲載される。この「お知らせ」を機に、AFURI社への批判がSNSで噴出することになった。この「お知らせ」は、じつに巧みなものだった。

まず全体の文章量が多過ぎず、少な過ぎず、ちょうど良い塩梅だ。タイトルを除いた文字数は900字未満。私が在籍していたテレビ業界のニュース原稿に換算すると長めの1本程度で、長さにして2分あまりとなる。「飽きずに最後まで読める」ギリギリの量と言えるだろう。

本文もじつに巧妙だ。AFURI社から受け取った文書について、吉川醸造は以下のように説明している。

文書の大意としては、“AFURI”と記載した当社商標の使用はAFURI社の著名性にフリーライドしその商標権を侵害するものであり、商品を全て廃棄処分すること等を要求するものでした。

巧みさのひとつ目は、「AFURI社の著名性にフリーライドしその商標権を侵害するもの」と書いている点だ。

「AFURI」は確かにラーメン好きには有名なブランドだが、シャネル、アップル、トヨタのように「誰もが知っている」ものではない。「ラーメン好きにしか知られていない程度」で、「著名性にフリーライド」と主張していると言っているのだ。第三者に傲慢(ごうまん)さを感じさせるのには、十分な表現ではないか。

■「あふり」の名称は「公のもの」と訴えている

そして、巧みさのもうひとつは「商品を全て廃棄処分すること等を要求」と暴露している点だ。品質に問題のない日本酒を、同じく食に携わる企業が「捨てろ」と要求する。この一文を批判するSNSのコメントが相当数、見受けられた。この一文でAFURI社の倫理観の欠如を印象づけることに成功している。

その上で、吉川醸造の銘柄「雨降(あふり)」の名前の由来について「お知らせ」のなかで説明している。

「雨降(あふり)」銘柄は、丹沢大山の古名「あめふり(あふり)山」と、酒造の神を祀る近隣の大山阿夫利神社(以下「阿夫利神社」といいます)にちなんで命名したものであり、ラベル「雨降」の文字も阿夫利神社の神職に揮毫していただいたものです。

吉川醸造の日本酒「雨降」はラーメンの「AFURI」に由来するものでは当然なく、地元の代表的な山の名にちなんだもの。つまり「あふり」の名称は「公のもの」と訴えているのだ。

大山阿夫利神社 下社
大山阿夫利神社 下社(神奈川県伊勢原市)(写真=Tak1701d/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

■吉川醸造は、自社を「地域代表」に据えた

さらに「お知らせ」の終盤にある次の一節は、広報戦における「両社の位置付け」を決定的なものとしている。

AFURI社では現在「阿夫利」「AFURI」で構成される商標を、「ラーメン」以外に150種類以上の物品・役務について取得しております。
伊勢原市の施設にAFURI社に対する商標関連の苦情文が届いたと聞いたこと、また最近では「あふり」に関する名称を持つ事業を営む地元企業の代表からも不安を打ち明けられたことなどから、当社としても一定の情報開示をする責任があるのではないかと考えるに至りました。

AFURI社は日本酒「AFURI」に何か特別な思い入れがあるわけではなく、「片っ端から」地名の「阿夫利」「AFURI」の商標を獲得していると指摘。その上で、不安を抱いている伊勢原市の公的施設や地元企業の窮状を訴えている。

吉川醸造の「お知らせ」の文章は、AFURI社は「傲慢で、法を巧みに駆使しながら、自社利益の追求に邁進するズルい存在」であり、吉川醸造は「『あふり』にゆかりのある地域の代表」と位置付けることに成功しているのだ。

■AFURIの社長はフェイスブックで憤りを表明

AFURI社も黙っているわけではない。反論を繰り出すのだが、吉川醸造の巧みな広報対応とは対照的に「あまりに下手」であった。

AFURI社としての公式見解を発表する前に、AFURI社の中村比呂人社長はフェイスブックで憤りを表明してしまったのだ。その文面は熟考したとは思えない、じつに感情的なものだった。以下に、私が気になった部分を引用したい。

不動産業を大きくやられているシマダグループさんという企業が、コロナ禍に、伊勢原市の吉川醸造さんという酒蔵を買収し、リブランディングして「雨降AFURI」という日本酒を販売し始めたんですね。

吉川醸造を「不動産業を大きくやられているシマダグループ」としている。相手は「地域の代表ではなく不動産会社の一員に過ぎない」と言いたかったのだろうが、前後の文脈からは唐突だったし、どこか小賢しい印象を受けてしまう。

そして社長の「お気持ち表明」は続く。AFURI社としては、最初から法廷闘争を望んでいたわけではなく、解決策を提示したというのだ。

AFURI
AFURI(写真=Wei-Te Wong/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)

■「傲慢さ」が感じられる提案内容

「雨降」と書いて、「UKOU」と読ませるのはいかがですかと。そうすれば、阿夫利山は、元々は「雨降り山」から転じていると我々と同じルーツである事を伝えられるし、海外のAFURIの店舗でも吉川醸造さんの日本酒を同じ水源の仕込み水を使っている同郷の日本酒として全面的に推せますし。共にタッグを組んで世界に打って出ましょう! などなど、様々な提案をしましたが、結局受け入れては頂けず平行線で終わってしまって。

この「提案内容」には、多くの人が傲慢さを感じるのではないか。そして最後は「地域名を独占しようとしている」という批判に反論する。

ネットでは、地域の名称である「あふり」を独占するなんてとんでもない! と言う事になってますが。(中略)「八海山」とか「高千穂」とか、地域の名前だけど、商標として登録されてますよね。

親や教師に怒られた子どもが「他の子もやっているのに、何で自分だけが怒られないといけないのか」とキレているような幼さを感じてしまった。

フェイスブックという「友達への公開」が前提となっているプラットフォームだけに思いの丈を吐き出したのかもしれない。だが、「炎上で注目されている企業の経営者」としては、あまりにも脇が甘かった。

■火に油を注いでしまった「公式見解」

そして、吉川醸造の「お知らせ」から4日後の8月26日。AFURI社は自社サイトに「吉川醸造株式会社への商標権侵害による提訴に関して」と題した公式見解をようやく掲載する。

このリリースの文章だが、弁護士か弁理士が書いたと思えるような、じつに無味乾燥なものだった。AFURI社の主張は、リリースの以下の文章に集約している。

当社は、この日本酒事業の進出のために、2020年に日本酒に関する「AFURI」の商標登録(登録番号第6245408号)を取得致しました。新事業への進出に際して、その分野であらかじめ商標登録を取得する行為は、必要なことです。

リリース全体を通して、法的、あるいはビジネスの観点から自社の主張が正しいことをひたすら主張しているのだ。

中村社長の「お気持ち表明」、そしてAFURI社の公式見解発表によって、ネット世論はどう動いたか。AFURI社への批判は収まるどころか、さらに激しさを増す事態となったのだ。

何がAFURI社への反発を招き、吉川醸造への共感を高めることになったのか。一言で表すと、「広報戦で勝利するには、大義を背負っている必要がある」ということだ。

■広報上手な経営者の「大義を背負う」手法

吉川醸造は前述の通り、AFURI社を「傲慢な存在」と印象付けると同時に、自社を「地域代表」に据えた。つまり、吉川醸造は「公」を背負うことに成功したのだ。反対にAFURI社は自社利益のために、邁進しているに過ぎない。どちらが第三者の支持を集めるかは明らかだろう。「自分のためだけ」に戦う者を、誰も支持しようとは思わないものだ。

この「大義を背負う」という広報手法は、吉川醸造の専売特許ではない。古くから広報の巧みな経営者が共通して用いる手法だ。

代表的なのは、ソフトバンクの孫正義社長だ。携帯会社としてのソフトバンクは、NTTドコモやKDDIと扱っている商品に大差ない。だが、孫正義社長は何かにつけて「情報通信革命のため」という大義を打ち出している。この大義があることによって、競合他社と全く異なる、「カリスマ経営者」としての支持を得ることに成功している。

孫正義会長兼社長
写真=時事通信フォト
株主総会で経営戦略を説明するソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長=2023年6月21日、東京都千代田区[同社提供] - 写真=時事通信フォト

さて、今回のAFURI社と吉川醸造の戦いはどのような結末を迎えるのだろうか。仮に吉川醸造が法的に負けるとしても、今回の広報戦の完勝によって、有利な和解条件を得やすくなったかもしれない。あるいは、吉川醸造が名称変更を強いられたとしても、リニューアルした日本酒に支援の輪が広がるかもしれない。

いずれにしても「黙って法廷での戦いに判断を委ねる」よりも、実際のビジネスでも有利なポジションを引き寄せることに成功したのではないか。

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下矢 一良(しもや・いちろう)
PR戦略コンサルタント、合同会社ストーリーマネジメント代表
早稲田大学大学院理工学研究科(物理学専攻)修了後、テレビ東京に入社。『ワールドビジネスサテライト』『ガイアの夜明け』をディレクターとして制作。その後、ソフトバンクに転職し、孫正義社長直轄の動画配信事業を担当。現在は独立し、中小企業やベンチャー企業を中心に広報PRを支援している。著書『小さな会社のPR戦略』(同文舘出版)、『巻込み力』(Gakken)。

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(PR戦略コンサルタント、合同会社ストーリーマネジメント代表 下矢 一良)

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