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「犬が急病なので休みます」と言えるか…精神科医が驚いた主張を円満に通す"すごいコミュニケーション"

プレジデントオンライン / 2024年3月2日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Farknot_Architect

自分の気持ちを大切にしながら良好な人間関係を築く方法はあるのか。精神科医の大山栄作さんは「最近注目されているコミュニケーション手法に“アサーティブネス”がある。相手のことを思いながらも、自分の主張を伝えるものだ。アメリカにはこれを意識している人が多い」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、大山栄作『精神科医が教える「静かな人」のすごい力』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■注目を集める「アサーティブネス」

最近注目されているコミュニケーション手法に「アサーティブネス」があります。

アサーティブネスは1970年代、アメリカの女性解放運動の中で生まれました。人種や性別、年齢など立場の違いを乗り越え、互いに理解し合うことを目指したものです。

直訳すると「自己主張すること」という意味ですが、一方的に自分を押しつけるのではなく、「相手を尊重しながら責任ある主張や交渉を行うコミュニケーション方法」として注目されています。

ポイントは「相手のことを思いながらも、自分の主張を伝えること」です。そのためには他人を観察する以上に自分を知らなければいけません。自分が何を求めているのか、何をしたら幸せなのかがわからなければアサーティブなふるまいはできません。

つまり、アサーティブネスはテクニック論で語られがちですが、本質は「自分らしさ」にあります。いくらアサーティブにふるまおうとしたところで、「自分らしさ」がなければ、相手に自分は伝わりません。

「自分らしさ」を突き詰めることこそ、このコミュニケーションの目指すべきところであり、自分の内面に興味がある内向型は生まれながらにしてアサーティブネスを発揮しやすいといえるでしょう。

■SNSの「つながってる感」と「強い疎外感」

アサーティブネスが注目されるようになった背景には時代の変化があります。「人々が何を求めるか」が変わったのです。

アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローの欲求段階説は5段階から構成されるのは前回もお伝えしました。食事や睡眠など「生理的欲求」、敵や外部環境から身を守る「安全への欲求」、心理的安心のための「所属や愛への欲求」、周りから認められたいという「承認への欲求」、そして最後の第5段階が「自己実現の欲求」です。

下位の欲求を満たすことでその上の欲求が次々と出現し、最終的には「自己実現」という欲求にたどり着くというのがこの理論です。

これは日本の消費者の行動を考えるとわかりやすいかもしれません。戦後、モノのない時代は生きるための欲求が優先されました。その後に、周りと同じモノが欲しい時代や一段上のモノが欲しい時代が訪れ、高級ブランドが注目されたりしました。

それから格差が取りざたされるSNSが普及し、「承認欲求」が優位な時代になってきました。今はSNSを通して誰とでもつながっていると感じられる反面、強い疎外感も感じているように思えるのです。

■SNSの時代の後には「自己実現欲求」の時代が来る

SNSというものがあるから人は余計に他者からの承認を求めて競い、結局は自身の暗部をさらけ出すことのできない他者との間にある強大な壁を知ることで、孤独に陥ってしまうという罠があります。

人間はそういう意味でつくづく勝手だと思います。それまで群れたいと思っていたのに、群れた後には他者より優位に立って認められたいという欲求が出てきてしまう。

でもこの「承認欲求」の壁にぶち当たったとき、人間は「自分の本当にしたいことはなんだろう」と振り返ることができると信じます。

「他者の承認」より「自分が自分自身を承認すること」。そして自分自身と折り合いをつけて他者を気にせず、自分自身の興味を追求すること。これがマズローのいう「自己実現欲求」であり、最終的な欲求段階となってきます。

SNSの時代の後にはこの欲求が優位となる時代が訪れると私には思えます。そしてそのときは周りとの相対的な関係において、相手からの「承認欲求」を得ることを喜びとする外向型より、自己と対話することにより「自身の内面」をよく知り、他者に流されず「自分の行きたい道」をまっすぐに進む内向型が真価を発揮するときだと信じています。

まさにアサーティブネスが求められているのです。内向型の時代なのです。

■犬の病気でも休むアメリカの人々

アサーティブネスの重要性はアメリカで働いていると特に強く感じます。アメリカでは、アサーティブネスを意識している人が日本に比べると圧倒的に多いです。

例えば、日本では休みを取りたくても上司の目を気にして躊躇してしまう人が今でも多いでしょう。

アメリカでは自分の都合で休みを取ります。理由もさまざまで、自分の病気はもちろんですが、家族の病気、犬の病気などでもみな休みますし、誰も違和感を抱きません。

日本ならば「犬が急病なので今日休みます」と言われたら違和感を抱く人がいまだに多いのではないでしょうか。

獣医に診てもらう犬のイメージ
写真=iStock.com/SeventyFour
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SeventyFour

一方アメリカでは、「犬が病気で、自分が病院に連れていくから休みます」と言って、上司に嫌味や文句でも言われたら、「犬は私の家族です。犬を大切にすることは私自身を大切にすることです。あなたは私や私の家族より仕事を大切にしろと言うのですか」と誰もが言い返します。

■相手と同じくらい自分を大切にして良い

自分の中で何が大切か、周囲に何を言われようとぶれない芯があるのです。もちろん、自分の主張を言うだけでなく、相手の主張も受け止めます。

自分を知っているからこそ、相手に対しても表面的な理解ではなく、心の底から共感します。そして、私の周囲を見渡すと、単なる自己主張に終わらずアサーティブネスを発揮している人は内向型の人が多いです。自己表現を改善することが人間関係を変えることを、私はアメリカに来て学びました。

日本では相手を大切にする「おもてなし」の文化がありますが、「相手と同じくらい自分を大切にして良い」という考え方はアメリカが教えてくれました。

■自分を犠牲にしなくても信頼関係は築ける

信頼を得るために自分を犠牲にしなくても、自分らしさを大切にしながら、信頼関係は築けます。アサーティブネスを発揮すると「生意気だ」と誤解されるのが日本社会でした。反面、主張しない人は自己を否定しがちなため、攻撃性のある人の攻撃対象になりやすい傾向にあります。

大山栄作『精神科医が教える「静かな人」のすごい力』(SBクリエイティブ)
大山栄作『精神科医が教える「静かな人」のすごい力』(SBクリエイティブ)

アサーティブな人は他の人を尊敬する「他尊」と自尊精神をあわせ持ち、一時的な孤独に陥ることを恐れずに行動できます。そして、そのアサーティブな精神性が攻撃性のある人に対する最大の防御になります。

アサーティブネスを発揮できれば、防御を超えて、攻撃的な人間と調和することも可能です。アサーティブネスは、言い換えれば、自分を大事に思う権利を主張することです。他者を攻撃する権利ではありません。

アサーティブネスを発揮する人が増えれば社会は変わります。内向型の人はその先頭に立って社会を変える資質を持っているのです。

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大山 栄作(おおやま・えいさく)
精神科医
米国・精神科医。自身も内向型。マンハッタン精神医学センター精神科医。安心メディカル・ヘルス・ケア心療内科医。米国精神神経学会認定医。米国精神医学協会(APA)会員。1993年東京慈恵会医科大学卒業。聖路加国際病院 小児科、慈恵病院 精神科を経て、埼玉県立越谷吉伸病院 精神科医長。2005年よりシティ・オブ・ホープ・メディカル・センター、ハーバーUCLAメディカルセンターにて、精神疾患の分子生物学的研究に従事。2012年マウントサイナイ医科大学精神科研修修了、現在に至る。日本で10年以上、米国で10年以上の臨床経験をもつ。

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(精神科医 大山 栄作)

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