1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

日本人の生活はますます苦しくなる…インフレを抑制できない日銀の無策がもたらす"厳しいシナリオ"

プレジデントオンライン / 2024年3月6日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paprikaworks

日経平均株価が史上最高値を更新し、不動産は高騰、企業決算は軒並み過去最高益を更新。これは、「新・バブル時代」と言えるのか。経済評論家の加谷珪一さんは「実態経済をともなわないマネー主導のインフレが起きている。株価も不動産も価格調整しているだけ」と指摘する――。学びのサイト「プレジデントオンラインアカデミー」の好評連載より、第1話をお届けします。

※本稿は、プレジデントオンラインアカデミーの連載『《新・バブル経済》の読み解き方』の第1話を再編集したものです。

■今の経済実態はなるべくしてなった当然のインフレ

株式や不動産の価格は上昇し、大企業の決算発表では過去最高益を出す企業が続出しました。しかし、物価の上昇ほどに賃金は上がらず、社会全体として景気が良いという実感が持てない。そうした現状について、ポジティブに捉えるべきか、疑ってかかるべきか、混乱が生じているかと思います。

しかし、現状は十分に予想されたことで、今起きているのは、インフレです。アベノミクスが始まってから10年、日銀は市場にお金をばらまいてインフレにしようとしてきた。ECB(欧州中央銀行)やFRB(連邦準備制度理事会)よりさらに踏み込んだ金融緩和を実施しましたが、日本経済があまりに弱いために物価はなかなか上がらなかった。けれども、まさに異次元の緩和を10年続けたのですからインフレにならないわけがないのです。

経済の実態が良いわけではないのに日経平均が3万3000円を超えたり、不動産の高級物件の値段がさらに上がったりしている。一方で、企業では最高益が出ているのに、給料が上がらない。これはおかしいじゃないかという疑問がわくのも当然ですが、これらはすべて、「インフレだから」というひと言で説明がつきます。

実は日本の消費者物価はこの10年、わずかずつですが上がり続けてきました。こうしたインフレが続いているのに株価や不動産価格が横ばいだとしたら、それは、大幅に下落しているということです。しかし、多くの投資家はこれに気がつかず、報道の通り株価が上がっていると思ってしまう。実際に起こっていることは、単なるインフレなのです。

■最も注目すべき指標は、物価指数

現状を把握するのに、最も注目すべき指数は、消費者物価指数です。毎年少しずつ物価が上がり続けてきた日本の消費者物価指数の上昇率は現在4%になりました。過去10年ではすでに12%も物価が上がっており、これは相当な上げ幅です。しかし、その間、日経平均株価は大きく動いていなかったわけですから、今の株価はその部分を調整しているにすぎません。実際は、株価が上がっているのではなく、インフレ分を調整しているだけです。不動産も同様で、インフレになった分だけ、価格が上昇しているのです。

企業業績にも同じことが言えます。インフレで100円のものが120円になれば売り上げだけを見ても単純に1.2倍になります。メディアは今年3月期の決算発表を受けて過去最高益だと喧伝(けんでん)しましたが、円安でもあるので決算上の数字が大きくなるのは当たり前のことです。経営の実態が良くなっているとは限らない。その証拠に、利益率を見ると昨年より下がって儲からなくなっている企業が目立ちます。だから、賃上げができないという話になってくるのです。

円安も株価上昇の要因になっています。2021年夏には1ドル110円だった円は翌2022年には150円目前まで下落しました。日本円の価値が2割も3割も下落したわけですが、例えばトヨタ自動車やソニーなどの企業価値もその分減少したかというと、そんなことはない。であれば、円の価値が仮に2割下がったときには、その企業の時価総額は逆に日本円で2割増えていなければおかしい。だから、個別企業の株価も上がる。そういう図式が成り立ちます。

■コストプッシュ型ではなく、マネー主導型のインフレ

現在起こっているインフレの根本的な原因は何でしょうか。今回のインフレをコストプッシュインフレと言い切る専門家がたくさんいますが、政権に忖度(そんたく)したいのかと疑いたくなるほど、そのように捉える意図がわかりません。今回のインフレは、資源や原材料が値上がりして起こるコストプッシュインインフレの要素も存在していますが、それだけが原因ではないと思います。もちろん、需要が供給を上回ることで価格上昇を招くディマンドでもプルでもありません。

今起きているインフレの原因は、明らかに全世界的な大規模緩和策ですさまじい量のマネーがばらまかれたことによるものです。意図的にインフレにする政策を世界的に実行していたわけだから、大量の貨幣がインフレを誘発し、それが物価を押し上げ、それでも余るマネーが行き場を求めて、結果的に実物資産に流れ込む。だから、銘柄としては、不動産や天然資源への投資額が増えているというのが現状です。

一方で消費者は物価高に苦しめられています。直近の物価指数は生鮮食品とエネルギーを除外しても前年比で4.3%上がっているのに対し、令和5年4月の労働者の平均賃金は前年比で1%の上昇にとどまっています。つまり実質的な賃金は3%以上減少している。不動産や資源ばかりが価格上昇しても、庶民は全然いい思いをしない。それが今の日本の実態です。

物価と賃金の関係

■日銀が金融緩和方針を転換しない限りインフレは続く

では、この実態経済をともなわないマネー主導のインフレはいつまで続くのでしょう。結論を言うと、金融緩和を改め、日銀がばらまいたマネーを回収し、バランスシートが正常化するまでインフレは続くでしょう。少なくとも、日銀が政策転換を表明しない限り、大きな流れは変わらないと思います。

だから、どこかで金融の引き締めに転じなければいけない。日銀の植田和男新総裁もそれはわかっています。けれども、今、日本が金利を2%上げたら国債の利払い費は最終的には10兆円、20兆円という額になりますから、なかなか踏み切れない。

一般家庭においても、多くの人が住宅ローンを変動金利で借りていますが、金利が上昇するとローンの返済額が増えて、住宅ローン破産者が続出する。さらに言うと、日本政府はこの10年、20年という期間、企業の倒産を防ぐために、金融機関に対し、企業への過剰な貸し出しを求めてきました。見かけ上は景気がいいのだと言い続けた結果、借金まみれの企業を存続させたため、金利が上がるとそうした企業の中から、倒産するところが出てきます。だから、政府日銀は当分の間、金利を上げられない。

日本だけ金融緩和が続けば、まだまだ円安になると読む海外のヘッジファンドがさらに円を売る。1ドル150円、160円になり、さらなる円安によって輸入物価が上がっていく。そんな形でインフレが継続するシナリオがもっとも可能性が高いと思われます。

----------

加谷 珪一(かや・けいいち)
経済評論家
1969年宮城県生まれ。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後独立。中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。

----------

(経済評論家 加谷 珪一 構成=大竹聡 図版作成=佐藤香奈)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください