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「AO・推薦で入った奴はバカ」一般受験以外は評価しない人の言い分…スタンフォード合格の高校球児にモヤる訳

プレジデントオンライン / 2024年3月1日 11時15分

米スタンフォードに進学を決めた花巻東高の佐々木麟太郎内野手=2024年2月20日、岩手県花巻市 - 写真=時事通信フォト

ドジャース大谷翔平の後輩・花巻東高3年の佐々木麟太郎が米国スタンフォード大学へ進学することをめぐって波紋が広がっている。スポーツライターの酒井政人さんは「TBS役員の安住紳一郎アナなど一般受験枠で合格を手にした人々の中には、最近増えている推薦やAO枠で入学する学生を認めないという意識を持つケースがある。佐々木選手が文武両道で活躍すれば、米国大学進学を選択する高校球児も増えるのではないか」という――。

■4年間の学費約5000万円は全額免除…佐々木麟太郎への意地悪多発

甲子園を賑わし、高校通算最多140本の本塁打を放った岩手県の強打者が米国の超名門スタンフォード大学に進学する。記者会見をした花巻東高3年の佐々木麟太郎は、「世界でもトップの大学で勉強し、野球選手としてプレーさせていただくのは光栄ですし、誇りに思っています」と文武両道への決意を語った。

このニュースは日本国内で大きな話題になっている。

そのなかで、なぜ佐々木が「THE世界大学ランキング2024」(Times Higher Education)で国内最上位である29位の東京大学を上回る世界2位の大学に行けるのか、という疑問を持つ者は少なくない。大学受験を頑張ってきた大人たちは大いに戸惑っているようだ。

花巻東は岩手県花巻市にある私立高校。その偏差値は「高校偏差値ナビ」によると、特別進学コースが46、スポーツコースが43、進学コースが42となっている。

なかには偏差値を大きく上回る生徒がいたとしても、偏差値50未満の高校から、東大以上の評価を誇る世界屈指の超名門大学の進学を不思議がるのも無理はないかもしれない。

佐々木は一般受験ではなく、日本でいう「スポーツ推薦」のようなかたちでの入学となる。米国の学費は日本と比べてかなり高額だ。そのため奨学金(スカラシップ)の獲得を目指す生徒は少なくない。対象はスポーツだけでなく、芸術、社会貢献など多岐にわたる。

NCAA(全米大学体育協会)はディビジョン1の大学はアメフトなら85人、バスケなら13人というように奨学金の人数(分)が決められており、基本的にはこの総額がチームに所属する学生全員に分配される(※均等ではなく、個々により受給額は異なる)

なおスポーツ奨学金は国外の学生も対象だ。佐々木の場合、各種報道によると、4年間の学費約5000万円は全額免除で、さらに約1700万円に上る寮費、食費も全額免除だという。

■TBS役員の安住アナほか、一般受験以外は評価しない大人たち

学閥意識の強い企業があるとはいえ、社会人になると出身大学を聞かれる機会は少なくなっていく。ましてや入試方法を聞いてくる者はほとんどいない。

一方、TBSの安住紳一郎アナウンサー(50)が、大学入学共通テストが行われた1月14日放送のTBSラジオ「日曜天国」の中で、「指定校推薦で進学されたみなさんと、AO入試で進学されたみなさんに対しての気持ちは少しわだかまりがある」と話したように、“推薦組”を認めたくない人たちがいるようだ。

安住アナは、この放送の中で、

「指定校やAOのみなさんがそれぞれの努力をしたということは私も知っていますけれども、私自身の心の中では自分と一緒ではないというふうな気持ち」

「今ここで、一般受験で苦しんでいる諸君がいるならば、社会に出たときにちゃんと一般受験の門をくぐってきた先輩たちが、そういう指定推薦組には若干の意地悪をしているからおおいに今日頑張って」

とも述べている。

北海道の帯広柏葉高校から一浪(代ゼミ札幌校)後に、明治大学文学部に合格した安住アナは、現在、TBSで「コンテンツ戦略本部 アナウンスセンター 役員待遇 エキスパート職」の肩書を持つ出世社員だ。

受験勉強で苦労し、社会人になってからも頑張ってきた自負の強さゆえに、「推薦はズルい」といった心証を抱いているのだろうか。

ただ、そうした思考はもはや時代遅れといえるだろう。近年、大学も“多様性”を求めている。一定レベルの学力を持つ生徒だけでなく、特殊な才能を持つ生徒に入学してもらいたいと考えている。

安住アナが総合司会をしているTBS「THE TIME,」公式Xより
安住アナが総合司会をしているTBS「THE TIME,」公式Xより

■「AO入試ならバカでも入れる」は20年以上前の認識

文部科学省の調査によると、大学・短大の2022年度入試では私立大学の一般選抜(一般入試)は48.8%。なんと半数以下になっているのだ。一方で総合型選抜(AO入試)が19.7%、学校推薦型選抜(推薦入試)は31.5%に増えている(※2000年度では国公立大学と私立大学を合わせたAO・推薦入試比率は33%だった)。少子化で大学全入の時代にあって、学校側が学生確保のために推薦枠を拡大させている面はある。だが、それだけが非一般入試枠の増加の理由ではない。

大学関係者の中には「受験前に追い込みで頑張るタイプより、中学・高校と一貫して真面目に学び、成績が上位で推薦の査定も高いAO・推薦で入学した学生のほうが大学に入って伸びている」といった声も少なくない。

大学ジャーナリストの石渡嶺司さんはプレジデントオンラインで『「AO入試ならバカでも慶応に入れる」はウソである…慶応SFC合格の鈴木福が間違いなく優秀と言えるワケ』(2023年5月11日配信)と題した原稿を執筆し、この中で「ネット上では『AO・推薦だから簡単』という批判が目立ったが、それは20年以上前の認識による誤ったものだ。過去の経験やイメージで判断しないほうがいい」としている。

では、日本の大学スポーツ界における推薦枠はどうなっているのか。例えば、筆者がメインに取材している箱根を含む大学駅伝に関していえば、早大のスポーツ推薦は長距離が3枠ほどしかなく、基本的に授業料免除もない。

一方で選手への手当が充実している大学は少なくない。駅伝強豪校の多くはスポーツ推薦が1学年10~15人ほど。選手全員を授業料免除にしている大学もあれば、授業料、寮費、食費、合宿費の免除に加えて、月に数十万円の奨学金を渡すなど手厚い大学もあるのだ。

そうしたスポーツのブランド校にスポーツ推薦で入学する選手のなかには、出身高校の偏差値が低い場合もある。そう考えると、佐々木のスタンフォード大入学も特に違和感はない。

■米国の大学進学は高校球児たちの新たな選択肢になるのか?

とはいえ、今回の佐々木の“選択”は高校野球界にとっても衝撃だったようだ。

甲子園常連校での指導歴もある現役の高校教諭は、「高校野球の指導者からすると、米国の大学に針路を取ることはまず頭にありません。最近は米国の大学進学を斡旋するスポーツ関係の企業が増えているとはいえ、まだまだ高校野球界に浸透していないので、思い切った選択だと感じました。ましてやスタンフォード大ですから、これまでの常識とかなりかけ離れた話だと思いましたね」と驚いていた。

高校卒業後も野球を真剣に続けたいと考えている球児の進路といえば、「プロ野球志望届」を提出して、NPB球団のドラフト指名を待つか、大学やノンプロ(社会人)に進むのが一般的だ。近年は独立リーグからNPBを目指す選手、それから米国のマイナーリーグに入団してMLBを目指す選手も増えている。

米国の名門大学で野球を続ける甲子園のスター選手はほとんどいなかったが、佐々木の挑戦で高校球児たちの“考え方”が変わるかもしれない。

前出の高校教諭も、「大学で野球を続けたい場合、東京六大学か、青山学院大や中央大など東都リーグのブランド校に進学したいと考えている選手が多い。希望の大学に入れないと、地方の大学に飛ぶことになりますが、それならば米国の大学に進学しようと考える選手が出てくるかもしれませんね」と話していた。

佐々木がスタンフォード大で華々しい活躍をすれば、米国の大学でプレーすることが高校球児の憧れになるかもしれない。NCAAとしても、日本のファンを増やすチャンスになるだろう。

佐々木選手が進学する米スタンフォード大キャンパス
写真=iStock.com/jejim
佐々木選手が進学する米スタンフォード大キャンパス(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/jejim

■甘くない世界だが、佐々木が活躍すれば安住アナも認めざるをえない

では、佐々木が米国で活躍できるチャンスがどれぐらいあるのだろうか。

「入学するより卒業する方が難しいと思う」とハーバード大卒のタレント、パックンが指摘しているように、まずは大学生活が大変だ。

NCAAは規則が非常に多く、学業で一定水準の評価を得ることができないと、試合にも出場できない。学業とスポーツの両立は日本の大学よりもはるかに難しいのだ。

そして野球の方でも簡単とはいえない。

米国の場合、高校野球で「甲子園」のような全国大会はなく、高校では複数のスポーツをする選手が多い。日本の高校球児とは環境が大きく異なる。

高校卒業後の伸びしろは米国の方があるといえるだろう。

佐々木は身長184cmで体重は110kg前後。立派な体躯を生かし高校3年間で放った本塁打140本は先輩の大谷翔平(ドジャース)や松井秀喜(元ヤンキース)、清原和博(元巨人)といったスラッガーを凌駕する。

国内では規格外ともいえるカラダだが、米国ではさほど大きいとはいえない。MLB選手(1028人/2022年)のデータでいうと、佐々木のポジションであるファーストの平均身長は189cmもあるのだ。

現在の実力でもNCAAでは活躍できるだろう。しかし、MLBを目指すなら、もっとスピードとパワーを身につけていかなければならない。

花巻東といえば、前出の大谷や菊池雄星(ブルージェイズ)といった先輩がMLBで輝きを放っているが、ふたりは大学に進学せず、日本のプロ野球を経由して、米国に渡った。

佐々木は卒業前にプロ選手になったとしてもオフシーズンなどで大学の単位を取得して、「最終的に卒業したい」と考えている。MLBに入団できれば、それも可能だが、NPBに入団することになると、かなりハードになるだろう。

佐々木はNCAAの野球で結果を残して、スタンフォード大を無事に卒業できるのか。偉大な先輩・大谷翔平の後光を借りつつ、文武両道を貫いてアスリートになれば、きっと辛口の安住アナも認めるに違いない。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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