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保護者・近隣からのクレームに神対応…中高一貫校の名物校長が伝授「電話を切る前に必ず添える絶妙フレーズ」

プレジデントオンライン / 2024年3月12日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Takatoshi

クレーム対応は難しい。横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一さんは「クレームには『受けて立つな、横に立て』と教員に伝えている。説得できないと思うのではなく、相手の立場を理解することが大切なのだ」という――。

※本稿は、工藤勇一『校長の力 学校が変わらない理由、変わる秘訣』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■教員たちは保護者を怖がって臆病になっている

学校のステークホルダーといえば、教育委員会や議会、あるいは民間企業よりも大切な存在、保護者を取り上げないわけにはいきません。保護者とのコミュニケーションの取り方は、校長にとって必須のスキルです。

最近、クレームを訴えてくる保護者が多いので、教員たちは保護者を怖がって臆病になっているように思います。麹町中でもその風潮を感じましたが、日本中が同様だと思います。保護者から言いたい放題に責められて、対する教員はサービスで答えれば答えるほど、また相手の要求がエスカレートする。そして結局は当事者意識を忘れ、人のせいにする子どもたちが育つ……なんて悪循環に陥っているのです。

しかし、本書(『校長の力』)で繰り返し述べているように、みんなを当事者にするのが教育です。その最上位目標を頭では理解していても、やはりスキルと言葉を持っていないと、対応に困るのも事実です。

■入学式で必ず伝える3つのこと

僕は横浜創英中学の入学式では必ず保護者に3つのことを伝えています。まずは教育目標です。「自律・対話・創造」という教育目標のうちの「自律」と「対話」の2つについてお話をします。

「自律」を一言で言えば、不透明な時代においてはますます自分で考えて行動する力が大事だということです。

ここにA君とB君がいて、A君は親や先生の言うことをよく聞く、いわゆる素直な子。勉強も言われたことをきちんとやって、成績もいい。でも自分で考えるわけではなく、指示待ちタイプ。対するB君は親の言うことを聞かず、先生の言うことも聞かない。勉強もやる気がない、成績も今ひとつ。でも、この子は自分で決めたことは自分でできる子に育っている。横浜創英はB君を育てる学校です。主体性を失った子どもが主体性を取り戻すリハビリには、それなりの時間がかかります。覚悟してください、と話します。

もうひとつの「対話」は、みんな違っていいのだから、当然、トラブルも起きるということです。

1年生のうちは、頻繁に喧嘩が起こりますとも保護者に伝えます。もちろん放任することはありませんし、必ず丁寧に間に入り、解決する当事者は子どもたちであることを教えていく、そういう学校です、と。あるいは「発達に特性があってパニックになって暴れる子も中にはいます」と伝えると、たまに保護者の中に「その子を排除してくれ」という人がいるのです。「別教室に移せませんか」と言ってきたりするのですが、「うちは一切、そういうことは行いません。絶対に誰かを排除することはありません。でもそれをちゃんと子どもたち同士が自分たちで解決できるようになります。そこも覚悟してきてくださいね」と説明しているのです。

■びっくりしながらも安心する保護者たち

この2つの話をすると、保護者は自分がクレーマーだと思われたくないから相談できないと考える方もいらっしゃるかもしれません。

そこで3つめの話を加えます。

「なんかこう言われちゃうと、相談しづらくなったでしょう。でも、子育てってね、今、悩んでいる子どもをほうっておいていいのか、介入したほうがいいのか迷うんですよ。結果として、こうすればよかったということが多いから、もし相談していいのかどうか迷ったら、遠慮なく相談してください」と。

さらに、中には、僕らのことを信用できなくて、学校に子どもを人質に取られていると思って相談できない保護者もいます。そこで、「相談することによって自分の子どもの扱いが悪くなるんじゃないかなんて心配する人もいるみたいです。その時には匿名で結構ですよ」と付け加えています。

「たとえ匿名のお電話でも、うちの学校では対応の結果もきちんとお伝えしますから、心配しないでください。必ず一度目のお電話の際には、こう付け加えますから。『匿名で結構ですから、もう一度お電話いただけますか? 2~3日後ならどんなふうに子どもたちが変わったか、お答えできると思うので。もし構わなかったら、2日後の夕方にでもお電話いただけますか。またはご都合のよい時間があったら教えてください』と」

手に電話の子機を持つビジネスマン
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

保護者は、入学式でそんなことを言われるので、びっくりしながらも安心するみたいです。

まずは入学式という一番はじめの交流の機会をつかって、余計な先入観を可能な限り取り除いて、安心な学校づくりをめざしていきます、そしてこのメッセージは同時に聞いている教員たちにも安心とそれなりの覚悟を与えることにもつながります。

■「歩道の歩き方のマナーが悪い」クレームの電話が来たら…

前述のように教員たちには、匿名で電話が来た場合のさまざまな対応をマスターしておくように指導しています。

例えば、「歩道の歩き方が、横に広がったりふざけたりしていてマナーが悪い」といったように、地域からクレームを受けることがあります。そういう電話を受けたら、多くの教員はまず「申し訳ありません」と謝って「後で教員たちにパトロールさせます」などと返すと思います。それでも「おたくの生徒たちは……」と、矢継ぎ早にクレームを言われた場合、とりあえずそれを聞いてあげることです。

吐き出し終わった頃を見計らってこんなふうに返します。「僕らも、このことについては日頃から口すっぱく注意しているんです。でも最近の子どもは親の言うことさえ聞きませんね。そんな子どもたちに言い聞かせるのはなかなか難しいんですよ」。

■感謝を述べて、「もう一度お電話いただけますか」

こんな返しに「そりゃそうだよね」とすぐに共感してくれる方もいますが、その上で、「いやー、でも、こうやって、こういうお電話をいただけると、あらためて子どもに厳しく注意できるので助かります。ありがとうございます」と感謝を述べるのです。さらに前述の「匿名で結構ですから、もう一度お電話いただけますか」を付け加えれば完璧です。きっとほとんどの方が上から目線のクレーマーから、子どもたちを共に育てる当事者として横に立ってくれるはずです。

僕は教員に、こうした一連のセリフとストーリーをOJTの中で教えています。

学校の多くの先生たちは、クレームを言ってくる人は人間性が良くないから、とても説得なんてできないと思っています。しかし問題は、人間性ではありません。教員が相手の立場を理解できていないことが原因なのです。

誰であれ、クレームを言ってくる人たちはものすごくエネルギーが必要なはずです。やむにやまれず電話しなければいけない状況に追い込まれているわけですから、その悩みの立場を考えてあげる。

■クレームには「受けて立つな、横に立て」

ただし、決してまともに正面から受けるのではなく、横に立ってあげることがポイントです。クレームには「受けて立つな、横に立て」と僕は教員に伝えています。相手が悪いときでも、「決して責めるな、横に立て」、と。

子どものトラブルで保護者を学校に呼んだ際も、決して親を責めないことです。

工藤勇一『校長の力 学校が変わらない理由、変わる秘訣』(中公新書ラクレ)
工藤勇一『校長の力 学校が変わらない理由、変わる秘訣』(中公新書ラクレ)

「さすがに今回は、子どもの力だけでは解決できません。ここは大人の出番です。協力して対応しましょう。来てくださってありがとうございます」という感じで始めたいものです。そして、「まずはどうやって本人にお灸を据えるか考えましょう。子どもがお父さん、お母さんに支えられている、そして僕らにも支えられているから、解決できるんだということをしっかりと教えましょう」と。

つまり、保護者と学校は、共に子どもを育てる当事者であろうよと伝えることがポイントなのです。

もちろん、中には当該の教員たちの手に負えないような案件もあります。その時は、「大丈夫。僕がやるから」と校長が対応の前面に立ちます。教員たちからすれば、校長がそうやって最後に責任をとってくれるのは、とても安心感があってありがたいものです。だからこそ校長は、保護者や地域とのコミュニケーション技術を身につけておかねばなりません。

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工藤 勇一(くどう・ゆういち)
横浜創英中学・高等学校校長
1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年から千代田区立麹町中学校長。2020年4月1日より横浜創英中学・高等学校校長。教育再生実行会議委員、経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会委員等、公職を歴任。著作に『学校の「当たり前」をやめた。―生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社)、『子どもが生きる力をつけるために親ができること』(かんき出版)など。

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(横浜創英中学・高等学校校長 工藤 勇一)

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