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だからタワマンに住むリスクは大きい…IQが高く年収も結婚も有利なのに「幸福度は高くない」意外すぎる理由

プレジデントオンライン / 2024年3月9日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

「頭の良さ」と幸福度にはどんな関係があるのか。近著『残酷すぎる幸せとお金の経済学』が話題の拓殖大学教授の佐藤一磨さんは「これまでの研究でIQが高いと年収や結婚面で有利になることがわかっている。であれば、幸福度も高いと考えられるが、IQと幸福度には意外な関係がある」という――。

■「頭の良さ」の価値は今後さらに高まる

現代社会に生きる私たちにとって、「頭の良さ」は重要な要因です。ここでいう「頭の良さ」とは、認知能力として定義されるもので、記憶力、思考力、計算力、言語力、IQといったものが含まれます。これらはいずれも、検査で測定できる能力です。

なぜ頭の良さが重要か。それは学歴に直結し、働きだした後の年収や職種、企業規模、ひいては結婚相手探しといった点にも大きな影響を及ぼすからです。

頭が良ければ学歴が高くなり、年収も高くなるでしょう。この点に関して、橘玲氏のベストセラー『言ってはいけない 残酷すぎる真実』では、個々の頭の良さが経済的な格差につながっていると指摘しています(*1)。頭が良い人ほど年収が高くなっており、知能の格差が経済格差に直結するわけです。ITやAIが発達し、さまざまな知識がすぐに手に入る現代社会において、新しい価値を生み出す基盤となる「頭の良さ」の価値は、今後さらに高まるでしょう。

橘氏はアメリカの研究例を用いて頭の良さと経済格差の関係を明らかにしていますが、そのアメリカで近年興味深い変化が出てきています。

それは、Nerdと呼ばれる、日本語で言えば「オタク」へのイメージが好転し、結婚相手としての人気が高まってきているというものです(*2)。背景にあるのは、彼らの高い所得であり、頭の良さが結婚にも関連することを示しています。

■頭が良い人ほど幸せなのか

このように「頭の良さ」は、現代社会に生きる我々にとって重要な要因となるわけですが、幸せとはどのように関連しているのでしょうか。

頭が良い人ほど学歴や年収が高く、良い結婚相手にも恵まれる可能性があるならば、「頭の良さ=高い幸福度」といった構図があってもおかしくありません。

はたして実態はどうなっているのでしょうか。

今回は「頭の良さ」と幸福度の関係に迫ってみたいと思います。

■頭が良い人ほど幸せというわけではない

それでは「頭の良さ」と幸せは、どのように関係しているのでしょうか。頭が良いとさまざまな面でメリットが多いため、幸福度も高いのかなと思いきや、意外にも「頭が良い人ほど幸福度が高い」という結果は得られていません。

エラスムス大学ロッテルダム校のルート・フェーンホーフェン教授らが23の研究を精査したところ、多くの研究で「IQが高ければ幸福度も高くなる」という関係は確認できませんでした(*3)。研究ではIQが高くとも幸福度に変化は見られないか、むしろいくつかの研究では、幸福度が低下する傾向が確認されたのです。

例えば、インスブルック大学心理学部のイーディス・ポレット氏らの研究では、高い知能を持つ人ほど、人生においての生きがいを感じづらかったり、幸福度が低くなる傾向があると指摘されています(*4)

これらの研究が示すように、頭が良ければ幸福度も高いという傾向は必ずしも確認できていません。頭の良さにはさまざまなメリットがあるのに、なぜこのような結果になるのでしょうか。

夜遅くまで働く女性
写真=iStock.com/suney munintrangkul
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/suney munintrangkul

■頭の良さと幸福度に関する3つの仮説

頭が良い人ほど必ずしも幸福度が高くならないという原因に関して、これまで3つの仮説が提示されてきました。

1つ目の仮説は、頭の良い人ほど仕事や生活面でより野心的になり、さらなる高みを目指すため、現状になかなか満足できないというものです。上昇志向が強くなり、現状にむしろ不満が溜まってしまうのは、ありうる話だと思います。

2つ目の仮説は、高い知性を持つ人ほど、自分の内面世界に興味関心が強くなり、現実世界の人との関係が希薄になるため、孤独感を深めてしまうというものです。孤独は幸福度を押し下げる大きな原因となります。

3つ目の仮説は、高い知性を持つ人ほど、私たち人間社会の不完全性に気が付いてしまい、不安や不満を持ちやすくなり、幸福度が低下してしまうというものです。

これら3つの仮説は確かに「そうかも」と思うところはありますが、実は今年発表された最新の研究で、頭が良い人ほど必ずしも幸福度が高くならない原因について、さらに解明が進んでいます。

■タワマンに住むと幸せを実感できにくくなる納得の理由

分析を行ったのは浙江大学のBianjing Ma氏らの研究で、中国のデータを用い、頭の良さと幸福度の関係を調べています(*5)。この分析の結果、やはり中国でも頭が良い人ほど幸福度が高くなるという関係は確認できませんでした。

佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)
佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)

また、その原因について調べたところ、興味深い分析結果が得られています。

Ma氏らが注目したのは、住んでいる地域の人と比べた、相対的な社会的地位や年収との関係です。

実は幸福度の研究では、周りの人と比較して、自分の相対的な地位や年収が高いのか、それとも低いのかという点が幸福度に大きな影響を及ぼすことが長年指摘されてきました(*6)。仮に自分の年収が社会全体と比較して高くても、自分の住んでいる地域の人と比較して年収が低ければ、幸福度に大きなマイナスの影響があるのです。

日本でいえば、タワーマンションが良い例です。タワーマンションに住んでみたら、上層階の住人がお金持ちで、世間一般よりも稼いでいる自分たちでも、あまり満足感を実感できないという例があるかと思います。

これと同じような構図が頭の良い人でも見られるのではないかとMa氏らは考えました。頭の良い人ほど、年収も高く、世間から見てもよい場所に住むことができます。ただ、そのような地域ではより裕福な暮らしをしている人も多いため、どうしても自分たちが見劣りしてしまう。この結果として、幸福度が低くなってしまうのではないかと考えたのです。

この点を実際に分析してみると、頭の良い人ほど、実際の年収は高いものの、自分の住んでいる地域における相対的な地位や年収を低く評価する傾向があるとわかりました。この関係が背後にあるために、「頭の良い人=幸せ」という構図が成立しなくなっていると考えられます。

タワーマンション
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■頭の良さと幸せの関係は日本では未解明

これまで見てきたとおり、頭が良い人ほど幸せという関係は確認されていません。この点に関する研究は、欧米諸国のデータを用いている場合が多く、日本ではどうなっているのかという点が気になるところです。

残念ながら日本ではほぼ研究例がなく、その実態はわかっていません。おそらく、認知能力と幸福度を同時に調査したデータがあまりないことが原因だと考えられますが、今後この点に関する研究の進展が期待されます。

(*1) 橘玲(2016)『言ってはいけない 残酷すぎる真実』新潮社
(*2) Chiappori, P.-A., Salanié, B., & Weiss, Y. (2017). Partner choice, investment in children, and the marital college premium. American Economic Review, 107(8), 2109–2167.
(*3) Veenhoven, R., & Choi, Y. (2012). Does intelligence boost happiness? Smartness of all pays more than being smarter than others. International Journal of Happiness and Development, 1(1), 5–27.
(*4) Pollet, E., & Schnell, T. (2017). Brilliant: But what for? Meaning and subjective well-being in the lives of intellectually gifted and academically high-achieving adults. Journal of Happiness Studies, 18(5), 1459–1484.
(*5) Ma, B., & Chen, L. (2024) Why is Intelligence not Making You Happier? Journal of Happiness Studies, 25, 14.
(*6) McBride, M. (2001). Relative-income effects on subjective well-being in the cross-section. Journal of Economic Behavior & Organization, 45(3), 251–278

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佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。

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(拓殖大学政経学部教授 佐藤 一磨)

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