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あいさつができなくても怒ってはいけない…算数の天才を育てる塾の先生が「絶対ダメ」という躾の内容

プレジデントオンライン / 2024年3月20日 14時16分

『天才‼ ヒマつぶしドリル』(Gakken)シリーズの著者・田邉亨さん - 筆者提供

『天才‼ ヒマつぶしドリル』(Gakken)シリーズが、累計25万部という異例のヒットになっている。最大の特徴は算数の問題が「パズル形式」になっていること。このため子どもが進んでドリルを解いていくという。ドリルの作者で、学習塾「りんご塾」を主宰する田邉亨さんに学習指導のコツを聞いた――。(後編/全2回)(聞き手・構成=ミアキス代表 梶塚美帆)

■自分の成長が感じられる仕組み作りが大事

(前編から続く)

――子どもが自発的に勉強に取り組むようにするにはどうしたらいいでしょうか。

【田邉】前編でお話ししたように、「頭を使って解くから面白い」と思わせることです。もうひとつ大事なのが、自分の成長がわかる仕組みを作ることです。

りんご塾では、数学検定・算数検定、思考力検定、漢字検定、月々の模試、そして年に1回の算数オリンピックへの参加を勧めています。このうちのどれでもいいから、合格したり結果が出たりすれば成長が感じられますし、勉強を続けるモチベーションになります。

特に数学検定・算数検定は、必要な努力ができれば合格できる検定です。たとえば6級なら「小学6年生程度の問題が45%、小学5年生程度の問題が45%、その他の問題が10%」といったように出題レベルが明確ですし、合格基準も全問題の70%程度と決まっているからです。

自分の努力が認められて、合格証をもらったら、どんな子でもやる気が出ますし勉強が続きます。

――すでに勉強ギライになってしまっている子でも効果はありますか。

【田邉】勉強を投げ出してしまっているように見える子は、勉強が難しくて、「自分にはできない=できないから成長できない」と思って、そのような態度でいるわけです。

だから、「できそう=成長できそう」と思える課題を出してあげればいいんです。その子に合った目標設定をすることが非常に大切です。

ただ、その子に合った目標設定をするといっても、できないからといって、無配慮に1学年下の問題をあげてはいけません。子どもは大人が思っているよりも、学年を意識しています。自分が小学2年生なら、3年生は大先輩で、1年生はひよっこだと思っているから、前学年の勉強に戻るのはプライドが傷つくんですね。

プライドを傷つけずに前学年の勉強をさせたいとき、パズル教材は役立ちます。「これはパズルで、1年生の勉強ではないから恥ずかしくない」と思わせることができるからです。

■社会性と天才性は相反する

――田邉先生がこれまでに指導してきて、印象的だったお子さんはいますか?

【田邉】たくさんいますが、「いつも体験授業を抜け出す」というK君には、子どもと信頼関係を築くうえで大切なことを教わったと思っています。

当時小学1年生だったK君は、静岡から2時間かけて体験授業に来てくれました。K君の母親から「この子は体験授業に行くといつも逃げ出すんです、だから今日も逃げ出したらすみません」と最初に言われました。

K君は僕に会うなり、持っていたリュックから恐竜のフィギュアを出して「これは○○ザウルスです」と教えてくれました。もう一度リュックから何か出したと思ったら、それも恐竜のフィギュアで、また「これは△△ザウルスです、僕は恐竜が大好きで、家にあと130体ぐらいフィギュアがあります」と教えてくれました。その次にリュックから出てきたのはけん玉で、技を披露してくれたんです。

けん玉をする男の子
写真=iStock.com/Satoshi-K
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Satoshi-K

これは彼なりのあいさつなんだなと理解しました。彼の“あいさつ”を最後まで聞くと落ち着いたので、算数のプリントを渡すと、すぐに解き始めました。そのまま1時間ずっと集中して問題を解き、帰る時にはビシッと「ありがとうございました」と言ってくれました。

――ほかの塾は逃げ出していたけれども、今回は気に入ってくれたのですね。

【田邉】はい、「この人は僕におもしろい問題を出してくれる人だ」と思ったから、帰り際には丁寧にお礼を言ってくれたんだと思います。K君はその後、りんご塾に通いながら、小学1~3年生が対象の「算数オリンピック キッズBEE大会」に参加して、2年生のときに銅メダル、3年生のときに銀メダルを取りました。とても才能のあるお子さんです。

K君に限らず、算数が得意な子はいわゆる普通のあいさつが苦手な子が多いです。目を合わせるのが苦手で、あいさつをする意味がわからなかったり、「あいさつをしたら向こうも言ってくるんだろうな」と先を予測したりして、嫌になるみたいですね。

算数の問題が面白くて、熱中すると歌い出す子や、椅子の上に立って問題を解く子もいます。もちろん、ほとんどの子は「椅子に座って静かに問題を解くべきだ」ということは知っています。だけど、それをやる意味がわからなかったり、歌うことや立つことが抑えられなかったりするのでしょう。

塾は学校と違って勉強を教えることに特化した場所であり、社会性を身につけさせる場所ではないですから、それでよしとしています。

――でも、親としてはちゃんとあいさつできたり、静かにするように注意したくなってしまいます。

【田邉】そうですね、「うちの子はほかの子と違う」「様子がおかしい」と心配しているお母さんは多いです。

でも、そういうお子さんたちをたくさん指導してきて、社会性と天才性は相反するものだと感じています。常識的な行動を強制しすぎると、その子の才能や天才性が失われていくと思うので、りんご塾では自由にさせているのです。

それに、「塾に来たら礼儀正しくしなさい」なんて言われたら、やる気がなくなってしまいますしね。

■社会性はあとからついてくる

――親御さんにはどのように伝えているのですか?

【田邉】親御さんには「あなたの子どもは天才なので、その才能をつぶさないように、初めは算数以外は捨ててください」と伝えています。どんなに非常識な子でも、高校生ぐらいになれば社会性が身について立派になるからです。

親御さんの中には「算数オリンピックでメダルを取らせたい」と言って子どもを連れてくる方がいらっしゃいます。算数オリンピックでメダルを取るということは、算数のスペシャリストを育てるということなんです。スペシャリストを育てたいと言っているのに、礼儀はちゃんとさせたい、他の教科もできるようにさせたい、水泳も、英会話も……となると、ゼネラリストが育ってしまいます。

ですから、才能がある子の親御さんには、「ゼネラリストに育てて才能をつぶすのはもったいないです」「この才能の芽を育てたら、将来社会に影響を与える発明が生まれるかもしれません」などとお伝えして、のびのびと才能を育てるようにしています。

■子どもの回り道を妨げないことが、才能を伸ばすことにつながる

――社会性を強要しすぎないことの他に、親が子どもの才能を伸ばすために何ができますか。

【田邉】親にとって無駄だと思うようなことを子どもがやっていても、妨げないことです。子どもが好きでやっていることを親が止めて「もっと勉強しなさい」「そんなことしていないで本を読みなさい」などと言うのはやめた方がいいです。

なぜなら、一見役に立たない物事からでも学ぶことはあるからです。子どもにとっても、好きなことを否定されている気持ちになってしまいます。

たとえば子どもが「1から100まで足し算をしよう」と思いついて1+2+3+……と地道に計算しているとします。親は「そんな時間かかることをやってないで、101×100÷2ですぐ答えが出るよ」と教えたくなるかもしれませんが、それをしない。子どもが自分で気付くまで待ってください。

特に、受験生の親は焦ってしまいがちです。そんな親御さんに、僕は「すぐ役に立つことはすぐ役に立たなくなります」と伝えます。誰だって、今まで生きてきて役に立ったことは、とんでもない回り道で学んだはずです。回り道はゴールにたどり着くための一番の近道だと僕は思っています。

だから、子どもの回り道を妨げてはいけません。たとえばアリの観察も、電車を見ることも、ずっとそれをやっているなら、やらせておくしかないんです。

■自分の子ども時代と比べて、尊敬する

――子どもの興味を尊重することはわかりました。だけど、どうしても直してほしいこと、注意したいことがある場合にはどうするといいでしょうか。

【田邉】子どもは自分のことを認めてくれる人の話は素直に聞いてくれます。だから、子どもを尊敬することが大事だと思います。

田邉氏
筆者提供
田邉氏は「自分の子どもの頃と比べると、生徒たちは本当にすごいです」と笑う - 筆者提供

――子どもを尊敬すると言われても難しい時もあります。どうするといいでしょうか。

【田邉】いまの自分の年齢から見て子どもを評価するのを辞めるということです。

相手が小学校低学年だと「尊敬しようがない」と思うかもしれないけれど、自分が小学生の頃を思い出して「この子と同じことができるだろうか」と想像力を働かせてみてほしいんです。そうすると、「すごいな」と思うところがたくさん見つかります。とくにりんご塾には算数が得意な子たちがたくさんいるので、「すごい」としか言えないんですよ。

僕が小学生のときには絶対に解けないような、難しい問題に取り組んで正解しています。だから、生徒が解いた問題に丸をつけながら「こんなに難しい問題ができるなんてすごいね!」と心から言っています。

これができる大人の話は、子どもはよく聞いてくれます。子どもは「やっと自分のことをわかってくれる大人が現れた」と思っているんです。

――りんご塾は2018年からフランチャイズ展開をしていて、現在は50教室(2024年4月には250校に拡大予定)あります。どこの教室でも同じように指導しているのでしょうか。

【田邉】はい、各教室の先生には、子どもを尊敬して接してくださいとお願いしています。

田邉亨『算数と国語の力がつく 天才‼ ヒマつぶしドリル かなりムズ』(Gakken)
田邉亨『算数と国語の力がつく 天才‼ ヒマつぶしドリル かなりムズ』(Gakken)

こういう話をすると子どもになめられたり、下に見られたりするんじゃないかと心配する先生もいるんですが、そんなことはありません。たとえば、先生がミスをしても、「先生バカじゃない」とはならない。信頼関係ができるので、「先生のミスを指摘できた自分はすごい」になる。上から指導するタイプの先生が同じようにミスをすると、「あんなに偉そうなのにできてないじゃないか」と思われてしまう。

だから、子どものことを心から尊敬することが、子どもを伸ばす大人の条件。それ以外は、あまり大事ではないと思っています。

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田邉 亨(たなべ・とおる)
りんご塾代表、パズル作家
1968年、滋賀県生まれ。モーツァルトとサンバが好きで声楽家を志し、名古屋音楽大学に入学するも中退。その後、ニューヨーク市立大学とペンシルバニア州立大学で学ぶ。留学中にニュートンの『自然哲学の数学的原理』に感銘を受ける。2000年9月、小学校低学年向けの「算数オリンピック」「そろばん検定」「思考力」を重視した学習教室「りんご塾」を滋賀県彦根市に設立。2024年4月には全国に約250教室を展開予定。

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(りんご塾代表、パズル作家 田邉 亨 聞き手・構成=ミアキス代表 梶塚美帆)

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