480円でも「安くておいしい」と好評だったのに…サイゼリヤ会長がミラノ風ドリアを290円に値下げしたワケ
プレジデントオンライン / 2024年3月30日 17時15分
■お客にとっての一番の喜びは「安さ」
私たちは人の役に立つことで、この世界とつながり、調和していくことができます。みんなが幸せになるから、あなたも幸せになり、人生もビジネスもうまくいく、というわけです。
サイゼリヤは、昔から「人に一番喜んでもらえることをしよう」という気概でやってきました。「一番儲かることをしよう」ではありません。
では、お客様の立場で考えたときに、一番喜んでもらえることは何でしょう?
それは「安さ」ではないでしょうか。もちろん、安くてまずいなら、当たり前。安いのに、おいしい。このおいしさで、この価格なら、大満足!
誰でもお財布を気にせず、お腹いっぱい食べて、飲んで、仲間たちと語らって、「ああ、楽しかったな」と満足して帰ってほしい……。そのために私は努力をしてきました。
サイゼリヤは、創業期の「7割引き」から始まり、断続的に値下げをしてきました。
原材料費が高騰していても、サイゼリヤはほとんど値上げはしていません。むしろ値下げした商品もあるくらいです(もちろん、味も日々改良しています)。
さほど売れないものを安くするのは、比較的簡単です。一方で、すでに何度も値下げと改善を経てきた人気商品を、さらに安く、おいしくしていくのは簡単ではありません。
しかし、これが最もお客様に喜ばれるのです。
■「ミラノ風ドリア」の誕生秘話
サイゼリヤで最も売れている人気商品「ミラノ風ドリア」をご存じでしょうか。300円というお値打ち価格で、長年愛され続けている看板商品です。
そのルーツは1970年頃の従業員のまかない飯にまでさかのぼります。ライスの上にホワイトソース、ミートソース、粉チーズをかけたものを、常連客から「自分も食べたい」と要望されたのが誕生のきっかけ。
当初は裏メニューでしたが、あまりに評判が良いので定番メニューに昇格。480円で販売されるようになり、大人気商品に育ちました。
そして1999年11月。上場を機に290円に値下げしたところ、さらに爆発的人気となりました。
■経営面ではいいことは一つもなかった
突然の大幅値下げに、飲食業界はびっくりです。そりゃそうです、原価率は上がり、客単価は下がってしまうわけですから。
目の前の儲けのことだけを考えたら、なるべく高く買ってもらったほうがいいのは当然です。
経営という観点からは、1つもいいことはありません。でも「お客様は必ず喜んでくれる」という確信があったから決断しました。結果、売り上げ数量は約3倍に。ミラノ風ドリアは私たちの人気商品になり、お客様の数も激増したのです。
しかし、ミラノ風ドリアを290円にするのは、けっして簡単なことではありませんでした。
業者から仕入れていた食材を自社で生産する、海外に製造工場をつくるなど、従来の飲食店の枠組みを超えた改革による、製造直販体制(バーティカル・マーチャンダイジング)の構築。
日本よりも温暖な南半球のオーストラリアの牛乳を使うことで、ミラノ風ドリアのホワイトソースをより安く、おいしく提供できるようになりました。
そして、原材料がお客様のところに料理として届くまでのすべての流れから、ムリ・ムラ・ムダをコツコツと地道に排除していく改善。
290円で出せる仕組みをつくるには、この両方が必要だったのです。
■一番難しいことこそ一番喜ばれる
話を戻しましょう。
ポイントは、「一番売れている人気商品」の価格を一気に引き下げたこと。一番難しいことこそ、一番喜ばれるものです。
ここで少しだけ時間をとって、考えてみてください。
あなたの仕事で、一番喜ばれることは何でしょうか? 仕事だけに限りません。あなたができることで、家族や友人が一番喜ぶことは何でしょうか?
それはもしかしたら、一番難しいことかもしれません。それでも、挑戦すれば核分裂が起きたかのような、飛躍のきっかけとなるかもしれないのです。
ぜひ挑戦してみてほしいと思います。
■「いくらなら売れるか」を先に決める
私たちは、すべてにおいて「お客様に喜ばれること」を最優先にしています。
そのため、価格設定をする際も、こちらの都合はいったん置いておいて、理想の価格を決めることから始めています。
価格の決め方には、2種類あります。
1つ目は、成り行き。原価に、賃料や人件費などの諸経費、利益を上乗せして価格を決める積み上げ式の方法で、製造業で多く見られます。
「これくらい払ってもらわないと困る」という、売る側の都合で価格を決めていく方法です。利益もなるべくたくさん乗せて、できるだけ高くしたほうがいいと考えます。
もう1つは、指値。
原価計算など細かいプロセスはすっ飛ばして、まず「お客様が満足してくれそうな価格」「売れる価格」を先に決めます。それから諸経費、必要な利益を逆算して原価を決め、後で帳尻を合わせていく方法で、チェーンストアでよく見られます。もちろんサイゼリヤは、こちらです。
■価格を決めてから帳尻を合わせていく
あなた自身がお客様だと想像してみてください。
480円のミラノ風ドリアがいくらだったらうれしいでしょうか? 喜んでお金を払いたくなるでしょうか?
仮に「300円になったら、お客様は喜んで払ってくれそうだ」という結論が出たとしましょう。
これで価格は決まりました。あとはそこに向けて帳尻を合わせていくだけです。価格を安くするには具体的にどうしたらいいのでしょうか。これは3つの道しかありません。
仕入れを安くして原価を下げるか、運搬・貯蔵・加工コストを下げるか、作業のムダを省いて生産性を上げるか、そのいずれかです。
それに対するアプローチは、水平方向、垂直方向の2つがあります。
まず必要なのは、店舗数です。「チェーンストア理論」に沿って、店舗数を増やして水平展開し、以下のようにコストを下げていきます。
・一括大量仕入れで原価を安くする
・現場オペレーション以外の業務を本部に集中させて、店舗の運営コストを下げる
・すべての業務を「IE(インダストリアル・エンジニアリング)」の手法で科学して、ムリ・ムラ・ムダを省いて標準化する
店舗数が多ければ多いほど、安くておいしい料理を出すことができるのです。
■他者ができないなら自分たちでやればいい
そしてもう1つ重要だったのが、仕入れ先、調達先の問題です。
売価を決めたら、その条件に合う原料や工場、生産者などを地球上から探します。とはいえ、そんな取引先や業者は簡単に見つかるものではありません。
また、店舗数が増加するにつれて、仕入れの量が増えすぎてしまい、業者から調達できる量では足りないこともしばしばでした。
「ならば、自分たちで農場や工場をつくってしまおう」という発想に至るのは、当然のことでした。
そして行き着いた先が、「製造直販業」です。
製造直販業とは、お客様に直接料理を提供する店舗を持つ企業が、レストラン運営にとどまらず、自ら素材開発→食材の生産→加工→配送→調理までの一連の流れを垂直統合型で一貫して行う形態のことです。
製造直販の最大のメリットは、品質と価格を自分たちでコントロールできること。間に人や業者が入るほど、ムラが生じやすくなり、コストもかさんでいきます。
ですから私たちは自ら産地に赴き、素材の開発、素材の採り方、保管の仕方、加工の仕方、輸送の仕方に至るまで、「すべて」の工程に踏み入り、品質の向上とムダの削減に取り組んでいるのです。
主なところでは、福島県白河市のサイゼリヤ農場で種や土壌・栽培方法の開発研究を、オーストラリアの自社工場でソースやハンバーグの生産を、そして国内各地の自社工場で加工・毎日配送などをしています。
私たちはそれを「バーティカル(垂直)・マーチャンダイジング」と呼び、それを手段として外食業の真の産業化を目指しています。
■理想を打ち立てて、実現すると決める
サイゼリヤではわずか十数店舗の頃から1000店舗を視野に入れ(水平展開)、60年構想で製造直販体制(垂直展開)を築いてきました。さらに人材と資産を蓄積して、それに厚みを持たせてきました。
当時の私が思う「安くておいしい」を実現するには、どちらも必要だったのです。それには、60年くらいかかりそうだということもわかっていました。
しかしそれが今や実現し、1500店舗を超えました。
もちろん、壁にぶち当たることもありますが、「人のために」実現させたいと願ったことは、不思議と叶っていくものです。
必ず「つながり」の中で調和していき、エネルギーに導かれていくように……、最終的には何とかなるものなのです。
あなたが実現したいことは何でしょうか?
まずは理想を打ち立てて、実現すると決めること。そのうえで、計画を立ててみてください。
何年かかっても大丈夫。その歩む道のりは、きっと幸せなものになるはずです。
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サイゼリヤ会長
サイゼリヤ創業者。1946年兵庫県生まれ。67年東京理科大学在学中にレストラン「サイゼリヤ」開業。68年の大学卒業後、イタリア料理店として再オープン。その後、低価格メニュー提供で飛躍的に店舗数を拡大。2000年東証一部上場。2009年4月、社長を退任して代表取締役会長就任。
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(サイゼリヤ会長 正垣 泰彦)
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