理工系学部の「女子枠」実態調査2024アンケートから読み解く、24大学の「女子枠」制度の現在地と展望
PR TIMES / 2024年3月7日 15時45分
公益財団法人山田進太郎D&I財団は、2024年1月に理工系学部における「女子枠」入試を実施している大学を対象に包括的なアンケート調査を実施し、24大学から回答を得ました。調査項目は「女子枠」導入の背景や目的、効果に加えて、導入時期、応募状況、期待された効果と実現度などに焦点を当てました。また、一部の「女子枠」導入大学に対して、その具体的な取り組みや結果について聞き取り調査を実施しました。
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2023年度入試から急速に拡大している理工系学部における「女子枠」制度について、社会的な関心が高まっています。「女子枠」導入にあたって、優秀な女子学生の獲得や学部のジェンダーバランス改善、学生の多様性促進が期待される一方で、「逆差別」や「女子枠のスティグマ化(特定の人や集団に向けられる否定的なラベリングやステレオタイプ)」などの課題も浮上しています。このような課題を正確に把握し、解決に向けた対策を講じるためには、女子枠入試に関する客観的なデータやフィードバックが不可欠です。本調査は、「女子枠」入試が大学教育にもたらす影響を包括的かつ客観的に捉え、それを社会に正しく伝えることを目的としています。
■理工系学部の「女子枠」実態調査2024 結果サマリー
1.「女子枠」入試の導入時期は2023年度入試以降が9割弱、まだ黎明期
2020年度以前に「女子枠」入試を導入した大学は3校(12.5%)、2023年度以降に導入したのは21校(87.5%)。「女子枠」制度への関心が急速に高まっていることを示した。
2.ジェンダーバランス改善や多様性に期待、ハード/ソフト面整備は副次的な効果として期待
女子枠導入の目的として優秀な女子学生獲得や学部のジェンダーバランス改善、学生の多様性促進が8割以上を占めた。女子学生向けのハード/ソフト面の整備は33.3%となり、副次的な効果としての期待にとどまった。
3.応募状況について19大学中12校が定員と同数あるいは上回ったと回答(非公開等の5大学を除外)
2024年度「女子枠」入試では19大学中12校が定員を上回ったか同数、定員を下回った大学はすべて初導入の大学で、高校等への周知不足などの広報面が課題。
4.20年度入試以前導入大学では女子学生比率の向上に寄与、23年度以降入試でも一部成果
20年度以前の導入校では工学部女子学生比率が8年で10%から15%に向上した大学も。23年度以降の一部大学も優秀な女子学生獲得に成功し、「女子枠」拡充を計画。
5.偏見や逆差別との指摘への対応は必須、認知獲得のための広報活動や、入学後のサポート充実などが課題に
導入大学の半数以上が否定的な意見が寄せられたと回答し、逆差別やスティグマ化防止のために社会への説明が必要。導入初期段階の大学は認知不足や志願者不足に対処するための広報に課題。入学後のフォローアップでは物理等の補講や施設整備も課題に。
■本調査の概要
調査対象:理工系学部で「女子枠」を導入している全国の大学
回答した大学(五十音順):
愛知工科大学 / 大分大学 / 大阪工業大学 / 神奈川工科大学 / 金沢大学 / 北見工業大学 / 熊本大学 / 高知工科大学 / 山陽小野田市立山口東京理科大学 / 芝浦工業大学 / 島根大学 / 大同大学 / 電気通信大学 / 東京工業大学 / 東京理科大学 / 東北工業大学 / 富山大学 / 名古屋大学 / 新潟工科大学 / 人間環境大学 / 兵庫県立大学(工学部) / 福井工業大学 / 山梨大学 / 宮崎大学
合計24大学
調査方法:インターネット調査と郵送調査の併用、一部大学への聞き取り調査
調査時期:2024年1月4日~2月8日(聞き取り調査は2月29日まで)
■本調査の詳細
1.「女子枠」入試の導入時期は2023年度入試以降が9割弱、まだ黎明期
調査に回答した「女子枠」入試を導入している24大学のうち、2020年度以前に導入したのは3校(12.5%)、2023年度以降に導入したのは21校(87.5%)となった。この背景として、2022年6月の文部科学省通知「令和5年度大学入学者選抜実施要項」において、「多様な背景を持った者を対象とする選抜」の工夫が奨励され、その中で特に注目を浴びたのが「理工系分野における女子」の言及であったことがある。この結果、多くの大学において「女子枠」入試を導入する動きが急速に広がり、アンケート回答データでも2023年度以降に女子枠を導入する大学が急増した。一方で、「女子枠」の導入が将来的にどのような影響をもたらすか、特にSTEM分野における女性の進出にどのような変化をもたらすかは今後の継続的なモニタリングが重要となる。
質問:「女子枠」の導入時期
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2.ジェンダーバランス改善や多様性に期待、ハード/ソフト面整備は副次的な効果として期待
大学が女子枠を導入する際に最も期待していた効果は、学部の多様性と活性化(87.5%)、優秀な女子学生の獲得(83.3%)、学部のジェンダーバランス改善(79.2%)の順で多かった。「女子枠」を導入することによって、大学が質の高い女子学生を集めて、教育環境のジェンダーバランスや多様性を向上させる期待が強いことを示唆している。
一方で、入学した女子学生にとって学びやすい環境(ハード/ソフト面)や入学後のサポートに関する期待は3割程度で、副次的効果としての期待にとどまった。今後の取り組みにおいては、これらの要素も具体的に検討がなされ、女子学生が充実した学びの場を得るための環境整備が進むことが期待される。
質問:導入する際に期待していた効果
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3.応募状況について19大学中12校が定員と同数あるいは上回ったと回答(非公開等の5大学を除外)
2024年度女子枠入試の応募状況において、非公開等の5大学をのぞく19大学のうち、定員を上回る応募あるいは同数程度だった大学は12校であり、定員を下回った大学は7大学となった。定員を下回った大学はすべてて2024年度入試からの導入となっており、高校訪問やパンフレットなどによる周知等の広報活動の不足や、女子枠の定員数の問題なども原因と考えられる。「女子枠」の導入にあたっては、大学が求める人材像と合致する対象者への周知方法など、広報活動の見直しだけではなく、定員数や入学希望者のニーズに合致した導入方針の見直しを通じて、女子学生の参画を促進し、制度の定着を図る必要がある。
質問:2024年度女子枠入試の応募状況について
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4.20年度入試以前導入大学では女子学生比率の向上に寄与、23年度以降入試でも一部成果
「女子枠」入試を導入した大学においては、導入時期による成果の違いが出ている。2020年度入試以前からの導入大学では、2016年度入試の導入から8年で10%だった工学部の女子学生比率が15%となったり、卒業後、約半数の女子が大学院に進学し、意欲的な女子学生が研究面でも貢献するなど、具体的な成果が出た。
一方、2023年度以降の導入大学では、具体的な成果はまだ顕在化していない大学が多いが、当初の期待通り、優秀な女子学生の獲得には成功したため、令和7年度からは「女子枠」入試の対象となる学科・専攻を工学部において拡充し、女子枠の増加を計画している大学もある。
質問:具体的な変化や成果について所感があればご記入ください。
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5.偏見や逆差別との指摘への対応は必須、認知獲得のための広報活動や、入学後のサポート充実などが課題に
「女子枠」入試導入にあたって、大学内外からの否定的なコメント等があった大学が、45.5%と約半数を占めており、偏見や逆差別への対処として、制度の目的や必要性を社会に明確に発信し、女子枠入学者のスティグマ化を防ぐ対策が必要とされている。その他、導入したばかりの大学においては認知不足や志願者不足に対処するために、積極的で効果的な広報活動が不可欠との回答があった。
また、入学後のフォローアップにも課題があり、特に学力試験がない場合は、入学後の数学・物理の補講や専門教育導入授業の実施等、学力面でのフォローアップが必要になるケースがあるほか、女子トイレの増設やロッカールームの設置等施設の充実にも課題との回答があった。
質問:女子枠入試に関して、どんな改善点や課題があると考えていますか?
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本調査の完全版は、財団公式サイトで公開しています。
URL:https://www.shinfdn.org/posts/F7R1vmwx
■財団の今後の取り組み
2024年現在、日本ではSTEM分野で大学進学する女性の割合が依然として低いことから、STEM分野の学部における男女のジェンダーバランスがゆがみ、これが女性の進学を妨げる悪循環が生まれています。この問題への解決策として、「女子枠」入試の導入は、この悪循環の改善に寄与し、結果として性別に関係なく誰もが自分の好きなことを追求し、選択できる社会の形成につながると考えています。
当財団は、各大学がそれぞれのビジョンに基づいて多様な人材を獲得する機会として「女子枠」を活用することを支持しています。STEM分野で活躍する女性の増加につながるこの取り組みは、多様性を尊重し、学問や研究の進化に寄与するものであり、その推進が社会全体の発展につながると確信しています。同時に、女子枠に関する各大学の情報を、透明性を確保しながら魅力的な形で、生徒や教員、保護者に提供し、その意義性や効果をわかりやすく示すことが重要です。私たちは引き続き、「女子枠」入試に関する情報発信等のサポートを推進し、STEM分野における女性の活躍を推進するために尽力していきます。
■公益財団法人山田進太郎D&I財団について
誰もがその人の持つ能力を発揮し活躍できる社会の実現に寄与するために、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進する目的で、メルカリCEO山田進太郎が2021年7月に設立した公益財団法人です。
特に、STEM(理系)のジェンダーギャップに注目し、2021年より女子中学生/高校生がSTEM(理系)キャリアを前向きに検討し、積極的に自己決定するための機運を創ることを目的に奨学金事業を開始しました。2023年からは、さらに活動の幅を広げるべく、対象者となる女子生徒を取り巻くステークホルダーとなる保護者や学校等教育機関、企業、行政/省庁の皆様と連携しながら、各種STEM/理系体験イベント等を通じて若い女性の成長と社会進出を支援しています。
※STEM(S:Science / T:Technology / E:Engineering / M:Mathematics)
代表理事:山田 進太郎(メルカリ創業者、代表執行役 CEO)
設立年月日:2021年7月1日(木)
公益財団法人山田進太郎D&I財団公式ウェブサイト:
https://www.shinfdn.org/
【一般のお問い合わせ先】
公益財団法人山田進太郎D&I財団事務局
Eメール:info@shinfdn.org
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