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蛍光タンパク質を用いた高精度2色光線-電子相関顕微鏡法を開発

PR TIMES / 2020年12月23日 18時15分

~様々な疾患における超微細構造・機能解明の加速へ~

順天堂大学大学院医学研究科神経疾患病態構造学の谷田以誠 先任准教授、内山安男 特任教授らの研究グループは、光線-電子相関顕微鏡法(In-resin CLEM)に応用可能な2つの緑色蛍光タンパク質と1つの赤色蛍光タンパク質を新たに見出し、エポキシ樹脂を用いた高精度の2色光線−電子相関法(Two color In-resin CLEM)の開発に世界で初めて成功しました。これまでエポキシ樹脂を用いた高精度In-resin CLEMでは、単色の蛍光タンパク質の観察に限られていましたが、本研究成果により、2色の蛍光タンパク質をIn-resin CLEMに利用できるようになり、電子顕微鏡下で細胞間相互作用やオルガネラ(*1)間相互作用、特定タンパク質の細胞内局在などを異なる色の蛍光タンパク質で解析できるとともに、相互作用部位の超微細構造を高精度にとらえることを可能にしました。今後、疾患による神経細胞の変性の観察をはじめとして、細胞異常を伴う様々な疾患における超微細構造・機能解明の加速が期待されます。本論文はScientific Reports誌のオンライン版に公開されました。



本研究成果のポイント


光線-電子相関顕微鏡法に使用可能な2つの緑色蛍光タンパク質と1つの赤色蛍光タンパク質を発見
電子顕微鏡用超薄切片にて2色同時の蛍光観察が可能に
神経変性疾患などで細胞小器官の異常をともなう細胞のタンパク質相互作用解析や超微細構造解析の加速へ


背景
光線−電子相関法(CLEM)は、蛍光像と電子顕微鏡像を相関させる手法で、蛍光タンパク質による細胞や細胞小器官の標識により、組織・細胞内での局在(位置や量)を明らかにしながら、超微細構造を電子顕微鏡によって解析するものです。研究グループは、これまで遠赤色蛍光タンパク質を用いて、電子顕微鏡の生物試料作製にエポキシ樹脂包埋試料を用いて高精度の光線−電子相関法(In-resin CLEM)を成功させてきました。しかしながら、蛍光タンパク質を用いて、細胞内共局在や細胞内オルガネラ相互作用などを解析するには少なくとも2色の蛍光タンパク質を用いたIn-resin CLEMが必要であり、これまで2色の蛍光タンパク質によるエポキシ樹脂を用いた高精度Two color in-resin CLEMは誰も成功していませんでした。そこで、今回研究グループは、電子顕微鏡用試料作成時に蛍光を保持できる蛍光タンパク質を複数見出すことができれば、電子顕微鏡レベルの試料(100nm厚の超薄切片)においても、2色の蛍光タンパク質によるTwo color In-resin CLEMが可能になると考え、本研究を行いました。

内容
電子顕微鏡のための生体試料作製には、超微形態を保持するために、化学薬品グルタルアルデヒド等によるタンパク質の化学固定、四酸化オスミウムによる生体膜の染色、エタノールによる脱水、エポキシ樹脂への包埋・重合反応を行います。これらの処理により、ほとんどの蛍光タンパク質は蛍光を発する能力を失ってしまいます。そこで、研究グループは、蛍光能が最も消失する四酸化オスミウムによる生体膜の染色直後に、細胞内で蛍光を保持する蛍光タンパク質を探索したところ、細胞の処理条件を改良することで、新たに2つの緑色蛍光タンパク質(CoGFPv0*2とmWasabi*3)、1つの遠赤色蛍光タンパク質(mCherry2*4)が蛍光能を保持できることを見出しました。この条件では、従来からよく用いられる蛍光緑色タンパク質(mEGFP*5)も弱い蛍光を保持できますが、今回新たに見出した蛍光タンパク質のCoGFPv0とmWasabiは、それよりも明るい緑色蛍光を保持できることがわかりました(CoGFPv0はmEGFPの約11倍、mWasabiはmEGFPの約6.5倍)(図1)。また、遠赤色蛍光タンパク質mCherry2は研究グループが以前報告していた遠赤色蛍光タンパク質mKate2(*6)よりも約3.5倍も明るい赤色蛍光を保持できることがわかりました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/251/resize/d21495-251-703174-3.jpg ]

そこで、これらの蛍光タンパク質を発現している細胞を、電子顕微鏡用試料作製に汎用的に用いられているエポキシ樹脂包埋処理を行い、電子顕微鏡観察に使う100nm厚の超薄切片(ヒト細胞の60~250分の1の厚さ)を作製し、蛍光顕微鏡で観察しました。その結果、CoGFPv0あるいはmWasabiを発現している細胞内に緑色蛍光が、mCherry2を発現している細胞に遠赤色蛍光が観察されました。また、同じ超薄切片はそのまま電子顕微鏡観察が可能でした。


次に核局在CoGFP、小胞体局在mWasabi、ミトコンドリア局在mCherry2、小胞体局在mCherry2を作製し、2色の蛍光タンパク質を使ったin-resin CLEMが可能かどうかを検証しました。その結果、核局在CoGFPと小胞体局在mCherry2(図2)、核局在CoGFPとミトコンドリア局在mCherry2、小胞体局在mWasabiとミトコンドリア局在mCherry2(図3)、のいずれの組み合わせでも、エポキシ樹脂包埋試料の100nm超薄切片にて、2色の蛍光による標的細胞小器官への局在を同時に観察することに成功しました。以上の結果より、同一の超薄切片で電子顕微鏡観察も可能であり、培養細胞で難しいとされる小胞体の膜形態の観察もできたことから、2色の蛍光タンパク質を用いたエポキシ樹脂包埋試料のTwo color In-resin CLEMを世界で初めて成功させました。


[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/251/resize/d21495-251-335208-5.jpg ]

今後の展開
医化学、組織・細胞生物学分野において、タンパク質の組織内・細胞内局在を観察し、研究する上で、蛍光タンパク質は必須のツールといえます。本研究成果をもとに、複数の種類の細胞からなる特定の組織内のがん細胞と正常細胞の色分けができるようになり、少数のがん細胞であっても容易に細胞を判別できるため、より初期のがん浸潤過程を電子顕微鏡レベルで観察できる可能性があります。また、細胞小器官であるミトコンドリアやリソソームの異常は神経変性疾患にかかわる神経細胞変性や神経細胞死などにつながる一因となりますが、脳組織内でグリア細胞と神経細胞を区別しながら、神経細胞内の細胞小器官の異常を解析することが可能になります。
今後は組織レベルでの、2色の蛍光タンパク質による細胞、オルガネラやタンパク質の標識を行ない、さらに異常な細胞の電子顕微鏡レベルの解析ができるようになることが期待されます。特にTwo color in-resin CLEMでは、脳における神経細胞間連携や、神経細胞とグリア細胞間連携の解析、他の多くの組織における細胞間連携の解析が可能となることから、神経変性疾患の病態解明にむけた脳・神経におけるTwo color in-resin CLEM解析を目指す予定です。

用語解説
*1 オルガネラ: 細胞内の構造体(細胞小器官)のうち、核、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、リソソーム、エンドソーム、オートファゴソーム、など膜により特徴的な構造・機能を持つもの。
*2 CoGFPv0 (CoGFP variant 0): ウミサボテンから単離された緑色蛍光タンパク質CoGFPの単量体型に改変された亜種、酸性条件下でも蛍光が強く保持される。日本の研究グループが単離。
*3 mWasabi: スターポリープまたはグローブポリープと呼ばれるウミトサカから、単離された青緑色蛍光タンパク質、cFP484、から改変された単量体型緑色蛍光タンパク質。Wasabiと名前がついているが、カナダの研究グループが改良した。
*4 mCherrry2: イソギンチャクモドキから単離された、DsRed、から改変された単量体型遠赤色蛍光タンパク質。Wasabi同じ、カナダの研究グループが改良した。同系列の変異体には蛍光色に併せてApple, Orange, Plum, Grape, Tomato, Honey, Strawberryなど食べ物のネーミングが多い。
*5 mEGFP: ノーベル賞受賞者の下村博士により、オワンクラゲから、世界ではじめて発見された緑色蛍光タンパク質、GFP、を改変し、単量体で緑色蛍光をより明るくした改良型GFPの一つ。
*6 mKate2: サンゴイソギンチャクから単離された、eqFP578、を改変した単量体型遠赤色蛍光タンパク質。ロシアの研究グループが改良し、mKate2の前身のタンパク質はカチューシャと名付けられていた。

原著論文
本研究はScientific Reports誌に公開(2020年12月14日付)されました。
タイトル: Two-color in-resin CLEM of Epon-embedded cells using osmium resistant green and red fluorescent proteins.
タイトル(日本語訳): オスミウム酸耐性の緑色および赤色タンパク質を用いたエポン樹脂包埋生体試料のin-resin CLEM
著者:Isei Tanida1, Yoko Furuta1, Junji Yamaguchi1,2, Soichiro Kakuta1,2, Juan Alejandro Oliva Trejo1, and Yasuo Uchiyama1
著者(日本語表記):谷田以誠1、古田陽子1、山口隼司1,2 、角田宗一郎1,2、オリバ トレホ・アレハンドロ1 、内山安男1
著者所属: 順天堂大学大学院医学研究科神経疾患病態構造学講座、2 順天堂大学大学院医学研究科形態解析イメージング研究室
DOI: 10.1038/s41598-020-78879-x

本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「老化メカニズム解明・制御プロジェクト」研究費 (JP19gm5010003, 20gm5010003)、日本学術振興会(JSPS)科研費(JP15K12749、JP20H05342、JP20K22744)、順天堂大学老人性疾患病態・治療研究センター研究奨励費の支援を受けて、実施されました。

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