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アメリカの「UFO」は西部地域で多く目撃? 真面目な研究から見えてきたもの

sorae.jp / 2024年3月10日 11時0分

「UFO」というとオカルトか何かのイメージが強いかと思われますが、実際には国防や科学研究といった真面目な場でも議論の対象となります。ただし、UFOという用語に付きまとうイメージから、科学的な研究は敬遠される傾向にありました。

ユタ大学のR. M. Medina氏とS. C. Brewer氏、およびアメリカ国防総省のS. M. Kirkpatrick氏は、アメリカ合衆国で目撃された12万件以上に渡るUFOの目撃情報を分析し、UFOが現れる場所には地域的な偏りがあることを発見しました。特に西側地域は、UFOが目撃されるホットスポットです。この偏りは、目撃情報のほとんどが実際に何らかの飛行物体を目撃している可能性が高く、全くの捏造やデマはそれほど多くはないことを示唆しています。個々の正体は相変わらず “未確認” であるものの、その地域の特性から航空機である可能性が高いかもしれません。

【▲図1: UFOは宇宙人の乗り物というイメージが強いですが、そのことが却って真面目な研究を阻害してきた側面もあります。 (Image Credit: National Archives, NATIONAL ARCHIVES, U.S. Air Force) 】【▲図1: UFOは宇宙人の乗り物というイメージが強いですが、そのことが却って真面目な研究を阻害してきた側面もあります(Credit: National Archives, NATIONAL ARCHIVES, U.S. Air Force)】 ■UFOは真面目な科学研究の対象

「UFO」という用語を聞くと、多くの人は「宇宙人が地球へやってくるのに使う宇宙船」であると思い浮かべるでしょう。しかし、本来UFOとは “Unidentified Flying Object (未確認飛行物体)” の略であり、正体が判明していない空中の物体に割り当てられる航空軍事用語です。UFOという言葉に超常現象的なイメージが定着していることや、光などの物体ではない自然現象に由来することもあることから、2020年頃からは代わりに「UAP」という用語が使われるようになってきました。これは “Unidentified Anomalous Phenomenon (未確認異常現象)”(※)の略です。ただ、日本の一般向けにはまだあまり馴染みがない用語であることから、本記事では元の文でUAPとされた部分を含めて以下「UFO」と呼称します。

※…UAPはUnidentified Aerial Phenomenaの略とされることもありますが、今回の記事では論文の表現と合わせました。

実際のところ、UFOの正体を探ることは重要です。UFOの大半は金星や人工衛星など、容易に説明可能な現象の誤認であると考えられていますが、一部にはステルス機や偵察機のような軍事的に公にされていない物体が含まれているかもしれないからです。実際、2023年にアメリカやカナダ上空で未確認の高高度気球が目撃され、最終的に撃墜される事件が発生しましたが、これは中国が偵察用に上げた気球であるとアメリカ政府は主張しています。

このような国防上の背景から、2020年にアメリカ国防総省は「UAPタスクフォース」を立ち上げ、UFOの正体を探るための本格的な情報分析を開始しました。アメリカのUFOに関する分析研究は、現在では国防長官府が管轄する「全領域異常解決局 (AARO: All-domain Anomaly Resolution Office)」が担当しています。なお、今回の論文の著者の1人であるKirkpatrick氏は、2023年12月までAAROの初代所長を勤めており、2024年1月にはScientific American誌に「アメリカ政府のUFOハンターとして、UFOと宇宙人を結びつける証拠は見つからなかった」とする論説を掲載しています。

皮肉なことに、UFOと軍事機密が関連しているという一番分かりやすい例はアメリカで発生しており、いわゆる「ロズウェル事件」として知られています。ロズウェル事件は、宇宙人の乗り物と関連付けられるまでに数十年という時間差があるなど、リアルタイムでUFOと軍事機密が関連付けられた訳ではありませんが、一方で当時の極秘作戦 (ソ連の核実験の監視) に絡んでいたことから正体がごまかされて説明された背景もあるため、最も著名な話としてしばしば例示されます。

ただし、このような流れに対して「アメリカ政府がUFOの存在を認めた」という主旨の報道や反応があったように、UFOという用語のイメージと実態の齟齬は大きな問題となっています。これは同時に、研究者が「UFOの研究をしている」と自己紹介した時の反応が容易に想像されるように、UFOに対する科学的研究が躊躇されることにも繋がります。国防や軍事に関連したものばかりではなく、例えば球電 (※) のような極めて珍しい自然現象がUFOとして目撃されているのかもしれません。もしもUFOという言葉のイメージが原因で目撃情報が分析されなければ、珍しい自然現象に関する研究も滞ってしまうでしょう。

※…通常は雷雲活動と関連付けられる、大気中を発光しながら移動する球状の物体。その正体はよくわかっていません。

■UFOの目撃情報には地域的偏りがあると判明

Medina氏ら3氏は、UFOの目撃情報に地域的な偏りがないかどうか、あるとすればその原因は何かを探る研究を行いました。個々のUFO目撃情報に信頼を置けるかどうかは極めて不明確ですが、仮に全ての報告が全くのデタラメで信用できないという場合には、目撃情報に地域的な偏りはほとんど現れないでしょう。その一方で、UFOは確かに目撃されているものの、その正体が目撃者にとって分からないものであれば、何らかの地域的な偏りが生まれる余地があります。

今回の研究では、「全国UFO報告センター (NUFORC; National UFO Reporting Center)」に2001年から2020年にかけて報告された12万件以上のUFO目撃情報について、その地理的な分布を分析し、説明可能な偏りの原因があるかどうかが検証されました。NUFORCは非営利組織が運営するボランティアベースの団体であるため、目撃情報が信頼できるかどうかは未知数です。とはいえ、NUFORCでは金星やスターリンク衛星のような簡単に説明可能なものや、デマや捏造である可能性のある情報については可能な限り排除しています。また、地理的分布で目撃情報の信頼性を測るにはこれくらいのサイズのデータセットが必要となるものの、他に研究利用が可能なUFO目撃情報のデータがないという問題もあります。

【▲図2: UFOの目撃数を郡単位で分析したもの。西側、北東部の端、孤立したコミュニティに目撃数の多いホットスポットがあります。 (Image Credit: R. M. Medina, et al.) 】【▲図2: UFOの目撃数を郡単位で分析したもの。西側、北東部の端、孤立したコミュニティに目撃数の多いホットスポットがあります(Credit: R. M. Medina, et al.)】

3氏は、12万件の目撃情報を郡単位の行政区画で分類しました。そして、雲や森林の量、公害の程度、空港や軍事施設の位置など、UFOの目撃に影響を与える可能性のある様々な因子と組み合わせることで、最も影響を与えると推定される条件に付いて検討しました。その結果、UFOの目撃情報が多いのはアメリカの西部、北東部の端、および地理的に孤立したコミュニティであることが分かりました。

もちろん「西海岸やロッキー山脈が宇宙人に人気の観光スポットだから」という可能性は低いでしょう。3氏はこの地域の偏在性の原因を以下のように推定しています。

1. 飛行物体を妨げる森林や雲、光害が少ない地域であること。
2. 気候が安定しており、1年中野外レクリエーションが活発なこと。
3. 空港や軍事施設が近くにあること。
4. ロズウェルやエリア51など、UFO文化と縁が深い地域があること。

3番目の「空港や軍事施設が近くにあること」は特に重要です。つまり、旅客機や戦闘機のような、実在する何らかの飛行物体を目撃した時、その人にとっては正体が未確認であるためにUFOだと報告されたケースが考えられるためです。UFO目撃談は映像や写真ではなく記憶に頼ることもあるため、実際の飛行計画と照合することが困難なケースもあるでしょう。

また、UFOに関心がある人々が多い地域で目撃例が多いことも重要でしょう。UFOを目撃したいという動機があれば、それだけ空を見上げて飛行物体を探そうとするからです。また、そもそもUFOの目撃例がNUFORCに報告されなければ目撃情報としてカウントされないため、その意味でもUFOに関心があるかどうかは重要でしょう。

■UFO研究は始まったばかり

今回の研究では、UFOの目撃情報には地域的な偏りがあることを示しましたが、UFOの正体については相変わらず “未確認” としています。この研究からわかるのは、目撃者の多くは実際に飛行物体を目撃している可能性が高く、完全なデマや捏造であるものは多くないということだけです。

ただし、それ以上の正体を絞り込むことは難しいと考えられます。確かに、目撃されたUFOのほとんどは普通の航空機を見間違えた可能性が高いと考えられます。空港や軍事施設の近くは航空機が集まるだけでなく、離着陸時は高度が低くなるためより目撃される可能性が高いでしょう。その他の可能性としては観測用気球、無人航空機 (ドローン) 、閃光弾、夜間照明なども考えられます。とはいえ、ボランティアベースの情報では全ての正体を確認するのには限界があるでしょう。

3氏は、これまでUFOの科学的な研究自体が敬遠されてきたこと、その結果として政府などの信頼できる組織が集計したUFOに関する情報の不足が、今回のような研究の障害になっていると考えています。しかし、米国政府が集計したものだけに限ってもUFOの事例は510例あり、半数以上は適切な説明がされていません。国防や科学研究の観点では、この数値はより十分な検討が必要なことを示唆しているでしょう。航空機など普通の物体で説明がつく大部分と、小数の “宇宙人の乗り物候補” を排除した後に残ったものについては、国防上重要な飛行物体であったり、球電などの稀な科学的現象である可能性が十分に考えられるためです。より信頼できる情報の集計は、UFOの正体を突き止めるのに役立つはずです。

また、3氏はこれとは別に、時期によってUFO目撃の報告数がどのように変化するのかにも関心を寄せています。例えば、UFOの目撃数はここ数年増加傾向にありますが、これはスターリンク衛星の打ち上げや個人用の無人航空機の普及などによって、空を飛び交う物体の数が増加していることが原因であると考えられます。

一方で、UFOが話題になると過去にさかのぼって目撃情報が報告される場合もあります。例えば、ロズウェル事件が宇宙船の墜落であるとして話題になった1980年代には報告数が増加する傾向にありました。では、2023年の公聴会の直後には目撃情報が増えたのでしょうか?『Xファイル』のようなドラマが人気になった場合はどうでしょうか?UFOの正体をある程度取捨選択するためには、こういったバイアスも考慮しないといけないでしょう。

 

※2024年3月12日16時更新:UAP(Unidentified Anomalous Phenomenon)の日本語訳を訂正し注釈を追加しました。

Source

R. M. Medina, S. C. Brewer & S. M. Kirkpatrick. “An environmental analysis of public UAP sightings and sky view potential”. (Scientific Reports) Lisa Potter. “The West is best to spot UFOs”. (The University of Utah) Sean Kirkpatrick. “Here’s What I Learned as the U.S. Government’s UFO Hunter”. (Scientific American)

文/彩恵りり

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