「選手からすれば最も説得力がある」辻発彦が明かす広岡達朗独自の指導法
日刊SPA! / 2024年3月26日 15時51分
『92歳、広岡達朗の正体』が発売中
現役時には読売ジャイアンツで活躍、監督としてはヤクルトスワローズ、西武ライオンズをそれぞれリーグ優勝・日本一に導いた広岡達朗。彼の80年にも及ぶ球歴をつぶさに追い、同じ時代を生きた選手たちの証言や本人談をまとめた総ページ数400の大作『92歳、広岡達朗の正体』が発売直後から注目を集めている。
巨人では“野球の神様”と呼ばれた川上哲治と衝突し、巨人を追われた。監督時代は選手を厳しく律する姿勢から“嫌われ者”と揶揄されたこともあった。大木のように何者にも屈しない一本気の性格は、どこで、どのように形成されたのか。今なお彼を突き動かすものは何か。そして何より、我々野球ファンを惹きつける源泉は何か……。その球歴をつぶさに追い、今こそ広岡達朗という男の正体に迫る。
(以下、『92歳、広岡達朗の正体』より一部編集の上抜粋)
〜西武ライオンズ編 辻発彦 後編〜
◆辻を一流に育て上げた広岡の金言
プロ二年目の1985年、近鉄との開幕戦のセカンドスタメンは、巨人から移籍の鈴木康友。第二戦三戦は行沢久隆がスタメン。第四戦でやっと辻発彦がスタメンに名を連ねた。
後楽園球場での日本ハム戦、先発は本格派の田中幸雄だ。
「ここはチャンスだ。何でもいいので結果を残さなければ」。セカンド三番手だった辻は、どんなことをしてでもこのチャンスをもぎ取る覚悟でいた。気合いを入れ直してベンチからグラウンドに飛び出した。
この試合で食らいつくように2本の内野安打を放ち、次の日もスタメンに名を連ねた。ライバル二人に負けないアピールポイントは足。自慢の足を生かしたプレーを念頭に置きつつ、毎日1本ヒットを打つつもりで試合に臨み、がむしゃらにプレーした。そうしてコツコツと結果を残していく。しかし、まだプロの球に合わないのか思ったように打撃が向上していかない。
きっかけは突然やってくる。
7月10日、大阪球場での南海戦の試合前のこと。
難波の繁華街ど真ん中にある大阪球場は“すり鉢球場”とも呼ばれ、両翼87メートル中堅115.8メートルとかなり狭い。おまけに内野スタンドの傾斜が三七度もあるため、打球音が銃撃音にも匹敵する程の反響があり、心理的にも投手は投げづらく打者有利の球場でもあった。
辻が試合前の打撃練習を終え、バッティングゲージを出たところで広岡に呼び止められた。
「バット短く持って打て」
「はあ」。あまりに唐突すぎて返事に困った。
「お前はインコースに強いから、バットを短く持ってベースにくっ付いて全部引っ張れ」
このとき辻は「そうですか」程度にしか感じていなかったが、このアドバイスが金言だと知ったのは試合後だった。
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