消費税廃止も選択肢。代わりの財源は相続税などの増税で
LIMO / 2019年8月11日 20時20分
消費税廃止も選択肢。代わりの財源は相続税などの増税で
消費税をいきなり廃止するのは弊害が大きいが、少しずつ税率を下げるなら選択肢だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。
消費税を廃止しても景気や所得への影響は小
消費税の増税が近づいていますが、「消費税なんて廃止してしまえば良い」と考えている読者も多いでしょう。そこで今回は、消費税を廃止したら何が起きるのかを考えてみることにします。
まずは、一気に消費税を廃止したら何が起きるのでしょうか。「我々の買い物が消費税抜きで行えるようになるので、我々の懐が暖かくなり、消費が増え、景気が良くなる」と考える読者も多いでしょう。しかし、そう簡単なものではなさそうです。
消費税は年間18兆円程度ありますから、これを一気に廃止するとなると、巨額の減税で景気が過熱してインフレになります。そうなると、日銀が金融の引き締めを行って景気をわざと悪化させ、インフレを押さえ込もうとします。
つまり、本来であれば税金が減って景気が良くなるはずのところ、その効果の多くを日銀が消し去ってしまうわけです。
これを避けるためには、何回かに分けて少しずつ税率を下げていき、最後にゼロにする、ということが必要でしょう。それならば、景気の過熱を招くことなく、日銀の引き締めを招くことなく、消費税を廃止することができるはずです。
消費税を廃止して財政赤字を放置するのか
消費税を廃止して、そのまま他の税を増税しなければ、財政赤字が拡大します。最近はMMTという新理論(財政赤字は気にしなくて良い)が話題となっていますが、やはり財政赤字は問題です。
景気の好調を維持できるのであれば、財政赤字は小さい方が良いに決まっています。不況期には景気対策の減税は必要でしょうし、増税は景気を悪化させないように慎重に行われる必要がありますが。
というわけで、消費税を廃止するならば、景気に配慮しながらも他の税を引き上げる必要があるでしょう。
そもそも、なぜ消費税なのか
財務省のホームページ によると、消費税率を引き上げる理由としては、現役世代のみならず高齢者世代にも広く負担してもらえるから、景気に左右されずに安定的な税収が見込めるから、という理由が記されています。しかし、これはいずれも疑問です。
消費税率が上がると消費者物価が上がるので、年金の物価スライド(物価が上がると高齢者が受け取る年金額が増える制度)によって年金額も増えます。したがって、高齢者は消費増税による支出増の一定部分を年金受取額の増加でカバーされることになり、やはり消費税は主に現役世代に実質的に負担される税だということになるわけです。
今ひとつの、消費税は税収が景気に影響されにくいという点は、その通りでしょうが、それは良いことなのでしょうか。むしろ所得税は「累進課税なので、景気が良くなって人々の所得が増えると所得税が大幅に増えて景気の過熱を防ぎ、景気が悪化すると所得税が大幅に減って消費の落ち込みを和らげてくれる」という長所を持っていて、消費税にはそれがない、ということではないでしょうか。
メリットが特に認められない一方で、貧しい人も金持ちと同率で負担させられて負担感がある、等々の問題を指摘する声もあります。
それなら、消費税を廃止して、他の税を増税しよう、というのも一つの選択肢だと、筆者は考えています。
増税するなら相続税と固定資産税
増税の候補として、筆者が最も重視するのが相続税です。夫婦間はともかくとして、子が親の遺産を相続したのは幸運によるものですから、努力によって得た所得に対する税より高いのが当然でしょう。
公平の観点、貧富の格差の是正、といったことのみならず、痛税感が少ないこと、景気への影響が少ないこと、なども消費税と比べて大きなメリットでしょう。
特に、筆者が強く主張しているのが、配偶者も子も親もいない被相続人の財産を兄弟姉妹が相続する際に高い税率を課すことです。税率を100%にしても良いかもしれません。
配偶者や子が相続する時と比べると、兄弟姉妹は「棚からボタ餅」でしょうし、被相続人の「相続させたい」という思いも少ないでしょうから、税率が高くても良いでしょう。
子がいない高齢の被相続人というのは、他人の子が払った年金保険料を原資として年金を受け取っていた人々です。そうであれば、残った分くらいは国庫に返納しても良かろう、という判断もあると思います。
実質的なメリットも大きそうです。一生独身の人、結婚しても子がいない夫婦が増えていますから、税法を改正してから数十年経てば巨額の相続税収入が見込めるかもしれません。
筆者が今ひとつ主張しているのは、固定資産税の増税です。東京を地方と比べて住みにくくすることで、東京一極集中を是正しよう、という発想です。
東京から人が出て行けば、大災害の際のリスクが軽減されるでしょうし、地方創生にも資するはずです。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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