「金融リテラシー」は上昇傾向。それでも低い日本…その背景に「日本人の美徳」
LIMO / 2019年8月21日 20時45分

「金融リテラシー」は上昇傾向。それでも低い日本…その背景に「日本人の美徳」
日本人には、「お金は汚い」「お金儲けは悪いこと」というイメージを持つ人が少なくなく、お金の話をタブー視する傾向があります。「清く、貧しく、美しく」という発想が、戦後の復興期やバブル崩壊後の日本を支えてきた一面もあり、日本人の美徳であるとも考えられます。
しかしながら、多くの金融商品があふれ、金融詐欺が横行し、老後の生活資金確保が重要視されている昨今、お金の知識や判断力(金融リテラシー)は、生きていく上で極めて重要です。日本人は一般的に低いと言われる「金融リテラシー」について見ていきたいと思います。
金融リテラシーって何?
そもそも、「金融リテラシー」とは具体的に何なのでしょうか?金融庁では、「最低限身に付けるべき金融リテラシー」(※1)を以下のように定義しています。
① 家計管理(収支管理の習慣化)
② 生活設計(ライフプランの明確化とライフプランを踏まえた資金確保の必要性の理解)
③ 金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択
・金融取引の基本としての素養(契約の基本姿勢の習慣化等)
・金融分野共通(金利、為替、リスク・リターン、コスト等の理解)
・保険商品(カバーすべき事象と必要額の理解)
・ローン・クレジット(ローン・クレジットの理解と適切な利用)
・資産形成商品(リスク・リターン、分散効果等の理解)
④ 外部の知見の適切な活用(金融商品を利用するにあたり、外部の知見を適切に活用する必要性の理解)
金融リテラシーは上昇傾向?
上記の「最低限身に付けるべき金融リテラシー」を踏まえ、金融広報中央委員会(事務局・日本銀行)では、「金融リテラシー調査2019年」(※2)として、18歳以上の個人の金融リテラシーの現状を把握するためのアンケート調査を実施しました。2016年に続く2度目の実施で、日本の人口構成とほぼ同一の割合で収集したインターネットによるアンケート調査です。
上述の分野の正誤問題の正答率は、全体で56.6%となっており、前回(2016年)の55.6%より1%ポイント上回りました。
各年齢層の正誤問題の正答率(カッコ内は前回調査数値)
18-29歳:42.7%(42.9%)
30代:50.9%(51.1%)
40代:55%(54.5%)
50代:60.4%(60.7%)
60代:64.4%(63.3%)
70代:64.8%(61.4%)
もっとも正答率が上昇したのは70代となっています。一方で、20~30代の正答率は下落しています。もともと、年齢階層が上がるほど金融リテラシーは高い傾向にありましたが、その差が拡大していると言えます。
総務省統計局の「家計調査報告(貯蓄・負債編)―2018年(平成30年)平均結果―(二人以上の世帯)」(※3)によると、2人以上世帯の貯蓄現在高の平均値は1752万円ですが、世帯主が40歳未満の世帯の貯蓄現在高が600万円であるのに対し、70歳以上では2249万円となっています。
また、負債現在高の平均値は558万円ですが、世帯主が40歳未満の世帯の負債現在高が1248万円なのに対し、70歳以上では104万円となっています。
若い世代は、これから貯蓄を積み上げ、今後も負債の返済が必要です。若いうちから、しっかりとした金融リテラシーを身に付けることが大切だと感じます。
それでも日本の金融リテラシーは低い?
前回調査よりも上昇傾向にある金融リテラシーですが、他国と比較するとどうなのでしょうか。(表「日本と海外の金融リテラシー比較」を参照)
アメリカやOECDの同種の調査と比較すると、金融知識に関する設問の正答率や、お金について望ましい行動(支払い期日の順守、等)・考え方(消費より将来の備えを重視、等)をした割合は、日本の方が下回っていることが分かります。「日本人の金融リテラシーが低い」という印象が、調査により実証されてしまいました。
「金融教育を学校で受けた人の割合」は、アメリカ21%に対して日本は7%と低水準となっています。日本における金融教育の重要性は以前から指摘されていますが、キャッシュレス化により実際の「お金」に触れる機会も少なくなる中、より一層、家庭や学校教育において「お金」について学ぶ機会が必要であると考えます。
また、アメリカと比べて「借り過ぎと感じている人の割合」が低いことや、「緊急時の金銭的備えがある人の割合」が高いことは、両国の国民性が表れていると言えるでしょう。
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日本と海外の金融リテラシー比較(「金融リテラシー調査 2019年」を基に著者作成)
マネープランの重要性
金融リテラシー調査の個別項目の中で、とくに気になったのは、「生活設計」に関する項目です。「人生の3大費用」である、「子どもの教育費、住宅の購入費用、老後の生活費」についての認識と準備状況を見ると、必要額の認識をしている人が約半数、資金確保できている人は2~3割となっています。(表『「人生の3大費用」の認識と準備状況』を参照)
拡大する(/mwimgs/3/9/-/img_392e45aa1f8c083538b812d24b0620f919009.png)
「人生の3大費用」の認識と準備状況(「金融リテラシー調査 2019年」を基に著者作成)
長期的な人生設計(ライフプラン)に基づく資金計画を、「マネープラン」と呼びます。ライフプランは、どんな人生を送りたいのかを具体化したものです。結婚したいのか、子どもは何人欲しいのか、どこに住みたいのか、休日はどんな風に過ごしたいのか、何歳まで働きたいのか、老後はどう過ごしたいのか等々。
そして、そのライフプランの実現のためには、お金が、いつ・いくら必要なのか、というマネープランを策定しておくことが必要です。マネープランを策定した結果、場合によっては、ライフプランを見直す必要に気が付くこともあります。「老後2,000万円必要問題」が話題になりましたが、まずは、必要額と現状をしっかりと理解することが大切です。
おわりに
一般的に、日本人の金融リテラシーは、比較した幾つかの先進国に比べ、低いと言わざるを得ません。一方で、金融リテラシーが高い人には、情報を頻繁に見ている、計画をたてている、他の商品と比較している、相談している、商品性を理解したうえで購入している、等の特徴がみられます。
結果として、金融トラブルが少なく、借り入れの負担感が低く、経済ショックへの耐性も強い傾向があることも明らかになりました。
自分や家族の将来のためにも、金融トラブルから身を守るためにも、本記事が、家族でお金について話し合うきっかけとなり、金融リテラシーの向上につながれば幸いです。
【参考】
※1「最低限身に付けるべき金融リテラシー」金融庁
※2「金融リテラシー調査 2019年(https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/literacy_chosa/2019/)」金融広報中央委員会
※3「家計調査報告(貯蓄・負債編)―2018年(平成30年)平均結果―(二人以上の世帯)」総務省統計局
外部リンク
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